アンジュルム 勝田里奈の卒業、そして考え得るハロプロの未来の可能性
また、本曲の作詞を担当したのは福田花音。言わずと知れたアンジュルム(旧称スマイレージ)の第1期メンバーで、“6スマ”と呼ばれる2012~2014年の6人組時代を勝田とともに過ごした戦友だ。アンジュルム卒業後に作詞家に転向した福田が、かつての同僚の卒業時に記念曲を歌詞提供する――これは今年6月の和田彩花卒業ソング「夢見た 15年」と同じ趣向である。
「とっておきのオシャレをして」の歌詞には、〈心の中にしかない 将来の野望を〉〈打ち明けた時未来に 大きな明かりさしたんだ〉〈目見て言ってくれた〉〈「がんばりな!」の言葉に 背中を押されたよ〉という4つのフレーズそれぞれに、“中にしかな=中西香菜”、“明かり=竹内朱莉”、“目見て=田村芽実”、“がんばりな=勝田里奈”という、2期メンバーの名前が組み込まれている。さらに、〈いつか卒業旅行 “アメリカ”でも行こうよ〉というフレーズは、2期メン4人の頭文字(あかり・めいみ・りな・かな)から取られた愛称“アメリカ”を踏まえてのものだろう。
こういった作詞術は、粋な演出とも言えるし、あまり何回もやられると効果が薄れるとも言える(「夢見た 15年」でも同様の手法が見られた)。このような手法を使わずとも、平易な言葉のみで人心を動かす歌詞を執筆できた時が、福田花音が作詞家として一皮むける時だろう。
卒業後の勝田は「ファッション関係の仕事に従事したい」と明言している。2017年からの2年間には、アンジュルムでのアイドル活動と並行して文化学園大学短期大学部ファッション学科で服飾業について学んでいた。また、ここ数年のアンジュルムのライブ衣装は勝田自らのコーディネートによるものが多く、ファンからも好評だ。
20年以上の歴史を持つハロプロだが、以前からの傾向として“メンバーの裏方スタッフへの転向”という要素がある。前述の福田の作詞もそうだし、モーニング娘。'19の佐藤優樹やJuice=Juiceの宮本佳林はDTMでの作詞作曲を趣味としており、ファンクラブ会員限定のメンバーバースデーイベントで自作曲を披露したりすることもある。今年5月に行われた佐藤のBDイベントでは、楽曲の新たな振り付けを同グループの加賀楓が考えて付けたということがあった。BEYOOOOONDSの小林萌花の特技はピアノ演奏で、すでにライブではパフォーマンスに組み込まれているし、モーニング娘。'19の佐藤や野中美希もピアノが特技、Juice=Juiceの宮本や高木紗友希はギターを練習中だ。カントリー・ガールズの山木梨沙はイラストが得意で、メンバーを描いたイラストがグッズ化されたりしている。
つまり、ハロプロの活動に関する歌やダンス以外の様々な要素にメンバーが関与するケースが年々増えているということであり、自給自足型アイドルとでもいうべき方向へ徐々に向かっているのが現在のハロプロだ。勝田のファッション志向にもそういう側面があるだろう(彼女の現在の所属事務所はアップフロント関連会社であるJ.P ROOM)。ハロプロメンバーおよびOGメンバーが制作したり演奏した楽曲を、メンバーがコーディネートした衣装で、メンバーが考案した振付で歌い踊るという未来も、そう遠いものではないのかもしれない。
■ピロスエ
編集およびライター業。企画・編集・選盤した書籍「アイドル楽曲ディスクガイド」(アスペクト)発売中。ファンイベント「ハロプロ楽曲大賞」「アイドル楽曲大賞」も主催。Twitter