パスピエ、高度な演奏技術が可能にする芸術と娯楽の融合 『more humor』ツアー最終公演を見た

 過去の代表曲、人気曲をバランスよく良くちりばめつつ新作からの楽曲を中心にしたセットリスト。中でも印象的だったのは「グラフィティー」と「ONE」だ。「グラフィティー」は、指がもつれるのでは? と思うくらい超高速で演奏される成田のクラヴィネットと露崎のスラップベース、佐藤のハイハットが激しくせめぎ合い、宙を切り裂くような三澤のギターが参戦すると、怒涛のグルーヴが会場いっぱいに押し寄せる。「ONE」は、ケレン味たっぷりのシンセフレーズと地を這うようなベースがヘヴィに混じり合う、パスピエにとって新機軸とも言える楽曲。いつもよりもキーが低くく、ソウルフルに歌い上げる大胡田のボーカルも新たな魅力を放っていた。

露崎義邦

 幻想的なマリンバのサウンドから始まる「resonance」は、マイナーとメジャーを行き来するコード進行と、懐かしくも切ないメロディが胸にしみる。幾何学的なアンサンブルで、近未来の“トーキョー”を映し出す「トーキョーシティ・アンダーグラウンド」、音響的なアプローチによってサイケデリックなウォール・オブ・サウンドを構築していく、その名も「煙」、アブストラクトかつインダストリアルな打ち込みに合わせ、しっとりとした演奏を聴かせる「waltz」など、ライブ後半もパスピエの無尽蔵な引き出しが次々と開けられていく。

三澤勝洸

 「東京ー!!」という大胡田の叫び声とともにスタートした「つくり囃子」は、お囃子のようなリズムと沖縄音階を用いたメロディ、トリッキーなギターソロやハードロックばりのキメなどが入れ替わり立ち替わり現れる「これぞパスピエ!」と快哉を叫びたくなるような楽曲。成田のファルセットコーラスが効果的だった、パスピエ流のシティポップ「△」や、80年代ニューロマンティックを彷彿とさせる「R138」、性急なシンコペーションが高揚感を煽る「ハイパーリアリスト」と、ラストスパートをかける彼らにオーディエンスも全力で応えている。

 「もうちょっと踊ろうか?」という大胡田の言葉とともに演奏された「オレンジ」では、天井のミラーボールが回り出し、Zepp Tokyoがディスコと化す中、マイケル・ジャクソンの「Rock With You」をアップデートしたような「オレンジ」でフロアのボルテージも最高潮に。「私が言いたいことは、全部この曲に書きました」と大胡田が紹介した「始まりはいつも」で、本編は終了。「また色んなところでお会いしましょう。パスピエでした。いつまでも繋がっててくれー!」という言葉とともにステージを後にした。

 アンコールでは、2020年2月16日に東京・昭和女子大学人見記念講堂での結成10周年記念公演『十周年特別記念公演 "EYE"(いわい)』の開催を発表した後、「トキノワ」と「恐るべき真実」を立て続けに演奏。それでも拍手とコールは鳴り止まず、再び登場した彼らはパンクとモーツァルトとお囃子が融合したような「ギブとテイク」を荒々しく演奏し、大盛況のうちに幕を閉じた。

 「印象派×ポップロック」というコンセプトのもと、高度な音楽性と、ずば抜けた演奏能力に裏打ちされたポップミュージックを奏でるパスピエ。いい意味で「音楽サークル的な和気あいあいとした雰囲気」をいつまでも保ち続けながら、ストイックなまでにエンターテイメントとアートの融合を追求し続ける姿はただただ圧巻だった。

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。ブログFacebookTwitter

▼リリース情報
5th Full Album『more humor』
発売中
Atlantic Japan

【初回限定盤】(CD+DVD)¥3,241(+税)
※DVD「パスピエ 野音ワンマンライブ “印象H” 2018.10.6 at 日比谷野外大音楽堂」

【通常盤】(CD)¥2,500(+税)

<収録内容>
1. グラフィティー
2. ONE
3. resonance
4. 煙
5. R138
6. だ
7. waltz
8. ユモレスク
9. BTB
10. 始まりはいつも
 
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■ライブ情報
パスピエ結成10thアニバーサリー公演
『十周年特別記念公演 “EYE”(読み:いわい)』

2020年2月16日(日)
東京・昭和女子大学 人見記念講堂
OPEN 17:00 / START 18:00

【チケット】
¥5,000(税込)
※全席指定
※小学生以上チケット必要

■P.S.P.E会員先行:7月16日(火)~
■オフィシャルWEB先行:8月02日(金)~
■一般発売:11月1日(土)~
結成10周年記念特設オフィシャルサイト
オフィシャルサイト

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