GEZAN マヒトゥ・ザ・ピーポーが語る、“0と100の間の世界”への関心「曖昧なものを掬い取りたい」

GEZAN、“0と100の間の世界”への関心

極端な二者の合間にある曖昧なもの

一一「細光胞/DNA」では〈革命ごっこは終わった〉という言葉も出てきます。革命って、まぁ何十年も前からロックバンドが口にしてきたテーゼですが、自分たちがやっているのはそういうものではない?

マヒト:そうですね。いわゆる革命らしい革命、何か物事が変化していく時って反対側も生まれますよね。カウンターとしてぶつかっていく側も、結局また体制みたいな大きいものになって、また次のカウンターが生まれて。その繰り返しの中に組み込まれるつもりはなくて。だったら自分の思う本当の意味の革命って……まぁ毎月花を買って、水も入れ替えて、部屋にちゃんと花を飾る。そっちのほうが俺にとっては革命なんですよね。本当なら政治って言葉とかもそんなふうに使われるべきだと思っていて。

一一どういうことでしょうか。

マヒト:テレビや新聞に出てくる政治家の顔とか、そういうものが浮かぶのが政治ではなくて。もっと毎日の暮らしの中の、友達とか好きな人が浮かんでくるほうが政治だと思う。革命っていう言葉とは真逆に思えるかもしれないけど、部屋に花を絶やさないとか、コンビニまで行く道もちょっと遠回りして散歩しながら歩くような。そういう選択を持つことのほうが革命的だし、それを歌えることが今の自分にとって一番の優しさかなって思ってます。

一一アルバムの前半はまさに世界が終わっていくような轟音ですけど、後半になると優しさや寂しさ、言葉にならないけど忘れたくない気持ちとか、そういうテーマに変わっていきますよね。

マヒト:そうですね。時代のスピードって凄まじくて。たとえば10年前は優しさとされていたことが今はもう優しさではなかったり。10年前に笑えてたことが今は笑えなくなってたり。それはとんねるずとかダウンタウンもそうで。なんか、背景や時代が変わっていくと優しさの意味も変わらざるを得ないんですよね。今ここで歌ってる優しさも、10年後には暴力になってるかもしれない。だから……音の変化に関しては、自分の変化じゃなくて時代が変わったっていうほうがしっくりくる。 

一一価値観が激変しているのは事実ですけど、マヒトさんはなぜ、優しさの意味、というところに着目するんでしょうか。

マヒト:うーん、それをずっと歌ってきたつもりなんですね。あの、eastern youthの「素晴らしい世界」っていう曲がすごく好きで。タイトル通り〈命かけて笑えるなら素晴らしい世界〉って歌ってるじゃないですか。吉野(寿)さん、あんだけ怒り狂ってて批評性も鋭いし、世の中のヘイトな部分がいっぱい見えちゃう人が、それでも歌では「素晴らしい世界」と歌い切る。パーセンテージの話じゃないですよね。6:4で世界は素晴らしいと思ってるから歌うんじゃなくて、9割は「最低だな」って言いたくなることばっかりの世界でも、残りの1割で「素晴らしい世界」って歌にする。それを俺はすごく綺麗だなと思っていて。なんかこう……本音で「素晴らしい世界」って思えてるかは疑問だけど、でも音を鳴らしてる間はそういう世界であってほしいっていうスタンスを選べる。そういう自分でいたいなって思うんですね。俺が優しさを見てしまうのって、そういうところかもしれないです。

一一紐解いていくと、すごく個人的な選択の話に収斂していきますよね。逆に不思議なのが、その感覚が〈世界の終わり〉とか〈ニューワールド〉という大きな言葉になっていくことで。

マヒト:なんか、さっきも言った、革命っていう言葉と部屋に花を飾ることがリンクする話と一緒だと思うんですけど、自分の内側のものと、宇宙的な規模のことがリンクしてるような感覚があって。ミクロもマクロも突き詰めていけば同じところに向かうというか。個人的なことだから、少数だから、それは世界とは関係ないとは思ってないんですね。人が増えていくと「ひとり」が「みんな」って言葉になり、もっと大きくなると「シーン」とか「時代」になっていくんですけど、俺はそこに段階があるとは思ってなくて。もちろんメディアが作りたい時代のカラーはあって、そこに寄り添って大多数は進んでいくと思うんですけど、そういう多数決はもういいのかなって。

一一どういうことですか。

マヒト:いろんなモノを知れば知るほど答えが遠のいてくこともあって。正義とか正解の形も、ひとつあれば幸せだったのに、二つあることで迷いが出てくるし、それが百になったらもう信じるものが何もなくなるかもしれない。何が勝つか、何が成功かは、この先もっとオリジナルになっていくだろうし。そのヒントは個人の中にあると思うんですね。自分自身の曖昧な感覚を自分が尊重してあげられるかどうか。

一一「みんな」で考えていくとわからなくなってしまうもの。

マヒト:そう。やっすい学園ドラマにあるセリフですけど「先生は、優等生の子と不良の子、そのどっちかにしか興味がないんだから!」みたいな。それはけっこう的を射てて。テレビのニュースでもヒーローか犯罪者か、極端な二者が取り上げられるだけで、その合間にある曖昧なものはカットされていく。でも、そういう人たち一人ひとりも当然映画になると思うし、絶対に面白いと思うんですよね。自分としては、そういうものにピントを合わせていきたい。エクストリームなアルバムだとは思いますけど、0と100の間の世界の話です。


(取材・文=石井恵梨子/写真=稲垣謙一)

『Silence Will Speak』

■商品情報
GEZAN『Silence Will Speak』
●LP先行発売
2018年9月26日発売
¥3.000(税込)
●CD
2018年10月3日発売
¥2.300(税込)

01. 忘炎 / forgotten flame
02. 無神 / NO GOD(know?)
03. 肉体異詩 / BODY ODD
04. 懐かしい未来 / Nostalgic future
05. 龍のにほい/ smells of unbelivable
06.優陽 / red kind
07. 淡赤 / Ambient red

GEZAN公式サイト
GEZAN公式Twitter

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