MAN WITH A MISSIONとONE OK ROCK、2組のバラードに刻まれたバンドのアイデンティティ
興行収入50億円を突破し、いまだ熱気が冷めやらない映画『キングダム』と医療の現場を舞台に出会いと再生を描く月9ドラマ『ラジエーションハウス』(フジテレビ系)。どちらも日本を代表するロックバンドが主題歌を手がけている。
ONE OK ROCK(ワンオク)「Wasted Nights」とMAN WITH A MISSION(マンウィズ)「Remember Me」。壮大なスケールとサウンドをもつミディアムテンポのナンバーがドラマチックな世界観の演出に貢献している。
パンク/ラウドシーンの出身で、海外の音楽シーンを射程にとらえながら独自の戦略でファン層を拡大する2バンドには、ミディアム~スローテンポの名曲が多いという共通項がある。なぜ、彼らのバラードは多くのリスナーの心を掴むのだろうか? そこにはバンドの音楽的な変遷とアイデンティティが刻印されている。
ワンオクのボーカル/メロディの魅力を新たな層にアピール
2019年2月にリリースされたワンオク9作目のアルバム『Eye of the Storm』に収録されている「Wasted Nights」。
ポップパンク路線の到達点となった前作『Ambitions』と比較して楽曲のブラッシュアップに注力した『Eye of the Storm』では、輪郭のはっきりとしたメロディと音数を絞り込んだサウンドのダイナミズムが全面に押し出され、外部ライターとのコライトは全曲に及んでいる。
大胆なモデルチェンジは同じ<FUELED BY RAMEN>所属のレーベルメイト、Panic! At The Disco(PATD)のアプローチにも通じる。ブラスやストリングス、電子音を取り入れたPATDのアレンジを可能にしているのは、何十人もが関与するコライトとボーカル、ブレンドン・ユーリーの個としての存在感だ。
『Eye of the Storm』では、Takaのボーカルとメロディを引き立てる形でサウンドが設計されている。「Wasted Nights」では、深いリヴァーブがかかったドラム音に合わせて空間を生かした奥行きのあるボーカル処理が施されており、キアーラをフィーチャーしたロマンチックなバラード曲「In The Stars」は、サビの後でEDMのドロップに相当するコーラスの繰り返しがエモーショナルさを増幅する。
もともと「Wherever you are」などのバラード曲でエモーショナルの極致ともいえる表現力を示していただけに、サウンドの意匠が変わってもバンドの核にある熱量は不変。結果として『Eye of the Storm』ではギター音は後退しているが、Takaのボーカルを中心に据えてサウンドの強度を高める選択はバンドにとっての新たなマイルストーンを提示し、ワンオクが本来持つメロディの魅力を新たな層にアピールすることになった。