『fragment』インタビュー

片平里菜×小西君枝が語り合う、心を豊かにする人との出会いと“音楽と食”の共通点

常に自分の気持ちを込めて作りたい(小西)

ーー今の話って、音楽にも通ずるものがありますよね。聴いてくれるお客さんがいて成り立つし、聴くことで活力をもらえる。すごく共通するものがあるなと。

小西:そうかもしれませんね。私は学生時代から食について学んできましたが、自分の原点は誰かを思って作った料理を大切な人たちと食べること。すごく美味しいとか完璧な栄養の料理というよりも、私は心の栄養をすごく大事にしていて。それって音楽も一緒ですよね。

片平:うんうん。歌が上手とか見栄えがすごく良いとか、そういうことじゃないですよね。

小西:音楽を聴くことで勇気をもらったり癒されたりするのは心の栄養になるから、そういう意味では同じ感覚でつながっているかもしれないね。私自身伝えたいことがあって、みんなの力になれたら嬉しいということが第一にあってやっているから。

片平:確かに。

ーー受け取る相手を思い浮かべて作っているわけですものね。

小西:そうですね。顔がわかると、気持ちも込めやすいし。例えば里菜ちゃんに作るときは里菜ちゃんのことを考えるから、ひとり暮らしだし野菜をたくさん食べてもらいたいとか、外食とは違う家庭の味を楽しんでほしいとか考えるし。仮に不特定多数に対して作るとしても、これを食べて何かが伝わればいいなって気持ちを込めて作るのと流れ作業で作っているのとでは、料理自体に人の温もりがある/なしが出ると思うから、常に自分の気持ちを込めて作りたいなと思っています。

片平:……カッコいいでしょ?(笑)。

ーーはい(笑)。片平さんも身近にいる人や大切な人に向けて作る曲もあれば、不特定多数の人に届けたい歌もあるでしょうし、そうやって音楽を介して人とつながりたりという思いが強いわけですよね。

片平:強いですね。私も「こんな曲も書ける、あんな曲も書ける」っていう技術や上手さを顕示するよりは思いや感情を大切にしたいし、自分から生まれた感情が真新しかったらそれを形にして人に伝えたいと思うし。スタートは自己救済ではあるんですけど、それが最終的にほかの人を救う曲になったらいいなというのはありますね。

人の温もりを求めていた(片平)

ーーそういう音楽活動を続ける中で、気づけばメジャーデビューから5年経ち、初のベストアルバム『fragment』を発表できるのは正直すごいことですよね。

片平:そうですね。ベスト盤を出せるぐらい曲をリリースし続けていたという憧れは、ずっとありました。でも、実現できるなんて想像もしてなかったので、今はすごく嬉しいです。

ーー今回の取材に際し、小西さんにお気に入りの楽曲を選んでいただいたんですよね。

小西:はい。好きな曲が多すぎて選ぶのが難しくて、まったく絞りきれなかったんですよ(笑)。

片平:嬉しい(笑)。

ーー小西さんが選んだのは「夏の夜」「からっぽ」「HIGH FIVE」「誰もが」「異例のひと」の5曲。

小西:歌詞を改めて読みながら曲を聴いて、ちょうど今の私の心に留まった曲を選びました。「夏の夜」は里菜ちゃんのデビュー曲ですけど、書いた時期は10代後半ぐらいだよねとか、「からっぽ」も東京での生活が長くなってから書いた曲だよねとか……私も東京に出てきてから20年になるんですけど、料理に関する仕事をしていきたいと思って、料理の学校に入学するために上京してからずっと食に関することをやり続けているんですよ。でも、続けていく中で当初思っていたのとは違う形のお仕事もあって、20年ぐらい経った今また新たにターニングポイントというか改めて考える時期で。「なんで食の仕事をしていこうって、高校2年生のときに決めたんだろう?」とか「食の仕事でもコックさんになるとか栄養士さんになるとかいろんな選択肢がある中で、私は何を一番目指していたんだろう?」とか、原点に戻るタイミングというか昔を思い出すことが多いんです。今回選んだ曲の感じじゃわりとそういう、夢もあるけど不安もあるみたいなものが多いかもしれませんね。

片平:確かに。「からっぽ」とかそうですね。

小西:「異例のひと」はまたちょっと違って、これは可愛くて曲もすごく好きで、定番として入れました。「夏の夜」とか「からっぽ」とか「HIGH FIVE」とかは……。

片平:気合いを入れてやっていくぞ! みたいな(笑)。

小西:そう。不安な気持ちと、テンション高めに「頑張ろう!」っていう思いが混ざった感じだよね。

片平:それで、「誰もが」は夜にひとりレシピを考えたり(笑)。

小西:そうそう(笑)。今回選んだ5曲はそういう感じですね。

片平:嬉しい! 私は私で、キミちゃんの存在にはすごく救われているから。出会ったこの1、2年の間がちょうど私、自分の活動にめっちゃ悩んでいた時期で、特に去年は何か苦しくて、なんでこんなに楽しくないのか、その理由がわからない時期だったんです。そこからちょっとずつ原因がクリアになっていく中で、ひとりの時間に自分と向き合うことがどんどん多くなっていって。それは自分で求めてそうしていたんだけど、それこそ「からっぽ」じゃないけど……人の温もりをすごく求めていたんですよね。親元を離れて東京でひとり暮らしをしていて、友達もいるけど気軽に誘えるみたいな子は少なかった。それでもごはんは食べないと元気が出ないので、いろんなお店に行ったり、それこそキミちゃんのアトリエに行ったりして、そこで会話するだけで本当に元気をもらった。この1年はそうやって救われていたのかな。

ーータイミング的にも、25歳前後って人生に関して悩む時期でもありますし。

小西:結婚する友達が増えてきたりして、大人を意識するというか。20代前半は若さが勝って夢や希望を追いかけていたけど、25を超えたぐらいで女性は特に「あ、30までもう5年切った」と感じるのかもしれないね。私も27歳ぐらいのときに仕事とプライベートで大きく変わるタイミングがあっから。

ーー大学生が社会に出てちょうど3年ぐらい経ち、結婚する人も出てきたり、会社で地位を確立する人も出てきて、自分を他人と比べたりすることも増えるのかなと。

小西:人と比べる時期っていうのはたぶんありますよね。

片平:うん、それで焦りますよね(笑)。

小西:それで自信をなくしたり。

ーーましてや片平さんの場合、サイクルの速い音楽の世界に身を置いているので、余計に感じることがあるのかもしれないし。

片平:確かに。比べられる業界だから余計にしんどかったのかな。だから、音楽とまったく関係ない世界の人や私のことを知らない人……ゆくゆくは知ってもらいましたけど、最初は知らない人と話すことが単純に楽しかったし、逆になんでも話せたというのはあるかもしれないですね。

小西:私も料理業界に仲間や友達が多いし、食関係の学校だったから同級生も形は違えど同じ業界にいるけど、そこまですべてさらけ出せないところがあるから。全然違う業種だからこそ話せることもあるし、年齢も違うからわりと話やすかったのかな。

関連記事