秦 基博、『コペルニクス』に新たな彩り加えた無観客配信ライブ ダイナミックなバンドサウンド&映像演出が光る一夜に

秦 基博『コペルニクス』に彩り加えた配信ライブ

 平和な時間の終わりを象徴するように秦がセットのルームライトの灯を消すと、ステージは暗転。不穏な重低音にパーカッションが打ち鳴らされる。風雲急を告げる中で始まったのは「Lost」。打ち込みのビートにシンセベース、アコギのアルペジオにビブラフォン。デジタルとアコースティックの混交の中、やがて深海の底のような“青の世界”が出現する。バックには林響太朗が手掛けたアブストラクトな映像が踊り、光と影をコントロールする番場秀一の画面づくりがいよいよ冴えわたってくる。アルバムの中でも“底の底”に位置する楽曲を歌う秦は、獣のような、悲鳴のような叫びをあげる。

 さらにそこからブリッジとなるインストに雪崩れ込む。リズムが速まり、弦が軋み、音の塊が頂点に達した瞬間、今度はステージが紅に染まる。「Raspberry Lover」だ。青から赤へ、絶望から攻撃への反転。狂おしい感情の奔流をストリングスが押し流していくが、個人的にはこの2曲をつないだ一連の展開が、この日のライブのクライマックスだった。秦はいいライブの条件としてダイナミズムを挙げるが、心の暗部のキワからキワへと飛び移ったこの箇所は、見ているこちらが息を呑む乾坤一擲の大ジャンプだった。

 さらにそこから一転、本編後半は人気曲を中心に華やかに駆け抜けた。「鱗(うろこ)」「ひまわりの約束」といったスタンダードナンバーに聴き惚れ、「スミレ」「キミ、メグル、ボク」で高揚する。ファンキーな「アース・コレクション」では間奏に入るとお立ち台に飛び乗り、ゴキゲンなブルースハープでトオミのエレピとセッションしてみせた。本編ラストの「Rainsongs」ではコーラスを画面の向こうのオーディエンスに託し、配信ライブという状況でもライブの一体感を感じてもらおうとする場面もあった。

 アンコールは優美な弦楽四重奏で心を洗い清めた後、冒頭の「天動説」と対を成す「地動説」を今度は生演奏で披露した。そして「LOVE LETTER」を奏でた後、本来は春に行われるはずだったツアーということで選曲した「スプリングハズカム」で舞台は大団円を迎える。

「(アルバム完成から)時は経ってしまいましたが、音源を作ることとライブをすることは2つで1つ、セットだと思っています。今日のライブを機に『コペルニクス』の曲に新しい色や意味合いが芽生えてくれたら嬉しいです。僕もこれで完成と言わず、どんどん歌っていけたらいいなと思います」

 ライブの最後に歌われたのは『コペルニクス』の出発点とも言える「花」。ピンスポットの中、〈何のために咲いてるのか〉と問う秦の姿は孤独でありながら力強く、そこには彼が『コペルニクス』を作ることで得た、表現者としての苦難と覚悟が滲み出ているように見えた。

■清水浩司
広島の文章屋。現在、広島FMで『ホントーBOYSの文化系クリエイター会議』(毎週金曜10:30~11:00)やってます。

『HATA MOTOHIRO CONCERT TOUR 2020 -コペルニクス-』

■公演概要
『HATA MOTOHIRO CONCERT TOUR 2020 -コペルニクス-』
2020年11月19日(木)20:00~開演
※11月23日(月)23:59までアーカイブ配信あり

・チケット:3,900円(税込)
・チケット販売期間:11月23日(月・祝)18:00まで
チケット申し込みはこちら
・配信サイト:Streaming+

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