back number、松任谷由実、山下達郎……切ないクリスマス曲が流行る理由は“会えない寂しさへの共感”?
日本のポップスには、切ないクリスマスソングのヒット曲が数多くある。切ない三角関係を歌った辛島美登里「サイレント・イヴ」、秋元康が作詞を手がけた稲垣潤一「クリスマスキャロルの頃には」は、クリスマスまでの間に別れを決断する歌。子どもの頃はあんなにも待ち遠しかったはずのクリスマスが、大人になるとなぜこんなにも切ないクリスマスソングを欲してしまうのか。
会えない時間と距離は極上のスパイス
街にはきらびやかなイルミネーションが輝き、カップルの幸せそうな笑顔がこぼれる季節。しかし視線を逸らせば対象的に、切なく孤独な物語が溢れている。クリスマスソングとして有名な曲は、実は切ない曲が多い。例えばマライア・キャリーの「恋人たちのクリスマス(All I Want for Christmas Is You)」は切実な片思い。Wham!の「ラスト・クリスマス(Last Christmas)」は、失恋した経験を思い出している。「恋人がサンタクロース」で有名な松任谷由実も、「忘れかけたあなたへのメリークリスマス」という曲で、孤独なクリスマスの1日を歌っている。若い世代にとっては、ひとりで過ごすクリスマスを歌ったback numberの「クリスマスソング」が、馴染み深いだろう。そしてザ・クリスマスソングとして有名な、山下達郎の「クリスマス・イブ」もまた、待っても来ることのない相手を待つ歌だ。JR東海「ホームタウン・エクスプレス(X'mas編)」のCMソングに使用され、同CMが新幹線のホームを舞台にした恋人たちのドラマを描いた内容だったことから、遠距離恋愛の曲としても親しまれるようになった。
では、ハッピーなはずのクリスマスなのに、なぜこんなにも切ないクリスマスソングが多いのか。答えは、日本人の国民性にあるかもしれない。日本人は、実に忍耐強い。言い換えると我慢強く、待つことに慣れていると言える。七夕の織り姫と彦星のエピソードが象徴的で、古来より日本人は、会えない寂しさに共感し、長く待つことでより大きな喜びを感じるようにできている。クリスマスも年に一度であり、そこに自然と七夕のエピソードを重ねて、切なさを求めてしまうのかもしれない。会えない時間と距離は、決してふたりを引き裂くための障壁ではなく、会えたときの喜びをいっそう大きく感じるための、極上のスパイスであることを遺伝子が知っているのだ。実際に会えない寂しさに共感する曲は多く、モンゴル800の「あなたに」、西野カナの「Dear…」、HYの「Song for…」など。また、クリスマス=ハッピーな日というシチュエーションとのギャップも、切なさを増幅させるスパイスだ。同じ失恋ソングならクリスマスをモチーフにしたほうが、街のきらびやかさや幸せそうな恋人たちの様子が、よりいっそう切なさと孤独感を引き立ててくれる。