「一縷」インタビュー

上白石萌音に聞く、新曲「一縷」での野田洋次郎との“タッグ” 「自分が真っ白になれる」

より音楽欲が高まった2年間だった

ーー上白石さんは今年7月に、CDとしては2年ぶりとなるミニアルバム『i』をリリースしたばかりです。初のオリジナルアルバムだった前作『and...』(2017年)からの2年間を振り返ってみて、歌うということに対する変化や新たに感じることはありましたか?

上白石:自分名義のCDは2年間出していなかったんですけど、その間もいろんな音楽番組に呼んでいただいたり、ミュージカルに出演して歌ったりしていたので、より音楽欲が高まったというか、「ああ、歌いたい!」って強く思っていた2年間だったんですね。役者のお仕事というのは誰かを演じるわけで、自分ではない瞬間のほうが多いですが、音楽活動をしているときは否が応でも自分と向き合うことが増えるじゃないですか。そういう時間が減ったのが寂しかったし、何より私はやっぱり歌が好きだし、それを待ってくださっているという声も届いていたので、2年ぶりにCDを出せたときは純粋にうれしかったですね。

 常に“歌うことが楽しくてしょうがなくて本当に幸せです、よかったら聴いてね?”みたいな気持ちでいられたら、音楽にも失礼がないなと思うんです。今またこうしてコンスタントに曲を出させてもらえてすごくうれしいですし、新しい曲と出会うたびに新しい歌い方を模索しますし。そのたびに自分と向き合えば、それだけ考えることや得たいものが増えていくので、やっぱり続けることって大切なんだなと思っているところです。

ーー特に上白石さんの場合、いろんな方に曲を作っていただくことで、外から見た自分を引き出してもらったり、自分が気づいていなかった部分を見つけもらったりという発見も多いのかなと思います。

上白石:まさにそうですね。曲を通してこういうふうに見ていただいているということは、ひとつ新しい自分を認めてもらったり新しいパーツをいただいたりすることなのかなという気がします。きっとお芝居も、絶対に自分とはかけ離れている役でも自分の中のどこかにそういう要素が存在しているからオファーしていただけるわけで。同じことなんだなって思いますね。

私を媒介して曲の素晴らしさがそのまま届けばいいな

ーーきっと歌手デビューするときはそれ以前の役者としての経験が歌に影響を及ぼしたと思いますが、歌手活動を続けてからは逆の効果もあったんじゃないかなと思うのですが?

上白石:歌をお仕事にさせていただいたことで「ただ好きなだけじゃダメだ」と思って、いろんな人に習いに行くことも増えました。その中で学んだことは、お芝居にも生きているとは思います。例えばブレスの大切さ。ある先生は「ブレスにどれだけ感情を入れられるかが大事なんだ。声を出した瞬間に感情を乗せようとしても遅い」と言うんです。「これから言葉を発しますよっていう息の中で、どういうことを言うか、そこに込めなさい」と。それってお芝居でも同じことが言えて、うれしいことを言う前の息と悲しいことを言う前の息って違うと思うんです。ブレスの間って静かじゃないですか。その静寂の中で一番感情が動く瞬間があるというのは、特に歌を始めてから気づきましたし、ちょっと視野が広がったんじゃないかな。

ーー確かにブレスの一瞬で、いろんなことが伝わることも多いですし。

上白石:今回の「一縷」もブレスから始まりますしね。私はシンプルなサウンドの曲を歌わせていただくことが多いので、息遣いまで聞こえるってことも少なくなくて。だからこそ、ブレスはとても大切だと思うようになりました。喋るのも歌うのももちろん、生きることでさえも呼吸が大切なわけで、そこにすべてがあるんだと。

ーーそのほかにも、歌う際に大切にしていることってありますか?

上白石:ひとりよがりにならずに、楽器の音をちゃんと聴くことですかね。ライブもそうで、歌う人はステージの真ん中に立ちますけど、それだけじゃ音楽はできない。バンドの皆さんやスタッフさん、みんなで作るものじゃないですか。だから、私は歌うときに「ここでどういうふうにギターが鳴って、ドラムがどこから入ってきて、ここでシンセサイザーが入る」とか、そういうことを全部感じながら歌いたいし、私も楽器のひとつになりたい。そこでは一緒に音楽でありたいという思いが強くて。歌うときもどういう声で、どういう感じで歌ったらいいかなというのを常に冷静に考えられたらなと思っていて、そこが今一番の課題であり、一番楽しい瞬間だなと思います。

ーーもしかしたら上白石さんって、曲を一番良い形で届けたいという思いが強いのかもしれませんね。

上白石:ああ、本当にそうかもしれないですね。私が最初にデモで聴いたときに「ああ、なんて素晴らしいんだろう!」って感じたように、皆さんにも同じ思いになってもらいたいんです。だから曲の邪魔をすることなく、私を媒介して曲の素晴らしさがそのまま届けばいいなと思っています。

ーー今回の「一縷」はまさにそういう曲になったと思いますよ。だからこそ、この曲を経た上白石さんが歌手として、この先どこに進んでいくのかも楽しみです。

上白石:毎回悩んで、練習して、削ぎ落としての繰り返しになっていくと思うんですけど、いただいた曲に合ったいろんな歌い方ができるようになれたらと思います。

(取材・文=西廣智一)

■リリース情報
配信シングル 10月14日(月)リリース
上白石萌音「一縷」(ユニバーサルJ)  ※読み方:「いちる」
作詞・作曲・プロデュース:野田洋次郎
映画「楽園」主題歌
※ハイレゾでもリリース配信

■映画情報
映画『楽園』
10月18日(金)全国公開
出演:綾野 剛 / 杉咲 花
村上虹郎 片岡礼子 黒沢あすか 
石橋静河 根岸季衣 柄本明
佐藤浩市
原作:吉田修一「犯罪小説集」(角川文庫刊)  監督・脚本:瀬々敬久
© 2019「楽園」製作委員会  配給:KADOKAWA 

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