BTS(防弾少年団)はアメリカでどう評価されている? K-POP全体にもたらす影響を考える

BTSのアメリカ人気がK-POP全体にポジティブな展開もたらす?

 また、彼らは人気グループにしては個人活動が少なく(ソロ作品も常に無料配信で、数字が出るような有料でリリースされたことはない)、あくまでもグループでの活動を優先しているように見える。台湾のジャニーズファンについての研究書『台湾ジャニーズファン研究』(陳怡禎著)によると、ジャニーズファンの間では純粋な関係性の単位としてグループが最優先されており、グループの仲の良さが応援へのモチベーションに大きく関係することすらあると述べている。さらにメンバーの関係性を通じて自分たちもある種の友情にも似たファン同士のコミュニティを作ることそのものがファン活動であり、それがリアルの人生とファン活動を結びつける部分にもなりうるという。どこかの男子グループファンドムに直接身を置く人であれば、これはそのまま世界中の「男子アイドルグループ」にも適用できる感情だと共感できるのではないだろうか。Netflixの『Explained:K-POP』でアメリカのBTSファンが「彼らの仲のいいところが好き。一番仲が良く見える」と言っていたことからも、BTSの「仲の良さ」は世界的な人気やファンによる拡散の原動力において多くの割合を占めるのではないかと思わせる。

 アメリカへの異文化の流入という点でブリティッシュ・インベイジョンと比較されがちなBTSであるが、実際のファンコミュニティを見るとむしろ日本のゲームやアニメのアメリカのファンコミュニティに近い受容のされ方をしているようにも感じられる。アメリカ国内ではThe Beatlesのファンには白人が多かったが、BTSのファンにはさまざまな人種がいるからだ。ウェブの発達により人種間のカルチャーギャップは以前より緩和されつつあるが、やはり音楽ジャンルに置いてはファンドム間の人種の偏りは存在するようで、それはNewsweekが「Black K-POP fan in BTS」という記事をあえて書いたことからも伺える。BTSがアメリカではサイレント・マイノリティと呼ばれていたアジア系であること、白人でも黒人でもないある意味で2次元のように(リアルではあるが)今まではリアリティのあるイメージが持たれにくい存在だったことが、逆に様々な人種からの支持を得やすいプラスポイントになったという部分もあるのではないか。

 アジア人キャストを起用し、今年大ヒットした映画『クレイジー・リッチ!』の観客もアジア系ばかりではなかった。彼らのルックスがアメリカ的マッチョイズムの価値観からは遠いということも驚きをもって指摘されることではあるが、韓国のアイドルの細身でカラフルな髪の色で中性的というイメージは、2次元の世界においてはすでに美的価値として世界中で受け入れられている。アニメーションや漫画はすでに世界中の若者の間ではレアカルチャーではなく「アジアのカルチャーオタクかどうか・アジア人が好きな癖があるかどうか」ということとは関係なく目にしているものであり、潜在的な美的価値観の多様化があったとしても不思議ではない。ただ、それを具現化してくれる3次元の存在が今までのアメリカのカルチャーからは出てこなかったということではないだろうか。

 BTSがアメリカ国内で「人気アイドルグループ」と認識されてくると同時に、K-POPだという特異性がなくなってきたことで逆に音楽的なメディアでは取り上げられることは少なくなってきた。韓国ファンドムにおいて一般的なこととして行われている(良いこととはされていないが)スミンやVPN配布(ストリーミングサービスを用いたファンによるチャート操作)がBuzzFeedで記事として取り上げられ、“zombie streaming”と揶揄され始めたり、ある種の誤解やバイアスにもなりつつある。また、「BTSが好きなだけでK-POPやアジアンカルチャーに興味があるわけではない」という日本のファンドムでも散見される事象もすでに見られている。BTSがアメリカでも人気アイドルグループだと認識されるようになってきたことでアメリカにおけるK-POPやアジアンカルチャー自体にもさらにポジティブな展開があるのか、今後の流れが気になるところである。

■DJ泡沫
ただの音楽好き。リアルDJではない。2014年から韓国の音楽やカルチャー関係の記事を紹介するブログを細々とやっています。
ブログ:「サンダーエイジ」
Twitter:@djutakata

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