星野源『Same Thing』について、いま語り得ること 高橋芳朗とDJ YANATAKEが考える作品の真価
『Same Thing』は「ツッパってる」作品?
YANATAKE:『Same Thing』って『POP VIRUS』に比べるとなんていうか……だいぶツッパってる作品ですよね(笑)。
高橋:間違いないですね。まず、冒頭からいきなりSuperorganismとのコラボというのがいい。彼らはいわゆるグループの概念とは一線を画した現代版のヒッピーでありボヘミアンみたいな集団じゃないですか。そんなSuperorganismがEPの入り口で構えているあたりが、星野さん自身やEP『Same Thing』のスタンスの表明になっていると思うんです。具体的には自由を愛する精神、魂の解放、音楽に対するイノセンス、みたいな。
YANATAKE:とくに「Same Thing」に関しては、けっこう素で楽しんでる感がありましたよね。曲もビデオも楽しそうだなあって思いましたし。〈Fuck you / Love you〉って歌詞には色々思うところがある人たちもいたみたいだけど、アーティストを聖人化するのは本当につまらないなって思う。
高橋:初めてのコラボ曲が海外アーティスト、さらに全編英語詞となれば、多少戸惑いを覚えたファンもいたと思うんですよ。でも実際に曲を聴いて、そしてミュージックビデオを観て、さらになぜここに至ったかのプロセスを知れば、必ず合点がいくと思うんですよね。もう音や映像から星野さんの生き様がほとばしっているじゃないですか。
YANATAKE:変革を恐れずに挑戦している。置きにいっていないのがいいですよね。止まっちゃったら、やっぱり面白くないから。
ーーでは、「さらしもの」については、お二人はどう聴かれました?
YANATAKE:PUNPEEとの「さらしもの」は、もう今まさにこのタイミングでやるベき作品だった気がします。STUTSくんの存在もあったから、二人を熱心に聴いているリスナーとしては正直、一緒にやることの驚きはなかったけど。でもクオリティは言うまでもないので、クラブでもプレイしてますよ。実際このコラボが実現してなかったら渇望してたはずだけど(笑)。
高橋:この「さらしもの」の登場によって、元々ラップソングとして制作を進めていたという「KIDS」の聴き方が微妙に変わってきたような気もしています。
ーー「Ain't Nobody Know」はトム・ミッシュとのコラボレーションでした。この曲はコラボレーションではあるけれど、星野さんの音楽性もとくに色濃く出ている楽曲ですよね。
高橋:「Ain't Nobody Know」は今回のEPの個人的なベストトラックですね。去年あたりからアッシャーの「You Make Me Wanna...」だったり、SWVの「Can We」だったり、ティンバランドが台頭し始めた頃のR&Bサウンドが再評価されてきているんですけど、そのあたりの気分もさらっと取り入れているあたりは本当に心憎い。
YANATAKE:たしかに、そういうトレンドな側面も感じさせますね。
高橋:自分をメタ的にとらえた、暗喩を駆使したリリックも素晴らしいですね。いずれにしても、この「Ain't Nobody Know」のようなスロウジャムは今後いままで以上に星野さんの大きな武器になっていくと思いますよ。星野さんが海外に行った際にいろんな人から『POP VIRUS』の中でも「Nothing」がとくに好きだという反応をもらったと聞きましたが、まさに我が意を得たりという感じです。