異色の“移民者ラッパー”Moment Joon、日本社会へ放つコンシャスラップがシーンに与える影響
出身地である韓国を離れ、大阪を拠点に活動するラッパーMoment Joon。母語ではない日本語を主体に英語や韓国語を織り交ぜながら、日本の社会や政治、ヒップホップシーンについて外国人目線の鋭い感性でリリックをつむぎ出すユニークな存在のラッパーだ。
昨年12月にYouTubeで公開されたSKY-HI「Name Tag feat. SALU, HUNGER, Ja Mezz, Moment Joon」では、メジャーシーンで活躍するSKY-HIやSALU、仙台を代表するMCのHUNGER(GAGLE)、日本進出を果たした韓国人ラッパーのJa Mezzといったアーティストたちと共演。〈俺はプロフェッショナル外人/日本で見えないの、言えないので飯食ってる毎日〉〈俺の財布には札の代わりに在留カード/黙って働くのが日本が提示するロールモデル〉〈生まれ育ちずっと日本のやつが日本語らしくもない/ラップでコケてるうち俺は呼ばれてるよ伝説〉と自らのアイデンティティーを表現したキレのあるラップを披露し、多くのリスナーに強烈な存在感を示した。
韓国社会からドロップアウトし日本へ留学
韓国・ソウルで生まれ育ったMoment Joonは、小学生の頃に父親の仕事の都合で移住したLAでラップを始め、中学生のときにソウルに戻ってから本格的にラップにのめり込んだ。その後、音楽の道を志したが、親の希望もあり大学受験をすることに。しかし、競争の激しい韓国の学歴社会に嫌気がさし、韓国の大学への進学を拒否。高校で日本語を専攻していたことがきっかけで、韓国社会の現実から逃れるように大阪大学への留学を決意した。
大学入学後はMastermindというヒップホップサークルに入り、日本での音楽活動を開始。アッシャー・ロス「I Love College」をビートジャックした「I LOVE HANDAI」をYouTubeで発表し、大学生活の日常をユーモラスに描写したリリックで話題を呼んだ。その後も精力的に活動を続け、2011年にミックステープ『Joon Is Not My Name』、2012年に初のオフィシャル作品となるEP『Up Down』を発表し、ラッパーとしての活動が徐々に認知されていった。
しかし今後の活躍が期待されていた矢先に、徴兵により韓国に一時帰国。2012年から約2年間の兵役についたが、その間もMoment Joonの制作意欲は衰えなかった。兵役期間の休暇を利用し制作した2枚のミックステープ『The Game Waits Me Vol.1』と『The Game Waits Me Vol.2』を発表。日本のヒップホップシーンに自らの存在感を示し続けた。