岡田有希子、竹内まりやとのタッグの変遷 時代超えるティーンエイジポップスとしてのみずみずしさ

 1985年の『哀しい予感』は6枚目のシングル。これまで以上にシリアスな楽曲で、エレキギターも響く。「哀しい予感」とは別れの予感のことであり、竹内まりやが描く少女像も徐々に大人びていく。B面の「恋人たちのカレンダー」では、レゲエのリズムに乗せて、恋人との出会いから現在までが歌われる。岡田有希子の甘く艶っぽい歌唱は、『岡田有希子 Mariya's Songbook』でも異彩を放つものだ。チャーミングにして技術的なレベルも高い。

 「ペナルティ」は、1985年の3rdアルバム『十月の人魚』収録曲。「ペナルティ」とは、浮気のペナルティを意味する。竹内まりやが岡田有希子に書く歌詞は、さらに大人びていき、岡田有希子の歌声もさらに新しい表情を見せている。「ペナルティ」は竹内まりや作詞、杉真理作曲、松任谷正隆編曲という作家陣による楽曲だが、同じ布陣で制作されているのが、7枚目のシングル『Love Fair』のB面「二人のブルー・トレイン」。親に嘘をついて彼氏と旅行に出る歌だ。その状況を〈時計を見ながら あの娘のおうちへ/ママが電話する頃ね〉という歌詞で描写するのは、さすが竹内まりや。

 『岡田有希子 Mariya's Songbook』は、時系列で楽曲が収録されているが、唯一最後の「ロンサム・シーズン」のみが異なっている。前述の『十月の人魚』の収録曲で、竹内まりやが岡田有希子のために作詞作曲の両方を手がけた最後の楽曲だ。過ぎ去っていく季節、失われた恋。岡田有希子の歌声の甘い感傷が、『岡田有希子 Mariya's Songbook』の最後を飾る。

 『岡田有希子 Mariya's Songbook』に収録された楽曲群は、30年以上を経てなおティーンエイジポップとしてのみずみずしさを失わない。荻田光雄、大村雅朗、清水信之、松任谷正隆といった一流アレンジャーたちが、岡田有希子と竹内まりやのコラボレーションをさらに魅力的なものにした。

 竹内まりやの1984年の『VARIETY』収録曲である「プラスティック・ラブ」が、海外で再評価されている動きはご存知の読者も多いだろう。そして、「プラスティック・ラブ」と同時期の楽曲群である『岡田有希子 Mariya's Songbook』収録曲もまた、強度の高い普遍性をたたえている。編集盤だが、「30年封印されていたシティポップの名盤」と言っても通用してしまうだろう。ともすれば、先入観なく正当な評価をするのは海外のリスナーなのではないか、と思うほどなのだ。

岡田有希子『岡田有希子 Mariya's Songbook』

■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter

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