『Face to Face』インタビュー
雨のパレード、新たな環境で挑んだ『Face to Face』の自由な音作り 「自分にしか歌えない曲じゃないとみんなに届かない」
雨のパレードがニューアルバム『Face to Face』を完成させた。蔦谷好位置を共同プロデュースに迎えた『BORDERLESS』に続く今年2枚目のアルバムは、コロナ禍に見舞われた未曾有の1年の様々な経験を経て、バンドの本質を見つめ直し、より自由度高く作り上げられた作品となっている。ホームレコーディングの重要性が増し、歌詞ではSNSの誹謗中傷からすぐ側にいる大切な存在にまで言及した本作は、2020年のドキュメント的な側面もあると言えよう。12月25日には久々の有観客ライブを控えるメンバー3人に話を聞いた。(金子厚武)
「思ってもみなかったことを言い当ててくれるのが音楽」
ーー『Face to Face』は今年2枚目のアルバムで、コロナ禍による様々な影響を受けてのリリースでもあると思いますが、昨年末に『BORDERLESS』の取材をした時点で、福永くんが「すぐに次の作品を作りたい」と言っていたのを覚えていて、有言実行だなと。
福永浩平(以下、福永):『BORDERLESS』に入ってる蔦谷さんが関わってない曲って、デモの段階では亮ちゃん(是永亮祐)がいる頃の曲が多かったんです。『BORDERLESS』を作り終えて、新しい制作方法をすごく楽しめていたので、今度は0から3人で、より柔軟に作るということに対して好奇心がすごく大きかったんだと思います。
ーー以前はある意味アナログな、メンバーだけの音にこだわっていたけど、そこを解放してライブでも同期を使うようになった。その延長で、もう一度0から3人でやってみようと。
福永:『BORDERLESS』のツアーを途中で中止する形になってしまい、何をしたらファンのみんなに喜んでもらえるかをいろいろ考えたときに、やっぱり音源を届けるのが一番なんじゃないかと思って。僕らとしても何か目標に向けて動きたかったし、今年中にもう1枚出すっていうのは、意味のあることなんじゃないかなって。
ーー前作に続いてプロデューサーを迎えるのではなく、3人でやりたいというのはその時点で決めていたのでしょうか?
福永:そこはそんなに決めてなくて。制作の流れで今回もプロデューサーをつけた方がよさそうであれば、それを拒否するつもりはなかったけど、コロナの状況になって、それぞれが家に閉じこもって自分と向き合う時間ができて、自然とメンバーだけでやるのがしっくり来たというか。今年は外部の方と仕事をするみたいな雰囲気でもなかったですし。ただ、結果的にはそれがいい影響を及ぼして、僕らの表現したかったものがより純粋な形で作品になったんじゃないかと思います。
ーーツアーが中止になってしまったことに関しては、『BORDERLESS』というアルバムがライブを意識して作られた作品だっただけに、思うところは大きかったのではないかと。
福永:おっしゃっていただいた通り、僕らはもともと音源重視のバンドではあったと思うけど、バンドを続けて行く中でライブの重要性をすごく感じるようになって、去年はお客さんと繋がるライブの心地よさにもすごく気付けたので、今年のツアーが中止になってしまったのは、もちろんショックではありました。ただ、さっき「自分と向き合う時間があった」と話したように、この期間で「どういう音楽が届くんだろう?」というのを改めて考え直すことができて。『BORDERLESS』のときは、みんなで歌える曲を意識したんですけど、でもやっぱり僕にしか歌えない曲じゃないとみんなには届かないんじゃないかと思ったし、自分が思ってても言えないことを言ってくれたり、思ってもみなかったことを言い当ててくれるのが音楽だと思ったので、今回はそういうことを意識しながら取り組めました。
大澤実音穂(以下、大澤):福永も言った通り、去年はライブの重要性にすごく気付けた年で、「Summer Time Magic」や「BORDERLESS」では、みんなで歌ったりコール&レスポンスをしたり、お客さんと一緒にライブを作っていく喜びを強く感じて。そういうアルバムを引っ提げてのツアーを最後までやり切れなかったことは、個人的には結構つらかったです。自粛期間中もそんなに落ちることなく楽しめていたつもりだけど、やっぱりツアーをやり切れなかったことでどこかモヤモヤしていて。でも「アルバムを作ろう」となったことで自分を保てたので、新しい目標ができたことはすごく大きなことでした。
山﨑康介(以下、山﨑):ツアーが中止になったのはショックでしたし、本当に未曾有の事態だったので、先の展望がまったく見えない状態で過ごさないといけないのは、結構しんどい期間ではありました。ただ、その時間を使って、これまでやりたくてもやれてなかったことをやろうと思って。鍵盤は普段スタジオに置いてたんですけど、MIDIキーボードだけどフルサイズの鍵盤を家に置いて、YouTubeを見たりしながら練習をして。和音の構成とかは、そのときの経験がアルバムにも生かされてると思います。
ーー曲作りはリモートで行ったりしたのでしょうか?
福永:僕の家に集まって、リラックスしつつ、ガーッと作りました(笑)。
ーー今までは基本スタジオで作っていたわけですよね?
福永:そうです。なので、これまでとは全然違ったんですけど、いいスピーカーもあるし、時間に制限もないし、より遊べてやりたいことがやれる環境ではありました。
「宅レコが盛んになってる中で、この作品が輝けるといい」
ーーざっくり言うと、楽器ベースからDTMベースの曲作りになったということ?
