『PIT VIPER BLUES』インタビュー
T字路s、『PIT VIPER BLUES』で示したデュオ編成の可能性「逆に音楽性が広がった」
『フジロック』でも西成の飲み屋でも、初見の観客の度肝を抜くことという意味では常に100%のテンションでライブを行うT字路s。ギター&ボーカルの伊東妙子とベースの篠田智仁という最小編成を生かしたニューアルバム『PIT VIPER BLUES』を1月23日にリリースしたばかりだ。
ブルースやブギウギのイメージが強い彼らだが、今回はジャンルにとらわれることなく、日常から浮かび上がる感情や詩情にフォーカスした強い歌モノが集まった。二人を軸に盟友・ハンバート ハンバートの佐藤良成らが最小限必要な楽器で参加した、よりT字路sの核心がうかがえるサウンドプロダクションも聴きどころ。
「買い物ブギ〜西武・そごう 2018ver.〜」や「ほっかほっか亭」CMなどで、お茶の間にも存在感が広がりつつある今、改めて「T字路sとは何者か?」をメンバーへのインタビューで紐解く。(石角友香)
篠田「“反骨心”みたいなものを持ってやっている」
ーー最初からベタなことをお聞きするんですが、伊東さんはライブでハイヒールで高いところから飛び降りたりするのは大丈夫なんですか?
伊東妙子(以下、伊東):ははは。活動8年半ぐらいの間で2回ほど落下して足を挫いたことがあります(笑)。
ーー2回しかないってすごいことですね。
伊東:10センチのピンヒールなんですけど、大丈夫です。コツはためらわないこと(笑)。
ーーエンターテインメントとして楽しんでほしい?
伊東:そうですね。ロックとかパンクとかやかましい界隈で若い頃から活動してきたんで、そういうことが割と当たり前に行われてて。だから「どうじゃー!」っていうかっこつけの一つではあるんですね(笑)。
ーー(笑)。T字路sの現場は『フジロック』のようなステージから西成の飲み屋さんまで場所は様々です。
伊東:最近はワンマンが多いので、私たち目当てじゃない人がいない状態でやらせていただくことが多いです。それは嬉しいことなんですけど、もっと鍛えていかないとなと思います(笑)。
篠田智仁(以下、篠田):通りがかりの人の足を止めるというか、そういう反骨心みたいなものを持ってやっています。
ーー『フジロック』の前夜祭は直前まで出演者がわからない分、毎年楽しみなんですが、お二人が出演した一昨年も盛り上がりました。
篠田:あの年は前夜祭は二人で出て、他の2ステージはバンドでやりました。全部よかったんですけど、前夜祭のライブが印象的でしたね。いつも通りの感じでできたというか。
ーーそもそもT字路sはなぜ2ピースなんですか?
伊東:私が長くやっていたバンド(DIESEL ANN)が解散したばかりのころ、弾き語りをやろうかと思ったんですね。それでちょっと活動してみたんですけど、あまりにも音数が寂しくて(笑)。近くにいたベースの人に2、3曲ゲストで弾いてもらえないか? というのが始まりだったんですけど、やってみるとよくて。それから正式に二人で活動することにしました。
篠田:やってみたら逆に「ドラムがいない方が面白いかも」という感じになって。ドラムがいるとどうしてもスペースが決まってくるけど、ドラムがいないことによって、ベースがいわゆるベースっぽいプレイをしなくても許されるので。
ーーT字路sはブルースと形容されがちだと思うんですけど、お二人の元々のルーツは割とスカとかダブに近いんでしょうか?
篠田:僕は完全にそっちなんですけど、妙ちゃん(伊東)はオイスカ(Oi-SKALL MATES)をやっていたけど、聴いてなくて。
伊東:どっちかというとロック、パンクのあたりでガチャガチャ遊んでいた時にオイスカの人と出会って、加入したので、あまりその辺は聴いていなかったですね。
ーーどちらかと言えばパンクなんですかね?
篠田:そうですね。周りもパンクスの人が多いし、T字路sを始めた時もアコースティックなんだけど、カマすようなライブをしてやろうって気概でした。
ーー動画コメントには「女性版憂歌団」と書いてる人もいますが。
篠田:そんな風に言われるけど、ブルースをやっているとも思ってなくて。でも言われるのは嫌じゃないし、ただいわゆるブルースをやろうと思ったことがないというか。
ーー人生を歌っていると勝手にブルースになるものということですか?
篠田:だと思っています。だからブルースって言われると嬉しい。
ーー今回のアルバムタイトルにある“PIT VIPER”を冠したライブは、もう一昨年からやっていますね。
篠田:実はそれよりもっと前から『まむしの音楽会』っていう自主ライブは組んでいて、それが英語になったみたいな(笑)。
ーーマムシにはどんなイメージが?
伊東:イメージとしては物陰とか草むらに潜んでいるんだけれど、「一撃で射抜く強烈な毒で、あなたの心、射抜きますよ」という意味で使っていますね。
ーーまさに(笑)。二人きりでライブをやっていて、今回レコーディングもほぼ二人で。何かビジョンがあったんでしょうか。
伊東:ミニアルバム3枚、カバーアルバム1枚、オリジナルアルバムが今回で2枚目なんですけど、今までって大体ゲストさんをがっつり入れて、曲作りの段階からバンドありきでアレンジを考えてきたんです。でもライブはほとんど二人でやるので、ちょっと再現しづらい曲があったりして。一度、二人だけで成立しているものを本気で作ってみたいと思ったんです。そこに味付けしてもらえるようなゲストさんに少し入っていただく作り方にして。もう一度二人で立て直す、というかね?
篠田:崩れてはいないんだけど(笑)。二人にしたことで逆に音楽性が広がったというか、前のようなゲストありきだと、例えばこの曲はブルースっぽく、とか、ジャズっぽく、とかになりがちだったんです。でも二人で成立させることを考えると、それだけじゃ狭くなっちゃうんで、原曲の世界観を自然に広げられるようなアレンジにしたら今回の作品のようになりました。
ーー音数が少ないと、お二人の覚悟や息遣いが鮮明な気がします。
篠田:二人だけだと呼吸を見て合わせるというか。人数が増えれば増えるほど共通のカウントがないと成立しなかったりするので、その時に「あ、なんかこれいつものT字路sでやってる時とノリが違うな」っていうのは感じてて、あえて二人にしてみようと。
伊東:私が歌に引っ張られてギターを弾いている状態で。私は夢中で歌を走らせることに意識を集中して、それに合わせてもらっているので、二人だとそれが合わせやすくて。
ーー伊東さんの歌とギターだけの状態って、すごくパーソナルなものだと思うんですよね。その時のコンディションがもろに反映されるというか。
篠田:どんな場所でも100%でやるっていうのはブレていなくて、それがちっちゃいバーだろうと『フジロック』のステージだろうと、全力っていうのは一緒で。あとはコンディションとその時のメンタルなんですね。だからアスリートに近い。でも普段はタバコも吸うし酒も飲むし(笑)、どうやって整えてるのかな? と思うんだけど。
伊東:体は丈夫なので、体の調子でどうこうっていうのは余程のことがない限りないから、一番は気持ちを作るっていうことですかね。まぁ、それでライブ前はあまり人と話せなくなりますが(笑)。