石井恵梨子のチャート一刀両断!
米津玄師、ずっと真夜中でいいのに。がアルバムチャート1&2位 稀代のシンガーたちが象徴する“2020年代の幕開け”
象徴的なアーティストの名前が2位にも見つかります。ずっと真夜中でいいのに。、通称“ずとまよ”。顔出しもなく詳細もまだ不明、2018年6月に「秒針を噛む」のミュージックビデオをYouTube投稿し、そこから活動を開始したという新たなアーティスト。作詞作曲を手がけるメインコンポーザーはACAね一人ですが、ボカロ界のクリエイターたちが共作や編曲で参加していたり、MVには多くのイラストレーターやアニメーターが関わっていたりと、さながらネットにひしめく才能のハブとして機能している面もありそう。不思議なハンドルネームがやたら目につくところは、“米津玄師と名乗る前のハチ”が大勢いるイメージでしょうか。いや、こんな過去例を持ち出すオトナとははっきり断絶した、新しい感性の牽引者がずとまよなのかもしれません。
初週で2.7万枚を売り上げた新作『朗らかな皮膚とて不服』から伝わってくるのは、まだ活動して2年とは思えないクオリティの高さ。音数の多さとプログレ的展開は川谷絵音や初期米津玄師の手法に近く、まったりと聴かせる発想が希薄な、やたら起伏と転調の多い主旋律の作り方が、いかにもニコ動カルチャーを感じさせます。ただ、ずとまよの圧倒的な強さは声色にある。表情の豊かさという意味では椎名林檎くらい大胆不敵だし、切ないのに芯があるという意味ではYUIくらい人を惹きつけるものがある。基本的にハイトーンが多いけれど、収録曲「マリンブルーの庭園」を聴けば、低めのキーでそっと歌っても十分に通用するシンガーであることがわかります。
作詞作曲の才能に恵まれ、シンガーとしても頭抜けている。そういうアーティストが業界の大人に見出されるのではなく、YouTubeやニコ動からスッと出てくる時代。その事実や顔出しNGのスタイルにいちいち驚かなくなったのが2010年代のJ-POPシーンでした。となると、米津玄師&ずとまよのワンツーフィニッシュは、2020年代の幕開けと言えるのでしょう。
■石井恵梨子
1977年石川県生まれ。投稿をきっかけに、97年より音楽雑誌に執筆活動を開始。パンク/ラウドロックを好む傍ら、ヒットチャート観察も趣味。現在「音楽と人」「SPA!」などに寄稿。