ロディ・リッチは、リル・ナズ・Xに続くスターに? さらに複雑化するTikTokシーンのヒット傾向

 ロディ・リッチの快進撃が止まらない。2020年になり、The Weekndやジャスティン・ビーバーなど様々な超有名ポップアーティストが楽曲をリリースしてきたが、それでも様々なチャートのトップに居座り続けているのは「The Box」である。それまで無名だったアーティストが、チャートのトップを独占し続ける。この流れを見ていると、昨年のNo.1ヒットであるリル・ナズ・Xの「Old Town Road」を思いだす。どちらも動画投稿型SNSのTikTokを中心としたヒットである。やはり今のヒット曲はTikTokから生まれているのだろうか。

Roddy Ricch - The Box [Official Music Video]
Roddy Ricch『Please Excuse Me For Being Antisocial』

 さて、「TikTokを中心としたヒット」と一口に言っても、そのヒットの方向性は様々であり、ヒットの構造自体もそれまでの常識とは大きく異なっている。何故ならTikTokにおいて重要なのは「何を使うか」ではなく「どのように使うか」だからである。大きな方向性としては「ミーム(ジョーク)のテンプレート」と「ダンス動画のお題(○○Challenge系)」の2つのパターンが考えられるだろう(メイク動画のBGM等、他にも様々なパターンがあるが本稿では割愛する)。本稿ではこの2つのパターンを中心に、今のTikTokシーンにおけるヒット曲を考察していく。

“フリ"から“オチ"までを演出する「テンプレート」としての音楽

 「ミーム(ジョーク)のテンプレート」として最も有名なのは、日本のネットユーザーにも人気の「To Be Continued...」であろう。軽快で穏やかな風景から一転して予想外の事故が起きる"瞬間"で映像が止まり「To Be Continued...」のテロップが入る。バックに使われているのはイギリスのプログレッシブ・ロックバンドYESの「Roundabout」であり、アルペジオで優しいメロディを奏でるパートで穏やかな風景を映し、力強いストロークが入ると同時に事故が起きるというのがテンプレートである。このように、十数秒の短い尺の中で"フリ"から“オチ"までを作るというのがポイントである。

 このパターンの場合、“フリ”から“オチ”までの落差がポイントとなるため、使われる楽曲にも大きな展開が求められる。そのため盛り上がりの箇所が明確なヒップホップやダンスミュージックといったジャンルから楽曲がピックアップされることが多い。しかし、このパターンでバイラルヒットしたとしても、あくまで「テンプレート」であることから楽曲としての評価には繋がりづらい。その流れを最近変えたのが、アメリカの若手ラッパーTOKYO'S REVENGEの「GOODMORNINGTOKYO!」である。

TOKYO'S REVENGE - GOODMORNINGTOKYO!

 絶叫と囁き声を繰り返すフックのインパクトが絶大な本楽曲、TikTok上では、一行ごとに感情を大きく変えるこのフックを使って、「怒り狂う人物」と「物静かで穏やかな人物」などを演じて対比させるというテンプレートが人気を博している。ちょうど4行ということもあり、起承転結がつけやすく、感情の動きも大きいため演技をつけやすい。実にTikTokで使いやすい楽曲といえるだろう。一方でこのフックのインパクトは、別にTikTokユーザでなくても、動画を介さなくても十分に伝わるものである。結果として本楽曲は単体でヒットを続け、先日公開されたミュージックビデオの再生回数は1カ月で1000万再生を超えている。

 ところで興味深いのは、このパターンにおいて多くの場合、原曲の歌詞やサウンドは無視される傾向があるということだ。「GOODMORNINGTOKYO!」の場合も、使われているパート含め相当に過激な歌詞が展開されるのだが、投稿される動画ではその要素は完全に漂白され、あくまで絶叫パートと囁きパートの落差だけが活用されている。また、他の楽曲を使う場合においても、“オチ”を強化するために楽曲の後半部分にベースブーストをかけて意図的に音割れを起こしてインパクトを出す例も多い。要は、この世界では楽曲があくまで「パーツ」として使われているのである。

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