Aimerの音楽がカラフルに花咲いた瞬間 ホールツアー『soleil et pluie』を観て
バンドメンバーの演奏テクニックを駆使したアッパー系のインストナンバーを挟み、ライブは“雨”を表現するセクションへ。黒をベースにしたシックな衣装に着替えたAimerは、雨をイメージした照明とともに、まずは昨年のシングル曲「Ref:rain」を披露。雨の日の切ない思い出をリフレインするような歌によって、ライブの雰囲気は一変。声そのものの魅力で楽曲の世界観を増幅させるAimerのパフォーマンスはやはり圧巻だ。初期の代表曲「Re:Play」における憂いを帯びた歌声も絶品。前述した通り、彼女の音楽の幅は大きく広がっているが、“シックなダークネス”と呼ぶべきボーカル表現こそがAimerの核なのだと改めて実感させられた。“雨”コーナーにおける頂点は「Black Bird」。映画『累-かさね-』の主題歌として制作されたこの曲は、他者をうらやむ気持ち、愛される存在になりたいという切実な思いを込めたナンバー。どこかミステリアスなイメージをまといながら、ひとつひとつの言葉を手渡すように歌うボーカルには本気で心を揺さぶられてしまった。どんなにシリアスな楽曲を歌っても、決して上品さを失わないことも、彼女の大きな魅力だろう。
「最後にもう一度、太陽の下で、みなさんと思い切り楽しみたいと思います!」というMCからライブはエンディングに向かう。しなやかな4つ打ちのビート、ブライトネスを感じさせるメロデイとともに、文字通り“雨上がり”の風景を描き出す「After Rain -Scarlet ver.-」、そして、スキマスイッチが提供した極上のポップチューン「Hz」。ステージの端から端まで移動し、観客に手を振りながら直接的なコンタクトを取ろうとする姿も強く心に残った。
「表現者として、もっともっと自分の音楽を追求したい。そう思って、ツアーの準備をしてきました。“本当にこれでいいのかな”と不安に苛まれながら、苦しんでいるうちに、私のなかにある強いところ、弱いところこそが、“太陽と雨”そのものなんじゃないかと気付いたんです」。そんな言葉から導かれたのは、野田洋次郎の作詞作曲による「蝶々結び」。人と人との繊細で大切な関係を綴ったこの曲によって、本編は幕を閉じた。
アンコールでは最新シングルの収録曲「Sailing」を鍵盤と歌のシンプルなアレンジで披露。観客に対する感謝、「これからも自分自身の音楽を追求していきます」という決意を改めて示し、ライブはエンディングを迎えた。Aimer自身の生々しい思い、そして、常に進化を続ける音楽性をストレートに体現した、濃密にしてリアルなステージだったと思う。
■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。