乃木坂46 山下美月センター、3・4期メンバーの台頭……“未来を作る”最新シングルフォーメーションの画期性
もっとも、この26thシングルの布陣は新鮮でありつつも、すでに盤石な空気をたたえている。
2017年頃から実質的な活動をスタートさせた3期メンバーは、1・2期メンバーの活躍によって乃木坂46が女性アイドルシーンの中核的存在になりつつある環境下で、1・2期生と比しても急速なスピードで演者としての成長が要請され、それに応えてきた。それから数年、幾度もグループの顔として立ち回る場を得ている彼女たちにとっては、機が熟した段階での今回のフォーメーションといえる。
フロント3人の背後を支えるように2列目に配された、同じく3期の大園・与田のセンター経験者にせよ、あるいは新たに表題曲選抜に入った清宮レイ、田村真佑を含む4期メンバーたちにせよ、組織の型や強みが整備されて以降に乃木坂46に加入した彼女たちが、グループにフィットしてゆく速度は目覚ましい。あらためて、草創期からのメンバーが少なくなってきたことを感じる現在のグループ構成だが、その背後で多くの後輩メンバーがグループを引っ張るための存在感を蓄えていたことがわかる。
前述の番組中で語られる山下の所感にもまた、表に立つ者としての視野がすでに垣間見える。「これから乃木坂46がどうなっていくか」「どういう風に戦っていくか」に対峙し、その中で支え合いつつ自身や同期らの役割を捉えようとする山下の焦点は、メンバーの選別過程や誰が抜きん出るかという組織内の論理にではなく、対世間的な乃木坂46総体の立ち位置の方にある。
実のところ、シングル表題曲のセンターに選出されたメンバーが、そのポジションをひとつの役割として受け止め、俯瞰的にグループを見据えるような振る舞いをみせることは長らく、乃木坂46にあっては自然な光景でもある。センターに選ばれた者たちに通底する、地に足のついた視座がごく自然に後進へと繋がれていること自体もまた、乃木坂46の培ってきた基調の継承といえるかもしれない。
10カ月ぶりの正規シングルリリースは、あらためてグループが蓄積してきた活動の価値を提示する機会となる。乃木坂46はシングルCDというパッケージに、きわめて豊かなクリエイティブを託してきた。細やかな意匠を織り込んだジャケットのアートワークや、質量ともに異様な充実度を誇る映像コンテンツを含め、乃木坂46のシングルCDは楽曲制作にとどまらない、総合的な表現を詰め込む場としてある。
昨今の状況にあって、シングル制作にかかる環境をどこまで確保しうるのか、いまだ不明瞭ではある。けれども、機の熟した新たなメンバー編成とともに、乃木坂46が育んできたカルチャーが十全に花開くシングルになることを期待したい。
■香月孝史(Twitter)
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。