2020.12.20 12:00

Maica_n、新曲「Mind game」で鳴らした“多様な自分の在り方”　打ち破りたい“己の殻”と対峙するMVの見どころも

文＝黒田隆憲

　「Maica_n史上、最高のポップソング」と言っても過言ではないこのマジカルなアレンジは、『Unchained』でも多くの楽曲を手掛けた根岸孝旨によるもの。さらに同曲のジャケットイラストは、ミスタードーナツ「ポン・デ・ライオン」のキャラクターデザインなどを手がけるSTUDIO HOLIDAYの堀内弘誓が担当。シャガールを思わせる幻想的なタッチと、赤を基調としたポップなデザインによって描かれる赤髪のMaica_nも、先日発表した「マスク姿」のアー写同様、これまでの彼女のビジュアルイメージとはかけ離れたものである。

　「予定にないMCなんですけど、ちょっとお話ししてもいいですか？」

　さる12月4日、東京 ShowBoatで開催された初のワンマンライブで、ここ最近の自身の「イメージチェンジ」について、おもむろに話し始める一幕があった。「Maica_nの“n”は、ニュートラルの“n”。音楽ももちろん、ビジュアルも、どれをとってもジャンルや流派や党派にあまりとらわれず、こだわらず“面白い”と思ったことはやってみるし、今やりたいことに対して一生懸命でいたいなと思っています」と語った。

　12月13日に公開された「Mind game」のMVでは、外から柔らかい光が射し込む暗い部屋で、椅子に座ったMaica_nが「何者か」と対峙するシーンが描かれる。その「何者か」はまるで心理ゲーム（Mind game）を仕掛けるかのように、Maica_nの目の前で激しくダンスを踊っている。突然「何者か」は部屋を飛び出し、咄嗟に追いかけるMaica_n。二人のいる建物は時計の針が逆さまに動く鏡像の世界であり、やがて惹かれ合うように一緒に踊り始めるのだった。

　本編のクライマックスでは、「何者か」の正体が鏡に映った自分自身であることが明かされる。つまり「何者か」とは、Maica_n本人もまだ気付いていない「本当の自分」であり、本作は“打ち破りたい自分の「殻」とどう向き合えばいいのか”をテーマにした映像作品なのではないか。もしそうであれば、天性の歌声とメロディセンスを軸に持ちつつ、様々なサウンドプロダクションやアートワークに挑戦することで、自身の多様な側面を提示してきた彼女らしい内容といえよう。

Maica_n -「Mind game」Music Video

　上述したワンマンライブでは、来年2月にリリース予定の1stフルアルバム『replica』から、その表題曲を披露していたMaica_n。どこか70年代歌謡曲を思わせる、シンプルだがケレン味たっぷりのメロディを振り絞るように歌う姿がとても印象的だった。デビュー以降、その音楽的スタイルをあえて確立させずに様々なアプローチに挑み続けてきた彼女の待望のアルバムは、果たしてどのような内容になるのだろうか。きっとまた、私たちの予想をあっさりと裏切り、期待を遥かに超える作品を届けてくれるはずだ。

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。ブログ、Facebook、Twitter