『ポピュラーの在り処』インタビュー

大橋ちっぽけ、ポピュラーミュージックへの挑戦「これが届く日本の音楽シーンであってほしい」

「弾き語りのイメージを取り払いたい」

ーーニコニコ動画に動画をアップして反応がくる喜びというのもあったのでは?

大橋:初めて投稿した次の日の朝に、パソコンを開いたら、10件もないくらいだったんですがコメントが来ていて、それがとても嬉しかったことを覚えています。自分が何かを発信してそれに反応があるという感動体験が、本格的に音楽活動を始めるきっかけになったのかなという気はしますね。

ーー16歳の頃にはオリジナル曲を作り始めますが、そこまでの経緯を教えてください。

大橋:プロではない身近な、ニコ生(ニコニコ生放送)やツイキャスなどの弾き語りの配信者たちが、オリジナル曲を書いているのを見て、刺激を受けました。僕は元々メロディを作るのがなんとなく好きで、ギターを始める前から頭の中で「こういうメロディがあったらめっちゃキャッチーだよな」って考えることも多かったんです。高校生のときに、ギターもある程度弾けるようになったから、今なら作詞作曲も出来るのかなと思って、取り組み始めました。

ーー最初の1曲って覚えてますか? それも配信したのでしょうか。

大橋:最後まで作り終わらない曲がいろいろある中、16歳のときに初めて完成させたのが「sixteen」という曲で、それは今でもネットにあがってます。

ーー自身の中で溜まって行く曲を何らかの形にしてみたい、メジャーリリースを含め、もう少し大きな展開で出してみたいと思い始めたのはいつ頃ですか?

大橋:高校3年生の18歳のときに、『未確認フェスティバル』という『SCHOOL OF LOCK!』(TOKYO FM)が主催している10代限定の音楽の祭典があって、そこに自分の作った曲を興味半分で応募してみたんですよ。そのときはプロになりたいとか、そういうことはあまり考えたことがなかったんですが、3次審査(セミファイナル)まで行くことができて。僕は大阪会場だったんですが、初めて大きな会場で、音楽関係者の方々や音楽が好きなお客さんたちの前でライブをして、僕の音楽はちゃんと届く、受け入れてもらえるんだということを実感したんです。それまでにも地元・愛媛県松山市では1、2回くらいライブに出たことがあったんですが、地域の人たちが和気あいあいと音楽を楽しむ程度の小さいバーみたいなところだったので。『未確認フェスティバル』に出て、初めて「行けるところまでやってみたい」という想いが芽生えました。

ーーそして今回、念願のメジャーデビューを果たしたわけですね。今作では洋楽的なアレンジもいくつか見受けられますが、印象に残っている洋楽アーティストや作品は?

大橋:Galileo Galileiが海外アーティストの曲を日本語でカバーしていて、その中で知って好きになったバンドは、The 1975です。最初からスッと入ってきて、すぐにハマりました。作品ごとに色の違う曲を歌うバンドなので、聴いていてすごく楽しいし勉強にもなる、まさに憧れの音楽です。あとは、The Smiths。1980年代のバンドですが、耳なじみがよくてずっと聴いてます。全然キャッチーじゃないなと思う曲もあるんですが、一方ですごく心に響いて残る曲もあって、癖になりました。当時は、Galileo Galileiが影響を受けてきたアーティストの中にも、まだ僕にはわかんないなと思っていた洋楽もあったのですが、いまではその良さに気づくようになってきたので、聴く海外のバンドを少しずつまた増やしていってます。いまは、ジュリアン・ベイカーがすごく好きです。

ーーお話を聞いていて、大橋さんが手がけた今作とThe 1975の作風には重なるところがあるのかなと思いました。1曲1曲のアレンジが全く違う方法で打ち出されていて、たとえば「ダイバー」のように水の中に潜っていくようなダウナーな曲もあれば、「夢の中で」のようにR&Bテイストな曲もある。

大橋:僕は、弾き語りのイメージを取り払いたいなと思っていて。もちろん弾き語り系の音楽にも影響は受けてきたんですが、いま影響を受けているのはバンドや打ち込みのサウンドなので、僕もそういう方向でやっていきたいなと。自分が作って歌いたいと思う音楽が、どんどん変化していく中で、いまでは弾き語りベースでは考えられない曲になってきました。たとえば前作は弾き語りで作った曲が原型にあって、それをバンドアレンジするみたいな感じだったんですが、今作ではまずバンドや打ち込みで作った原曲があって、ライブでやるときにはそれを弾き語りにアレンジするという逆の発想になっています。今回はギターを使わずに打ち込みだけでデモを作ったものもあって、そうなると弾き語りのアーティストという風に見られるのは音楽性的にも違ってくるんじゃないかなと。だから、今作はフルで弾き語りの曲は1曲も入れてません。全部バンドや打ち込みでアレンジしています。前作は弾き語りの音源をそのままアレンジャーさんにアレンジしてもらう感じだったんですが、今作は自分で打ち込みを入れたりミキシングしたりして、一度アレンジを組んでからアレンジャーさんに渡して、アドバイスをいただきました。そういう意味では、前作以上に自分がやりたいアレンジの方向性に忠実なサウンドが完成したのかなと。

ーー歌詞の面でも今作では、個人のいろいろな想いを伝えるために歌うことから、自分じゃない誰かの物語を紡ぐような側面まで見えます。ちなみに「夢の中で」は自分に関する曲ですか?

大橋:「夢の中で」は、ほとんどフィクションですね。

ーーフィクション的な書き出しで始まりますもんね。この曲は、ドライブ中に聞きたくなるようなポップスとしても非常に素晴らしい曲だと思います。

大橋:ありがとうございます。僕も今作の中で「夢の中で」は、1番好きなくらい気に入ってます。この曲は、メロディが最初に出来て。メロディだけ聞いたらちょっと陽気な曲っぽい雰囲気なんですが、そこに悲しげな歌をつけてみたらどうなるんだろうと思って、“失恋”をテーマに歌詞を書いてみました。そしたら、カラ元気な感じが歌に出ていいなと、僕の中でぴたりとハマったんです。

ーー確かに、この曲からは、前向きな陽気さと後ろ向きなもの哀しさがミックスされているような感じを受けました。

大橋:歌い方の部分でも、明るさと悲しさをいい感じにミックスできたなと思っています。実は「夢の中で」の音源は、家で録ったデモをそのまま使用しました。全然いい機材ではないのですが、ボーカルとアコギは宅録したものをそのまま使った方がいいと思ったので。誰の目にも触れずにひとりで自宅で録ったので、気張りがなく、いい意味ですごくリラックスしていました。だから、独特の陽気感が歌にも出ているんじゃないかなと思います。

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