金子厚武の「アーティストの可能性を広げるサポートミュージシャン」

サポートミュージシャンが広げる可能性:フジロックを沸かせたヒロイン、中村佳穂と小林うてな

 優れたミュージシャンが、表だった自らのアーティスト活動と裏方としてのサポート/プロデュースの両方を行き来することによって、音楽の歴史は作られてきた。特に、近年はアーティストの表現形態が自由度を増したことによって、「自ら生み出し、他も支える」というタイプのミュージシャンの活躍が目立つ。そこで、本連載では毎月のリリースやライブをサポート側にスポットを当てながら紹介し、ピープルツリーを広げることによって、現在の音楽シーンの動きを追っていきたい。今回は7月に開催された『FUJI ROCK FESTIVAL(以下、フジロック)』における2人のヒロイン、中村佳穂と小林うてなについて。

中村佳穂「q」

 今年も7月最終週の週末に開催され、3日間で延べ13万人を動員したフジロック。数々の名演はもちろん、大荒れの天候や、昨年から始まったYouTubeでのライブ配信なども含めて、大きな話題を呼んだが、今回のコラムではそんなフジロックの出演者の中から、「サポート」という観点で注目した2人のヒロインを紹介したい。

 初日のFIELD OF HEAVENにトップバッターとして登場し、「いきなりのベストアクト」という声も挙がったのが中村佳穂。昨年発表し、絶賛された『AINOU』は、3年前のフジロックでGYPSY AVALONに出演した経験と、GREEN STAGEで観たジェイムス・ブレイクのライブをきっかけに、長い時間をかけて固定メンバーで作り上げられた作品で、この日のライブは彼女にとってもひとつの節目となったはずだ。

中村佳穂BAND FUJIROCK Festival'16

 そんな中村のライブを支えるのが、「中村佳穂BAND」の面々。そのメンバーを改めて紹介すると、まずは00年代前半から活動するエレクトロニカ以降のポップバンド・レミ街のメンバーで、それぞれfredricsonやtigerMos、egoistic 4 leavesとしても活動するキーボードの荒木正比呂とドラムの深谷雄一。この2人は3年前のフジロック出演時のメンバーでもあった。そして、吉田ヨウヘイgroupのメンバーとして活動後、近年は岡田拓郎、石若駿、君島大空といった多彩な音楽家とのコラボレーションを続け、ジョン・フルシアンテからネルス・クライン、カート・ローゼンウィンケルまでを内包したようなスタイルで数多くのサポートを務めるギタリストの西田修大、シンガーであり、ビートメイカーでもあって、昨年ソロ作『POLYHEDRAL THEORY』を発表したMASAHIRO KITAGAWAという顔触れ。さらに、フジロックではCRCK/LCKSの小西遼を含むホーンセクションも参加していた。

 荒木の作り出すカラフルなサウンドや、レミ街のポップス要素とegoistic 4 leavesの変拍子やポリリズムを織り交ぜたニュージャズ要素を兼ね備える深谷のドラミング、ロックとジャズを横断する西田のギターに、KITAGAWAのエモーショナルなボーカルと、そのどれもが中村のステージには欠かせないが、さらに彼女のステージを特徴づけているのが即興の要素だ。もともと彼女は各地のミュージシャンとのセッションを軸に活動していたので、固定メンバーになった現在のライブにおいても、即興は重要な側面を担っている。中村自身が自由に言葉とメロディを紡ぐのはもちろん、セッション的な場面では西田やKITAGAWAのアドリブを交えたソロも大きな見せ場で、この自由度の高さが解放感のあるステージングに繋がっていることは間違いない。

 今年に入って発表された新曲「LINDY」や「q」には以前から交流のあった馬喰町バンドのメンバーが参加し、すでにステージ上でもコラボレーションをするなど、中村を中心としたサークルはさらなる広がりを見せている。一方、9月に予定されているKITAGAWAのリリースパーティーには、中村佳穂BANDのメンバーが集結するなど、そのつながりはより密になってもいる。一人のカリスマがすべてを統率するのではなく、個性的なプレイヤーたちとクリエイティブをシェアすることによって、強固でいてしなやかな音世界を作り出す。それが中村佳穂の表現なのだと言えよう。

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