『ドハツの日(10・20)特別公演秋の大感謝祭〜もっと!もっと!愛されたくて35年〜』
怒髪天が繰り広げたエンターテインメントショウ 結成35周年“ドハツの日”公演レポ
今年結成35周年を迎えた怒髪天が10月20日、ちょうど『江戸東京夜市』真っ只中のお祭りムードに染まった神田明神ホールにて、毎年恒例の“ドハツの日”を開催した。前日19日は同会場で全国ツアー『怒髪天、もっと!もっと!愛されたくて35年、2019〜2020年日本の旅“モノリス=ヅメリス?”』の初日を迎えたが、この日は『ドハツの日(10・20)特別公演秋の大感謝祭〜もっと!もっと!愛されたくて35年〜』と題し、ツアーとはガラリと変えたセットリストと、趣向を凝らした特別な演出で、笑いと涙と愛に溢れた怒髪天流のエンターテインメントショウが繰り広げられた。
「バンババン!バンバンバババババ〜」
荘厳なSEが鳴り響き、大歓声で迎え入れらた増子直純(Vo)が「よう来たぁぁ!」と叫ぶと、軽快なリズムにのせてお馴染みの“ガヤ”が、右へ左へ振り乱れる手とともに割れんばかりに巻き起こる。「オトナノススメ」だ。〈オトナはサイコー!〉と胸を張って叫ぶ、怒髪天のアンセムでもあるこの曲は、これまで多くの“オトナのロックファン”に勇気と希望を与えてきた。そしてこの度、総勢220名が参加した大トリビュート「オトノナススメ〜35th 愛されSP〜」によって、ますます大きな意味を成すものとなり、今や日本のロックシーンを象徴する、ロックンローラーたちのテーマソングになった、といっても言い過ぎではないだろう。何度も何度もライブで演奏され歌われてきた曲が、いっそう強力で特別な歌になったのだ。〈人生を背負って大ハシャギ〉する男たちの35周年のお祭りのはじまりは、それをまじまじと感じた瞬間でもあった。
つづいて「労働CALLING」「N・C・T」と、間髪入れずにアッパーなナンバーを畳み掛ける。悠然と後方に構え、どっしりとしたビートを打ち鳴らす坂詰克彦(Dr)と、くしゃっとした笑顔と堅実なプレイでバンドを支えながら、図太いグルーヴを生み出していく清水泰次(Ba)。爽やかな表情の上原子友康(Gt)のギターはバッキングでは鋭利さを見せながらも、瑞々しく豊潤なトーンでギターソロを奏でていく。小細工なしのシンプルなアンサンブルはソリッドでタイト、それでいてあたたかい。どデカい懐を感じさせる怒髪天サウンドは唯一無二だ。
「35周年! さらにドハツの日! お祝いマシマシで!」
新しい時代に乾杯した「シン・ジダイ」を歌い終えると増子が叫ぶ。全力で応えるオーディエンス。その歓声も、ともに歌う歌声も、いつにも増して大きく、力強く聴こえたのは気のせいではないだろう。
初っ端から容赦なしの攻めの姿勢から、猶も業火の中へ引きずり込むように「裸武士」「北風に吠えろ!」と、矢継ぎ早に男気溢れる凄味のナンバーを投下。ハードコアチューン「天誅コア」をビシっとキメると、スポットライトが坂詰を照らす。眩い閃光に包まれながら優雅にドラミング……なんとそのままドラムが上昇していく。まさかのリフトアップのドラムソロに大きな歓声が上がる。坂詰はフロアを見下ろし、ご満悦の表情で機嫌よくリズムを鳴らしていく。高々とせり上がったクリスタルのドラムセットを華々しく叩くその姿は、まるで世界的に活躍するどこかのドラマーのようで……というにはさすがに無理があるか。しかし、坂詰ドラムの異様なまでの説得力、強靭さと繊細さのダイナミズムは絶品である。この日流れたムービーでのメンバーの言葉を借りれば、「あんなに本気でふざけてる大人は見たことがない(増子・談)」というキャラクターの濃さゆえに、肝心なドラマーとしての実力が隠れてしまうこともあるが、怒髪天の屈強な音楽を支える屋台骨、ドラマー・坂詰克彦のまごうことなき真髄を魅せつけた一幕だった。さすがは「自分の好きなこと(ドラムと食べること)だけに真剣な人(清水・談)」である。
坂詰の余韻をフィードバックで引き継いだのは、“王子”こと上原子。ダイナミックなビブラートを掛けながらのハーモニックマイナーのフレーズは“北欧の王者”のようであり、激しいアーミングとタッピングを織り交ぜながらの“ブラウンサウンド”はアメリカンハードロックのギターヒーローであり、“ウッドストック”さながらのワウペダル、重厚なジャパメタのリフ、エキゾチックなサーフギター、優美なクラシックギターの旋律……次々と繰り出される華麗なプレイに息を呑む。まるでギター1本で世界を旅をしているような、圧巻のギターソロコーナーだった。
お次は壮大な前奏で登場した増子。歌うは主演舞台『サンバイザー兄弟』の劇中歌「愛のおとしまえ」だ。情感たっぷりの歌声に場内は酔いしれる。怒髪天とは一味違う、“歌い手”としての匠な技で観る者、聴く者を圧倒していく。
清水はアコースティックセットのセクションで、ウクレレベースを手に自らボーカルをとる「ちょいと一杯のブルース」を披露。ドスの効いたハスキーボイスを気ままに響かせる。〈ガチャリと開いたら“坂詰さん” あら“坂詰さん”〉……「ついたー!!」、坂詰のタイミング悪いセリフが、会場にこだました。
こうした各メンバーの多彩な芸達者っぷりも怒髪天の大きな魅力。そして、アコースティックセットは適度にしっとり、適度に賑やかに、確かな演奏技術に裏付けられた緩急が絶妙だ。「現時点で何もいいことのない歌詞」だという「幸福の配分」では増子、上原子、清水、坂詰、とボーカルパートをリレーしていき、「アコースティックでやるといい感じになる」と紹介された「吠 -HOEROU- 郎」を久しぶりに演奏。カホンと電子パッドを巧みに使い分ける坂詰がいいアクセントとなり、軽快なアンサンブルを際立たせる。小粋なナンバー「喰うために働いて 生きるために唄え!」では、増子がフロアの隅から隅までを煽りながら大合唱へといざなう。まるで“流し”の楽師かジプシー楽団のような堪能さで魅了していく怒髪天のアコースティックは、ひたすらに陽気で、種々雑多で、問答無用に楽しいのだ。