福永:そこまで自分たちの中でカテゴライズしてる感じもなくて、全部が「音」というか。フィジカルに手でも打ちますし、竿(ギター&ベース)で入れますし、わりとベースも生が多かったんで康介さんが弾いたりしながら、本当に自由にやれたというか。スタジオで録るよりも家の音の方がよければそれを使うし、スタジオでしっかり録ったものの方がよければそっちを使うし、何のエゴもなく判断できるようになったと思います。
山﨑:もともとDTMで制作する手法に興味はあったので、ある程度準備して機材は揃えていたので、わりとシームレスに移行できたかなって。やっぱり、自由度が圧倒的に広がるんですよね。選択の幅も広がるし、そういう意味では楽しんでやれました。
大澤:「Splice Sounds」っていうサンプル音源を選べるサイトで音色を選ぶと、自分のイメージにはなかった音が発見できたりして、すごく楽しくて。ビートに関しても、作った当初の音がそのまま作品になるのって、今まではそれを許せない、変に真面目なところもあったんです。でも今回は、最初に何となく「こうかな?」って作ったビートがハマったらそのまま使ったりして、ホントに自由度が増したなって。
ーー近年はGarageBandだけを使って自宅で制作するアーティストも増えて、コロナ禍はそれをさらに推し進めたとも言えますが、そういった状況に対して何か思うところはありますか?
福永:プラグインのバージョンによって、宅レコのクオリティがどんどん上がっていって、みんなきれいな音で作ることが簡単になりましたよね。ただ、カニエ(・ウェスト)のライブ一発録りみたいなゴスペルの音源を聴いたときに、バランスをちゃんと整えてなくて、結構ラフなんですけど、それがサブスクの中で光って見えて、すごく新鮮な気持ちになったんです。レコードも、レコードノイズが一緒に鳴ってるからこその心地よさがあったりするじゃないですか。今回エンジニアは「Summer Time Magic」とかでもご一緒した片岡(恭久)さんに全曲お願いしていて、片岡さんはハイファイなサウンドも作れるけど、アナログライクな質感にも理解がある方で、今回のミックスでもあえてノイズが乗ったままにした心地よさがすごくあると思って。宅レコが盛んになってる中で、一石を投じるとまでは言わないけど、この作品が輝けるといいなって。
ーー確かに、序盤の曲とかははっきりノイズが乗っていて、でもそれが温かみや独自の空気感を作り出していますよね。
福永:前まではそこを追求するのがまだ不安だったというか、「本当にいいのかな?」みたいなところもあったと思うんです。自分たちが勝手に決めた枠にハマって、クリックに合ってるドラムの方がいい、クリアに録れてる方がいい、家で録った音は使わない方がいいとか、変なこだわりがあったけど、『BORDERLESS』を経て発想がより自由になったなって。宅レコもスタジオでのレコーディングも本当にシームレスで。
大澤:宅レコでここまで録れるんだっていう驚きは今回すごくありました。
福永:Apollo(オーディオインターフェイス)を買ってみて、UADプラグインのソフトを使って、NEVE(プリアンプ)刺して、歌を録ってみたら、めちゃめちゃきれいに録れて、「こんなにいいマイクだったっけ?」みたいな(笑)。ほぼミックスまでやった状態でエンジニアさんに送ったら、「もうこれでいいんじゃない?」みたいに言われたり。もちろん、そこにエンジニアさんのカラーが入って、よりいいものになったんですけど。
山﨑:ホームプロダクトをそのまま世に出すこと自体は前々からあって、それがニュースタンダードになったということだと思うんですけど、僕はそれをそこまで意識したわけでもなくて。プログラムを書くような感じではないので、PC上で偶発的に面白くなることもあるし、その意味ではこれまでと同じように楽器を触ってる感覚に近い気がしました。
ーー具体的な曲で言うと、まずは8月にアニメ『メジャーセカンド』(NHK Eテレ)のエンディングテーマ曲にもなった「IDENTITY」が配信されました。『BORDERLESS』の流れを受け継ぎつつサウンドは作り込まれていて、『Face to Face』との中間にあるような仕上がりだなと。
福永:なるほど。この曲は1月にみんなでボン・イヴェールのライブを観に行って、あのプリズマイザーと呼ばれるボコーダーみたいなやつがやっぱカッコいいなと思って。これまでライブでは使っていたものの、音源では本格的に使っていなかったので、Aメロで使ったりしながら、それ以外にもいろいろ新たな武器を試しながら作った曲です。
ーープリズマイザーを使うのは初なんでしたっけ?
福永:『Change your pops』の「speech」っていうインタールード的な曲で使ってたんですけど、ちゃんと歌詞を載せてコード進行もしっかりあるのは初めてです。オートチューンとかも入れて、より精度が増したというか……ボン・イヴェールに寄せたというか(笑)。
ーーボン・イヴェールの来日公演良かったですもんね(笑)。
福永:よかったですねえ。今年観た最初で最後のライブ(笑)。
ーー今思えば、あのタイミングでよく来てくれましたよね。「IDENTITY」は、8月の配信ライブでも演奏していましたが、音源以上にドラムがロックで印象的でした。
大澤:今までもAメロがSPD(サンプリングパッド)、サビで生ドラっていうのはあったんですけど、今回はそれがより馴染んでるというか。「You」とかは「急に生ドラ」みたいな感じがあって、それはそれでよかったんですけど、今回は移行がより滑らかで1曲としてちゃんとまとまっているなって。1サビの後の間奏とか、最後もですけど、あそこはすべてを発散する、すべてを吐き出すような感じですね。