1stアルバム『Kitrist』インタビュー
ショパン、谷川俊太郎、大橋トリオ……Kitriが明かす、クラシック×ポップスが共存する音楽の秘密
姉妹による息の合ったピアノ連弾と美しいハーモニーで、まるでおとぎの国から聴こえてくるようなマジカルなサウンドスケープを展開する2人組Kitri。昨年、1st EP、2nd EPをリリースした彼女たちが満を持しての1stフルアルバム『Kitrist』をリリースする。
過去2作に引き続き大橋トリオをプロデューサーに迎えて制作された本作には、これまでの代表曲やアルバム書き下ろしの新曲のほか、映画『“隠れビッチ”やってました。』の主題歌として書き下ろされた「さよなら、涙目」や、NHK『みんなのうた』に抜擢された「雨上がり」など、Kitriの世界観を広く世に知らしめた楽曲を収録。デビューからおよそ1年間の、彼女たちの活動の集大成ともいえる内容に仕上がっている。ピアノ連弾を基調としつつ、曲によっては様々な楽器を配置したそのアレンジからは、クラシックはもちろんロックやポップス、民族音楽など幅広い音楽に精通した彼女たちのバックグラウンドが窺える。
そこで今回リアルサウンドでは、アルバム『Kitrist』の制作エピソードはもちろん、これまであまり詳しく語られてこなかった彼女たちの音楽的ルーツについても深掘りするため、Mona、Hinaの2人が影響を受けた作品をそれぞれ用意してもらった。美しくもどこか毒や影のあるKitriワールドは一体どのようにして形成されていったのか、その秘密に迫った。(黒田隆憲)
Mona&Hinaが“影響を受けた作品”
ーー今日はKitriの音楽的バックグラウンドを探るため、お二人には「影響を受けた作品」をそれぞれ持って来てもらいました。まずは、Monaさんからいきましょうか。
Mona:はい。私が持って来たのは、『グリーグ:ピアノ作品集 第3巻 連弾作品集』です。この楽譜を購入したのは、私が小学生の時。当時通っていたピアノ教室の発表会で、ちょっと年上のお姉さんたちがこの楽譜の1曲目に掲載されている「ノルウェー舞曲」を、連弾で弾いたのを見たのがきっかけでした。それまでは、ピアノって一人で演奏するものだとずっと思い込んでいたんですけど、「そうか、こうやって2人で一つの音楽を作ることもできるんだ!」って。しかもその連弾している姿が美しく、カッコよく見えて。自分もいつか連弾をやりたい! と思うようになったんです。
ーーそれがMonaさんにとって、「連弾」の原体験だったのですね。
Mona:はい。それで私が中学生、Hinaが小学生になった頃、ピアノの先生から「連弾はすごく勉強になるから一度やってみた方がいいよ」と勧められて。憧れだった連弾を、ついに演奏することができる! と思ってワクワクしたのを覚えています。しかも、与えられた連弾の課題も(エドヴァルド・)グリーグで、曲は楽譜の最後に入った抒情小品集 第8集 「トロールハウゲンの婚礼の日」だったんです。楽譜を見ると、2人でまったく違うことをするんですよ。普段は個別に練習するんですけど、それである程度弾けるようになったところで「よし、そろそろ合わせてみようか」と。この瞬間が連弾における楽しみの一つなんですよね。
Hina:「ああ、こうなっているんだ!」って(笑)。
Mona:まるで答え合わせをしているような興奮があるんです。この楽譜には、そんな2人の思い出が詰まっています。
ーーグリーグの連弾曲の魅力というと?
Mona:グリーグはノルウェーの作曲家なんですが、美しい自然の中で暮らしてきた方だからこその、クリアで豊かな音楽だなと思います。ちなみに、私が最初に衝撃を受けた「ノルウェー舞曲」はまだ挑戦していなくて。「いつか弾こう」と思いながらずっと温め続けています(笑)。
家族全員で大橋トリオのファンに
ーー続いてはHinaさんのセレクトで、大橋トリオさんのメジャーデビュー作『A BIRD』です。
Hina:大橋トリオさんは私が中学生、姉が高校生の頃に初めて聴きました。家族で外食しに行って、4人でオムライスを食べていたら音楽が流れてきて。4人とも大橋さんの歌声が聴こえた瞬間に思わず手が止まってしまい、「……これ、誰が歌っているんだろう?」「すっごくいい声だね」ってなったんです。それで店員さんに尋ねたところ、「大橋トリオさんという方ですよ」と教えてくださって。
Mona:即、購入しました(笑)。
Hina:そこから家族全員で大橋さんのファンになって。ちなみにそのときに聴いたのは、アルバムの最後に入っている「Shine」でした。
ーーKitriの主にどんなところで、大橋さんの影響を受けていると思います?
Mona:大橋さんって、自分で曲を作って歌い、楽器もほとんどご自身で演奏されているじゃないですか。「こんなふうに一人で音楽を作ることも可能なんだ!」と教えてもらった気がします。大橋トリオさんへの憧れはずっと持ちつつ、自分たちなりの音楽を見つけられたらいいなと。そんなふうに思わせてくれたのが、大橋さんだったんですよね。
それと、大橋さんのコード進行も大好きで、いまだにピアノで弾いて分析などしています(笑)。大橋さんの楽曲は、絶え間なく色彩が変化していくような感じがあって。例えば私が絵具を3色持っているとしたら、大橋さんは100色くらい使って1曲を描いているような感じがするんです。コード、メロディ、アレンジ、あらゆる点で学ばせてもらっています。