レディー・ガガの華麗なる逆襲 『アリー/スター誕生』でオスカー&グラミーどちらも射程内に

 初期の脚本では男性側の主人公はカート・コバーンをイメージして書かれていたとのことだが、監督のブラッドリー・クーパー自身が演じることになったことで(候補にはジャック・ホワイトの名前も挙がっていたという)、作中での音楽性の設定がカントリー/ブルース系へと引き寄せられていくことに。アルバム『ジョアン』での試みの一つとしてアメリカンルーツミュージックにアプローチしていたガガにとっても、そんな本作のサウンドトラックの方向性はクリエイティビティが大いに刺激されるテーマであったに違いない。カントリーミュージック界のレジェンドであるウィリー・ネルソンの息子ルーカス・ネルソン、ブラッドリー・クーパー、そしてガガ。その3人を中心に作劇との綿密な連携をとって制作がすすめられたサウンドトラックの放つエネルギーが、本作『アリー/スター誕生』を良くできたハリウッドクラシックのリメイク作であるだけにとどまらず、音楽的にも血の通った現代的な作品に昇華させている。

 ブラッドリー・クーパーは本作の音楽面におけるガガの仕事について次のように語っている。「ステファニー(ガガ)は、『このアーティストと組むべきよ』とか、『この人ならきっといい結果をもたらす』とか、よく言っていたのですが、そうしているうちに、僕はやることがなくなりました。彼女が全部段取りをつけてくれたので、僕はみんながそろった部屋へ入っていけばよかったんです」。そうしてガガに集められた音楽家の一人、ルーカス・ウィルソンの証言も紹介しよう。「ステファニーと僕は、もうどうかしちゃったんじゃないかと思うくらいに曲を書き始めました。彼女はすばらしい作詞家で、歌詞は天才的です」。

 歓楽街の裏通りにあるクラブの夜明けの駐車場。その気だるい空気の中に浮かんでいたメロディとハーモニーと言葉をそのまま封じ込めたような「シャロウ」の生々しい響き。作品のクライマックスを飾る「オールウェイズ・リメンバー・アス・ディス・ウェイ」が放つ詩情と圧倒的な歌声。「女優」としてこれ以上ないほど最高のデビューを飾ることとなり、「音楽家」としてもビルボードアルバムチャート3週連続1位というガガにとってキャリア史上最高の成功をもたらすことにもなった『アリー/スター誕生』。いよいよ12月21日に迫った日本公開、そして年明けのアメリカでの賞レース(アカデミー賞もグラミー賞も)と、まだまだその旋風は始まったばかりだ。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「MUSICA」「装苑」「GLOW」ほかで批評やコラムを連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。新刊『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)、2018年11月28日発売 Twitter

■作品情報
『アリー/ スター誕生 サウンドトラック』
発売中
価格:¥2,700(税込)
品番:UICS-1344

『アリー/ スター誕生 サウンドトラック』オフィシャルサイト
映画『アリー/ スター誕生』オフィシャルサイト

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