AC/DC、Bring Me The Horizon、System Of A Down、Iron Maiden……バラエティ豊かなHR/HM~EMの注目作8選

Killer Be Killed『Reluctant Hero』

Killer Be Killed『Reluctant Hero』

 マックス・カヴァレラ(Vo, Gt/Soulfly、Cavalera Conspiracy)、グレッグ・プチアート(Vo, Gt/ex. The Dillinger Escape Plan)、トロイ・サンダース(Vo, Ba/Mastodon)らにより結成されたエクストリームメタル界のスーパーバンドによる、6年ぶりの2ndアルバム。今作からベン・コラー(Dr/Converge、Mutoid Man)が加わり、その豪華さはさらに増すことになりました。楽曲/サウンド的にも4者のカラーが随所に感じられ、要所要所からにじみ出るサイケデリック色も心地よく、それらの楽曲を3人のシンガーで表現することにより全体的に多彩さが増している。特にボーカルワークに関しては、デビュー作『Killer Be Killed』(2014年)以上に役割分担がしっかりしてきたような印象を受けます。先のMr. Bungleとは違った意味での“クロスオーバー”感も強く、2010〜20年代のエクストリームメタル界の縮図と呼ぶにふさわしい内容だと断言できます。

KILLER BE KILLED - Inner Calm From Outer Storms (OFFICIAL MUSIC VIDEO)

Nothing『The Great Dismal』

Nothing『The Great Dismal』

 アメリカ・ペンシルバニア州出身のシューゲイザー/ドリームポップバンドによる4thアルバム。メタル/ラウドロックの枠で括るにはちょっと的外れに感じられるかもしれませんが、彼らが所属するレーベルはUSハードコア/メタルコア専門のRelapse Records。また、ブラックメタル経由のシューゲイザー=ブラックゲイズ界隈のDeafheavenやAlcestなどとともに語られることも多いため、ぜひ取り上げたいと思ったバンドのひとつなのです。前作『Dance On The Blacktop』(2018年)ではUKロック的なメランコリックさが際立つ1枚でしたが、今回はMy Bloody Valentineや初期Ride的なUKシューゲイザー的側面を感じさせつつも、甘さと尖った感がバランスよく配分されたトリッキーな1枚にまとめられています。そういった意味では、エクストリームメタル界隈のみならず、ブリットポップ前後のUKロックを愛聴するリスナーにもヒットする、広意義での“ラウドロック”ではないでしょうか。

NOTHING - Say Less (Official Music Video)

Carcass『Despicable』

Carcass『Despicable』

 “リバプールの残虐王”の愛称で知られるエクストリームメタルバンドの、2021年に予定されているニューアルバムに先駆けた新作EP。2007年の再結成以降、ジェフ・ウォーカー(Vo, Ba)&ビル・スティアー(Gt, Vo)を中心に活動していますが、本作では再始動後初のアルバム『Surgical Steel』(2013年)の延長線上にある、メロディックデスメタルに初期のグラインドコア的要素を散りばめた王道のCarcass節を堪能することができます。ジェフのボーカルはもちろんのこと、ビルを中心としたギターワークなど至るところから“らしさ”が伝わってくる会心の仕上がりで、たった4曲では物足りない、早くアルバムを聴かせてくれ! と思わずにはいられません。なお、本作収録曲中3曲は次のフルアルバムには未収録とのこと。一体どんな凶暴な内容に仕上がっているのか、次作への期待を煽るに十分なEPです。

CARCASS - The Living Dead At The Manchester Morgue (OFFICIAL MUSIC VIDEO)

Iron Maiden『Nights Of The Dead, Legacy Of The Beast: Live In Mexico City』

Iron Maiden『Nights Of The Dead, Legacy Of The Beast: Live In Mexico City』

 最後に紹介するのは純粋なオリジナル新作ではなく、既発曲のみで構成されたライブアルバムです。Iron Maidenはこれまでに多数のライブ作品を発表しており、この10年間だけを振り返ってもすでに4作目のライブアルバムとなる本作。「またか……」とおっしゃる気持ちもよくわかります。しかし、本作はコロナ禍で中止となった今年5月に予定されていた来日公演を追体験できる、貴重な内容なのです。昨年9月のメキシコ公演を完全収録したこの2枚組作品は、時代を超えて愛される名曲「Aces High」から始まり、ブルース・ディッキンソン(Vo)不在の90年代後半の楽曲や2000年代前半の難解なプログレッシブナンバーなど、代表曲とマニアックなレア曲を交えた構成で、60歳オーバーとは思えないブルースのパワフルな歌唱と円熟味を増した楽器隊のプレイ、そして南米のメタルヘッズたちによる熱気に満ちた声援と相まって、まるでその場にいるかのような錯覚に陥ることができます。改めて、このセトリのライブを日本でも体験したかったな……と悔しさも湧き上がりますが、今はこのアルバムで疑似体験しながら近い将来の再来日実現を待ちたいと思います。

The Clansman (Live in Mexico City, Palacio de los Deportes, Mexico, September 2019)
RealSound_ReleaseCuration@Tomokazu_Nishibiro1206

■西廣智一(にしびろともかず)Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。

関連記事