杉山仁が選ぶ、2018年洋楽年間ベスト10 ますます広がりつつある“文化的な多様性”

 もうひとつ、欧米圏での2018年の象徴的な出来事としては、白人中心主義的な価値観から逃れていくような、非英語圏の出自を持つアーティストによる作品が広く支持を集めたこと。中でもインディシーンで話題となったNY在住の日系シンガーソングライター、Mitskiの『Be the Cowboy』は、モダンなソングライティング/コードワークの魅力が凝縮された作品。代表曲「Nobody」を筆頭に、かつてのファイストやセイント・ヴィンセントなどにも通じる緻密な作曲の妙と歌が詰まっている。インディ系シンガーソングライターも女性の活躍が目覚ましく、スネイル・メイルの『Lush』や、女性シンガーソングライター3組によるboygeniusの『boygenius EP』など、名門<Matador>からリリースされた作品も印象的だった。

Mitski – Nobody (Official Video)

 メインストリームのポップシーンで印象的だったのは、自身のマンチェスター公演がテロの標的になり、実行犯を含む23人が命を落とすという悲劇を乗り越えてリリースされたアリアナ・グランデの4作目。2作目「My Everything」以降続けてきた音楽的な冒険をさらに推し進め、トラップ以降のサウンドと歌詞のメッセージ性をより追求して、アーティストとしてさらなる進化を遂げている。1曲目「Raindrops (An Angel Cried)」がアリアナ自身のアカペラからはじまる構成も感動的だった。また、The Knifeらに影響を受けてエレクトロポップ路線に転向した2005年作以降、ポップミュージックのエッジを体現してきたスウェーデンのロビンによる8年ぶりの新作『Honey』は、80’sポップとエレクトロを現代風に解釈する方法論はそのまま、粒揃いの楽曲で欧米でも広く人気を獲得。引用するクラブミュージックがオーソドックスなものであることが、華やかさや普遍性に繋がっている。

Ariana Grande – raindrops (an angel cried) (Audio)

 アメリカでのラテン系サウンドの流行やイギリスでのアフロビートの再評価ともリンクする形で、スペインの伝統音楽フラメンコとヒップホップR&B以降のポップミュージックとを繋いで話題となったのは、スペインの歌姫・ロザリア。彼女の場合、00年代~10年代初頭のインディシーンでトロピカルなインディロック/アフロビートを鳴らしていたエル・ギンチョがプロデュースを担当していることにも驚かされた。前述のMitskiはもちろんのこと、前作が全英1位となったフランスのChristine and the Queensによる『Chris』の好評や、BTSによる全米チャート1位、アジアのユースカルチャーを欧米に輸出する<88rising>所属のオーストラリア系日本人シンガー・Jojiによる米ビルボードR&B/ヒップホップチャートでの首位なども含めて、非英語圏出身アーティストの勢いを象徴する出来事のひとつだった。

 最後のソフィーは、2010年代のポップスの最もスタンダードな作曲方法となったコライトによる分業体制や、ラッパーの作品量産体制などを下支えするトラックメイカーたちによるオリジナル作品の中でも、ジャンルを超えて最も支持された作品。2010年代初頭に<PC Music>周辺の鬼っ子として実験性や悪意を全開にしていた彼が、マドンナやチャーリー XCX、ビンス・ステープルス、安室奈美恵らとの仕事を経て、メガトランスやカートゥーンポップなど時代の傍流に押し流された要素を現代に引きずり出している。彼が最初に注目を浴びはじめた2013年以降の数年間は、英オックスフォード辞典が2015年の「今年の単語」として泣き笑いの絵文字を選ぶなど、海外でもSNSが生んだマナーが広く一般化していった時期。ソフィーの作品の特徴も、言葉では説明しきれない漠然とした「あの感じ」「あの感情」を、まるでSNS上の絵文字やクソコラ画像のようにある意味“視覚的”に表現していくというもので、音楽で表現できる領域を押し広げていくような不思議な興奮がある。

SOPHIE — OIL OF EVERY PEARL’S UN-INSIDES (Full Album Stream)

 2018年の傾向として言えるのは、音楽に限らずとも欧米のエンターテインメントの様々なジャンルで顕在化する「文化的な多様性」が、ますます広がりつつあるということ。サブスクリプションサービスの普及によるリスニング環境の変化や、欧米を中心とする価値観だけが時代を牽引するわけではなくなった現代ならではの国際社会の形を反映するように、世界各地の多種多様な文化が音楽の名のもとにクロスオーバーしていく様子は痛快で、それゆえ各アーティストの出自や文化的なバックグラウンドに拠った「替えのきかない個性」や「それぞれの違い」がより際立つような雰囲気が生まれていたことも印象的だった。果たして2019年の音楽シーンではどんなことが起こるのか。引き続き楽しみにしていたい。

■杉山 仁
乙女座B型。07年より音楽ライターとして活動を始め、『Hard To Explain』~『CROSSBEAT』編集部を経て、現在はフリーランスのライター/編集者として活動中。2015年より、音楽サイト『CARELESS CRITIC』もはじめました。こちらもチェックしてもらえると嬉しいです。

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