『金字塔』インタビュー

Reolが振り返る、『金字塔』に到るまで 自らの文明=音楽を広げた先に見えたもの

「誰かの娯楽でありたいのであれば、見せている姿は強くあらねば」


――Reolさんのボーカルも特徴的ですが、「HYPE MODE」は聴いていてゲームサウンドのようなキラキラした心地よいサウンドが詰まっていますよね。

Reol:作ってた頃、たまたまファンクミュージックにハマっていたんですよね。自分の中に80年代のレトロなブームも来ていて、見た目でやりたいことも今のフェーズとハマるかもと思って作りました。なので、「HYPE MODE」はアルバムを意識したわけではない偶発的な曲。なのでCMに起用されたのもそうですけど、思いの外反響が来るなと驚きました。

――「HYPE MODE」は『金字塔』のテーマにも直結するような曲だと感じたのですが、偶発的な曲なんですね。

Reol:これまでもそうですけど、私はコンセプチュアルなものをずっと作っているので、まずはタイトルを決めて、そこに収録するための曲を後から入れていくって感じなんですね。パズルのような。だから「HYPE MODE」みたいな曲が入ることの方が珍しい。もし、『金字塔』を通して聴く中で「HYPE MODE」が浮いてないと思ってくださるのであれば、それは私が本当に書きたい精神性がどの曲でもぶれていない、変わってないからだと思います。私、いまだに5年前の自分の歌詞を聴いて「めっちゃ分かる」と自分で共感するんですよ。私と同じ年代の女の子って、女としての様々な生き方を考え出す頃でもあると思うんです。「結婚はどうなんだ?」「彼氏はできたのか?」とか言われ始める歳でもありつつ、身体の変化もありますし、そういう部分では男の人とはどうしても同じようには生きられない部分があると思うんです。

――なるほど。

Reol:私は自分のやりたいことをやりたくて音楽をやっているから、人から求められる音楽を表現するようになったら私は二次創作の人間になってしまう。私はそれが苦手で、リスナーにこの曲が大好きだからこういう曲をもう一回作ってほしいと言われると「じゃあ、それ聴けば?」って思ってしまうんです。過去のヒットソングをもう一回って言われると、「じゃあ、それを一生聴いていればいいじゃん、あるんだから」って。だから、そこは自分の良いところであり悪いところでもあると思っていて、ファンサービスとして誰かの娯楽として、「もう一度」ができる人は強いと思うけど、でも私がその「もう一度」をやるのであれば、全く変えたい。音楽では一時的にハマって飽きてを繰り返すんですけど、私は言葉の世界と思想、考えていることがずっと変わらない、変われないことがコンプレックスになってる気もしていて。だから、妥協をすること、合わせること、待つということがもっと2020年にできるようになりたいのかもしれないですね。

――もっと分かりやすく、ファンの期待にも応えられるようにと。

Reol:分からないなら分からなくていいと突っぱねてしまう傾向が強いので、ライブのセットリストにしても「はいはい、盛り上がりに来てるんでしょ? (その曲)やんないから」とはしちゃいけないなっていう。アーティストであると共に、エンターテイナーでいなきゃいけないとも思うし、半分満足させて、半分裏切るじゃないけど、その比率が5対5でなくなっていくと、どんどんメジャーでやる意味が失われていくなと思うので、そこは難しいバランス感覚ですけどね。

――その一貫して変わらないReolさんの思いがより表れているのが、アルバムタイトル曲でもあある「金字塔」とラストに収録されている「1LDK」。リリースコメントにある「わたしはずっと自分の生き様を映し鏡に、全く違う誰かを書いている気がしている」という言葉もReolさんの生き様を浮き彫りにしている気がしました。

Reol:私が曲を歌う時は、私でしかない。だけど聴いている人からしたら、自分のことを言ってるのかもって思えた方がいいと思うから、そこのさじ加減は歌詞を書く時に難しい部分で。明らかに自分の話を書いてしまうことへの抵抗もあるし、かといって結局なんのことを言っているのか分からない抽象的な歌詞が好きではない。「1LDK」とか「金字塔」は、話し言葉でストレートに書いた歌詞で、上手く書けたなという自負はありますね。

――それぞれ「金字塔」はファンへ投げかけるような楽曲、「1LDK」は誰かへの憧れでまた音楽が生み出されていくという楽曲。

Reol:「金字塔」は孟子の気持ちになって書いたんですよ。だから、人称が〈汝〉とか〈君子〉なんですけど、あの時代の皇帝だったら、私が頑張らなければならないという気持ちをもっと言葉尻強く言うんじゃないかなと思って、それが強調されて〈見下したい〉といった歌詞が使われています。「1LDK」も同時に結局均せば一緒のことを歌っている感覚。憧れがあって、好きが根底にあって。好きがあるから、嫌いがあるわけで。だから、結局全部の曲が同じことを言ってる気がする。

――〈音楽なんて音楽なんて音楽なんて〉という繰り返しには、好きがあるから、嫌いがあるという感情が伝わってきます。

Reol:嫌いになることが怖いから、嫌いになりきれないけど、好きじゃなくなりそうな瞬間もある。音楽にしろ、スポーツにしろ、何かを突き詰めようとした人はそうだと思うんです。プロでスポーツをやられている方だって練習が楽しいわけはないし、スポーツも誰かの娯楽だと思うんです。賭博をせずとも、どっちが勝つかという賭けをしたりするじゃないですか。そういうことだけでも、自分がナイーブになっていると傷ついちゃったりしちゃうから。誰かの娯楽でありたいのであれば、見せている姿は強くあらねばというのはありますね。

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