GEZAN『Silence Will Speak』インタビュー
GEZAN マヒトゥ・ザ・ピーポーが語る、“0と100の間の世界”への関心「曖昧なものを掬い取りたい」
一番大事なものを壊したくなる気持ち
一一GEZANのいるシーンというのも曖昧で。大きくいえばオルタナティブなんだけど、まぁ初期はジャンク寄り、近年はよりメロディアスなパンクやロックンロールをやっている印象がありました。
マヒト:あぁ、そうですね。
一一だから今回、ここまで重いビートの、エクストリームな曲が一気に増えたことが面白くて。
マヒト:うん………いまいち何に突き動かされてるのか自分でもわかんない。なんですかね? お腹の中にいるバケモノみたいなものに遊ばれてる感じというか。そういう感覚はずっとあるんですよね。上手い見せ方を考えていけば、変化だってもう少しなだらかなほうが付いてきやすいのかもしれないけど。だって「Absolutely imagination」の次のMVが「NO GOD」なんで……それは確かにアレですよね?
一一(笑)。叫ぶ曲が増えた理由って思い当たります?
マヒト:わかんないっす。ただまぁ唄い方に関しては、今東京に住んで生活してますけど、言語化するよりは一言「アーッ!」ってシャウトしちゃったほうが全部を象徴できる気がして。今までは歌詞を書く時「言葉にできないことを言葉にしたい」っていうことを考えてたんですけど「もう言葉にしなくていいじゃん」みたいな。そのまま叫べばいいし、アルバムの始まりは絶対声からにしたいなって。それは唯一このアルバムで最初から決めてたこと。だから(一曲目の)「忘炎」も、まず声が先に来るように変わっていって。理由の説明じゃないもの、ただの答え、みたいなものから始めたかった。それは今回のひとつのコンセプトかもしれないです。
一一もう獣の音ですよね。理性ってものが何の役にも立たないところにいきなり放り込まれるようで、聴いてて怖くなります。
マヒト:うん……自分でもたまにね、怖いですよ。「何考えてんだよこの人は」って気分になりますね(笑)。
一一そのお腹にいるバケモノみたいなものは、マヒトさんの脳みそとは違うんですか。
マヒト:脳みそとは絶対違います。仲良くしたいなぁとは思うんだけど、ほんとによくわかんない。あの、俺コーヒーカップ集めるのが好きで、すごい綺麗な、一番お気に入りのコバルトブルーのやつがあったんですね。大阪時代はみんな同じアパートに住んでたけど、その屋上から、そのコーヒーカップ投げて割っちゃったんですよ。全然哀しいとかそういう感情もないのに。そういう気持ちってあります?
一一ないです、私は(笑)。
マヒト:理由はわかんないけど一番大事なものを壊したくなる気持ちというか。そういうのが昔からあって。ちっちゃい頃でいうと、両親がまだ仲良かった時……小学校の1〜2年ですけど、結婚指輪がリビングのところに置いてあって。それほんと何の理由もなくポケットに入れて持ってって、ドブに捨てたんですよ。それもまったく理解できなくて、未だに。
一一……悪いことしてるなぁ、みたいな気持ちもないんですか。
マヒト:いや、無です。あれはほんとにGEZANをやってる理由に近いかもしれない。
一一……わからないけど、なんか納得します(笑)。
マヒト:これ、上手くまとめられることでもないんですけどね。でも理由はついてないけど自分の身体が求めてることがあって。同じくらい、理性とかルールに縛られて選択してることがたくさんあって。それは生活してく中である程度必要なことですけど、なんか黒と白だけじゃない、悪魔と天使だけじゃない、もっと曖昧なものを掬い取りたいとは思いますね。それはもうポップスっていう概念では回収できない部分。僕らはせっかくオルタナティブなことをやってるわけだから、そこでしか掬えない感覚ってあると思うんですね。
一一「忘炎」で歌っていることですよね。〈持ってちゃいけない感情なんてない〉と。
マヒト:そうですね。今はすごくシビアな時代で、言葉の選択もひとつ間違えると大炎上するし、もちろん言うべきじゃないこともいっぱいあるけど。でも本来、本当に持ってちゃいけない感情はないし、それをないことにすべきじゃない。その使い方に想像力があるかどうか、だと思うんですけどね。
一一この曲は〈エンドロールの終わり/今はロスタイム〉という言葉から始まりますが、何が終わるという感覚なんでしょうか。
マヒト:や……明らかにおかしいですよね? この夏の異常気象とかも。あとは音楽業界も、メディアもそうだし。もっと大きな地球規模の範囲でも、ごく身近な生活の範囲でも、いろんなものが破綻してる感じがする。それがなくなったら困る人たちが、頑張って延命に延命を続けてきたけど……そうやって守ってきたものにどれだけ意味があるのかも怪しいし。まぁ勘のいい人はずっと気づいていたと思うんです。これは陰謀論とかじゃなくて。
一一はい。陰謀論でも終末思想でもないけど、皮膚感覚でそういうことを感じるのはわかります。
マヒト:もろちんね、このアルバムが出て一回ライブをやれば、世界のすべてが入れ替わるような一一そんな安い映画みたいなことは起こらないんです。でも少なくとも、これからの時間の使い方、自分の感覚とか嗅覚なら今からでも選んでいける。そういうことに対する警鐘、警告というか。まぁ「自分たちは今あるルールとか勝負から一抜けさせてもらいます、その代わり好きにやらせてもらいます」ってことですよね。これが自分たちの常識だし、大事なのは「何をクールと呼んで生きるか」「どういう自分で終わるか」っていうことで。そういうことをずっとGEZANで警告してる感覚はありますね。