空音、『19FACT』に込めた“ステージに立ち続ける”意思表明 等身大ゆえの「リアリティ」と「説得力」
昨年12月に1stアルバム『Fantasy club』をリリースしたばかりの空音が、早くも2ndアルバム『19FACT』を6月24日にリリースする。
兵庫県・尼崎出身のラッパー、空音は現在19歳。高校時代にPri2mやSHUN、cheapWordら気鋭のトラックメイカーと共に作り上げたデビューEP『Mr.mind』(2019年)が各所で注目を集め、BASI(韻シスト)のソロアルバム『切愛』にも客演で参加するなど快調なスタートを切っている。続く『Fantasy club』には、『Mr.mind』収録の「planet tree」路線を引き継ぐような、ファンタジーや幻想、宇宙などをモチーフとした楽曲が並んでおり、踊Foot WorksやSUSHIBOYSなどを手がけるトラックメイカーRhymeTubeをはじめ、クリエイティブチームChilly Source所属のビートメイカー、ニューリーらをプロデューサーに迎え、シンガーソングライターのkojikojiや地元のクルーNeVGrN、そして師であるBASIらをフィーチャーしながら、まるで宇宙旅行を楽しんでいるような壮大な世界観を繰り広げていた。
それからわずか半年あまりで届けられたのが、この『19FACT』だ。空音にとって「10代の締めくくり」となるタイミングで制作された本作には、アルバムタイトルの通り“19歳の等身大(fact)”がぎっしりと詰め込まれている。空音といえば、フックの効いたメロディラインや絶妙なリズム感を備えたラップ、やんちゃな面と繊細さを併せ持つ独特の声と、エモーショナルかつポジティブなリリックが持ち味だが、それらはより進化した形で本作にもしっかりと受け継がれている。プロデューサーには、RhymeTubeやニューリーら前作の布陣に加え、AAAMYYYとのコラボでも話題となったyonkeyや、ローファイヒップホップを通過したチルなサウンドメイクに定評のあるシンガーソングライター・春野、メロウかつ音響的なサウンドスケープで注目を集める和歌山県出身のトラックメイカー・jaffらが参加。またフィーチャリングゲストとしては、kojikojiとNeVGrNが前作に引き続き名を連ね、新たにSUSHIBOYSも参加している。
冒頭を飾るのは、yonkeyらしいカラフルで軽快なトラックが印象的な「Fight me feat. yonkey」。「ライブで盛り上がる曲として、「space shuttle」の隣に加わるのでは」と本人も全曲解説動画「『19FACT』どうでしょう」でコメントしていたように、yonkeyと時に掛け合い、時にユニゾンしながら進んでいくスリリングなバースやフック、後半はシンガロング必至な〈Fight me〉のフレーズと、ライブでの盛り上がりが目に浮かんでくるような要素を盛り込んだパーティーチューンだ。〈敵はいつも/鏡に映る自分だけ/それ以外いつも/贅沢な経験値なのさ〉、〈君はいつも/君でいればいいだけ/年齢を経験値にしちゃダメだよ〉というリリックでは、他者と自分を比べるのではなく、常に「今の自分」をアップデートしていくことの大切さを訴えかけている。
続く「Flash」は、〈pika pika step〉というフレーズが耳に残る1曲。「曲の中で一番大事なのは、みんなが口ずさめるフレーズと、頭の片隅にずっと残るフレーズ」と先の動画で話す空音だが、この〈pika pika step〉は「新品の靴を履いて、新鮮な気持ちで街を歩いている気分」を表したフレーズだという。またサウンド面では、ハウスっぽいビートとファンキーなスラップベースが強力なグルーヴを生み出し、その上をたゆたうフロウが2バース目でガラッと変化するあたりは聴きどころの一つとなっている。
さらに「You GARI feat. SUSHIBOYS」、「Girl feat. kojikoji」とキラーチューンが並ぶ。前者には、〈RhymeTubeのDrugを投与すれば/溢れる歌詞/止まらない〉というフレーズがあるように、トラックメイカーRhymeTubeの存在を知ったきっかけがSUSHIBOYSの楽曲「Drug」だった空音にとって、RhymeTubeプロデュースによるSUSHIBOYSとのコラボは感慨深いものがあったに違いない。哀愁漂うフックのメロディが強烈な印象を放っているが、空音、サンテナ、ファームハウスの順で回すバースには、ビートに対するアプローチやワードチョイスなど各々の個性が如実に表れていて興味深い。
また、kojikojiをフィーチャーした「Girl」は、前作の「cocoa」や「Hug」などこれまでのコラボとはまた違った趣がある。前作のRhymeTubeに代わってShun Marunoが担当したミニマルなトラックと、空音とkojikojiがユニゾンでハモるケレン味たっぷりのメロディラインが、どこかフレンチポップっぽくもあるのだ。しかも、空音が「女の子目線」で書いた際どいリリックをkojikojiに歌わせたり、彼女のウイスパーボイスを随所に散りばめたりといった“フェティッシュなこだわり”は、セルジュ・ゲンスブールがアイドルや女優をプロデュースした時に見せたフェティシズムにも通じる……といったらいささか穿ち過ぎだろうか。