中村倫也主演ドラマ『美食探偵 明智五郎』、世界観を盛り上げる音楽はどう生まれた? 音楽家 坂東祐大インタビュー

劇伴ならではの“楽しさ”

ーー映像作品の劇伴と普段の活動の違いをどこに感じていますか?

坂東:まだそんなに数をやっていないので、偉そうなことは言えないんですが。僕のメインワークは主にコンサートホールで演奏されるクラシックの延長線上にある現代音楽のなので、そこでやることって一般的に実験的といった評価をされることが多いんです。でも実は毎回毎回実験できるわけでもないんですよ。でも劇伴は、様々なジャンルの音楽家と色々模索しながらできるんです。それが楽しいですね。

ーー劇伴はエンタメを介して日常の中に入り込んでいく感じでしょうか?

坂東:とはいえなのですが、個人的にはあまりアートとエンタメと、分けて考えないようにしています。考えると袋小路に陥って何もできなくなるので(笑)。ただ絶対的に、地上波の作品は多くの人の目に触れますから、現代音楽をやっている僕だから知っていることで、まだあまりその領域でやられていないことを提示できるのだとしたら少しでも携わる意味があるのかなとも思っています。

ーー坂東さんの紹介として、よく“ジャンルを超えての活動”と表現されますね。

坂東:ジャンルを超えるってすごく難しいことで、土足で踏み入っちゃいけないと思うんです。こうしたらもっと面白くなるといったことは毎回考えますが、単純になんでもコラボレーションすればいいというものじゃない。作品をより面白いものにするために、自分にできることがあるなら是非携わりたいし、他にもっと上手くできる人がいるなら進んで任せたほうがいいとも思っています。

音楽があることで少し生活が豊かになっていく

ーー今回のサントラには次世代型アンサンブル・Ensemble FOVEも参加しています。Ensemble FOVEを立ち上げたことで今こうしたことがやれているという実感と、この先やりたいことを教えてください。

photo by Ryo Maekubo

坂東:今回のサントラもそうですが、僕がまず台本のような形で楽譜を持って行きます。それは完成形ではなくて、そこからみんなのアイデアを入れていって、最終的にプロジェクトのリーダーーー今回だと僕ですがーーがどのアイデアを入れるか決めていく。いろんな人のアイデアの集合体が作品になっていくわけです。そうしたひとりではできない、チームだからできるところが面白いです。いまはこの状況でコンサートもできないので、新しい方法で何かしらやらなければと思っています。どのジャンルでもそうだと思いますが、今だからこそできることを考えたい。何かしらの形で作品に昇華していかないとと思っています。

ーーこうした状況だからこそ、音楽が人に与えられるものや存在意義を考えるといった時間はありましたか?

坂東:結局のところ音楽は人の役に立たないな、と。水や野菜や衣服のように生活必需品じゃないですからね。以前、坂本慎太郎さんが「音楽は役に立たない。役に立たないから素晴らしい。役に立たないものが存在できない世界は恐ろしい。」とおっしゃっていて、僕も全くそう思います。音楽ってなくてもなんとか生きていける。でもあることで少し生活が豊かになっていく。ふと立ち止まってみた時にハッとするものを作れたらなと思います。

ーーなるほど。

坂東:音楽に関していえば、作り手が簡単に”自分の作品はこういう役に立つ”とか言っちゃいけないと思うんです。よくクラシックだと「聴けば癒される」とか言われますけど、ちょっとでも知れば、作曲家は癒しなんかそもそも目指していないことはバレますから(笑)。作り手は大抵の場合、煩悩にまみれまくっていて、創作はそれとの戦いです(笑)。

 話が少し逸れますが、コロナの期間中に昔の大作曲家の手記を色々と読んでいて。その一冊に『ベートーヴェン 音楽ノート』という、ベートーヴェンのある時期の6年間くらいのTwitterみたいなメモ書きをまとめたものがあるんですけど、それが生活感に溢れていてとても面白いんです。「毎日5時半から朝食まで勉強すること!」とか、「アイツのこと物凄く嫌いでも悪口は言うな」とか。昔も今と全然変わってないじゃんって。

ルーティーンにならないことが大事

ーー音楽家の話が出ましたが、映画音楽で坂東さんが面白い、好きだという曲や作曲家をあげるなら?

坂東:いっぱいいますね(笑)。映画音楽って、本当に色んな実験ができるんですよね。たとえば月並みですが、Radioheadのリードギター、ジョニー・グリーンウッドのサウンドトラックは好きですね。ダニエル・デイ=ルイス主演の『ファントム・スレッド』とか、すごく変なサントラなんです。まあ、ジョニーのサントラは全部変なんですけど(笑)ヨハン・ヨハンソンのサントラもすごく好きです。『メッセージ』なんかは、僕的には2010年代一番のクリーンヒットでした。あと、ちょっと気になっているのはルドウィグ・ゴランソン。『ブラックパンサー』や『マンダロリアン』、次は(クリストファー・)ノーランの『TENET』を(ハンス・)ジマーから代わって、ですもんね。超メジャー映画をやりつつ、チャイルディッシュ・ガンビーノの「This is America」まで手がけるという活動の幅の広さが気になっています。

photo by Ryo Maekubo

ーー劇伴でいうと、坂東さんは以前に大河ドラマの音楽を手掛けてみたいとコメントされてましたね。

坂東:是非いつか手掛けてみたいですね。ある時期まで、大河ドラマの音楽は、クラシック、現代音楽の名だたる作曲家がやっていたんです。武満徹さん、三善晃さん、湯浅譲二さん。でもそれが途絶えてしまったので。

ーー実現するといいですね。

坂東:あと実は舞台はまだやってないので、チャンスがあればぜひ挑戦したいです。もちろんそれらの成果が、メインフィールドの活動に少しでも還元できたら、というのは常に思っています。あとは創作がルーティーンにならないことが大事。刺激的な面白いことをやっていきたいです。

■坂東祐大プロフィール
坂東 祐大 [Yuta Bandoh]
作曲家、音楽家。1991年生まれ。 東京藝術大学作曲科を首席で卒業。 東京藝術大学音楽学部作曲科修課程修了。

多様なスタイルを横断した文脈操作と、 聴き手を能動的にさせる音楽空間の探求を中心に、 創作活動を行う。第25回芥川作曲賞受賞(2015年)。 

2016年、Ensemble FOVE を設立。 代表として気鋭のメンバーと共にジャンルの枠を拡張する、 様々なアートプロジェクトを展開している。

またメインワークに加え、 ジャンルを横断した活動も多方面に展開する。

映像作品に中島哲也監督作品 映画「来る」、米津玄師 「海の幽霊」「馬と鹿」「パプリカ」「カイト(NHK2020ソング)」にて共同編曲、宇多田ヒカル「少年時代」にて共演。 

主要作品に”花火 –ピアノとオーケストラのための協奏曲"(サントリー芸術財団委嘱作品)“TRANS"(京都芸術センター Co-program)がある。

■リリース情報
好評発売中
『ドラマ「美食探偵 明智五郎」オリジナル・サウンドトラック』
音楽:坂東祐大
¥2,500+税 / VPCD-86336

■ドラマ情報
日本テレビ系日曜ドラマ『美食探偵 明智五郎』
毎週日曜夜10:30より放送中

ドラマ公式サイト

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