菊地成孔×小田朋美が語る、SPANK HAPPY再始動への道筋 「ODは最高のパートナー」

OD「すごい力で解放されている実感があります」

――SPANK HAPPY復活の最初のきっかけは何だったんですか?

Boss:『粋な夜電波』(TBSラジオ)でSPANK HAPPYの曲をかけるとリスナーの食いつきがいいので、実験的に最初から最後までSPANK HAPPYだけで構成する“ノンストップSPANK HAPPY”という企画をやってみたら、数字がハネたんです。「まだ需要があるのか」と思ったし、「いま聴くとちょうどいい」という人もけっこういるので、ノリで「やろうかな」ということになったんですよね(笑)。少なくとも、意識の上では。それで、その時点でもまだ小田さんとは考えてなくて(笑)。

――いま振り返ってみると小田さんが『シャーマン狩り』で、SPANK HAPPYの「Angelic」をカバーしたことは、第3期SPANK HAPPYの布石としか思えないですけどね。

Boss:まあ、図式的ですけど、意識されないもの、無意識下にあるものによって動いていく物のが強い、ということじゃないでしょうかね。『シャーマン狩り』もCRCK/LCKSも、まったく「お、こ、、、、これは、、、ススススパンクス」とか、びた一文も思ってなかったです。それよりあの「Angelic」は宝塚みたいに男のパートも小田さんが自分で歌っていて、あれちょっとおもしれえな(笑)とか思ってた(笑)。凍り付くような才能の持ち主でありながら、ちょっとおもしろいという、ODのキャラが、こう、だんだんと(笑)。

OD:すごく良い曲だったし、ひとり二役でやってみたいなと思いついて(笑)。じつは当時、SPANK HAPPY自体のことはそれほど知らなくて、アーバンギャルドをはじめとするSPANK HAPPYに影響を受けた世代のバンドを先に聴いてたんです。だから最初から熱心なファンだったというわけではないです。単純に、結成されたのが私が10歳未満の頃ですし。

Boss:小田さんが熱心なファンなのはバッハですもんね(笑)。いま思うと菊地凛子さんのアルバム(『戒厳令』)に入っている「戒厳令」の仮歌だの、この間、二人でやった「素敵なダイナマイトスキャンダル」という映画の主題歌の仮歌を2人で歌ったのもポイントだったのかもしれないですけど。そのときは全然思ってもいなかった。僕は計算高い策士に見られがちですが、これこの通り、すべて直感とノリなんですよ。SPANK HAPPYも、巨視的に「菊地、すべて仕組んだな」と思いたがる人が多いですが、それ完全な冤罪(笑)。DC/PRGの時と同じ、誰にしようかな?と思ってたら突然「ああ、小田さんに頼めばいいのか。小田さんしかいないじゃん。何考えてたんだろうオレ」みたいな(笑)。

――第3期SPANK HAPPYの最初の楽曲「夏の天才」は最初から最後までBossとODさんが一緒に歌っていますね。

OD:一音残さずずっとユニゾンですね。

Boss:分けるっていうアイデアもあったんだけど、やってみたらめんどくさくて。

――アーティスト写真も2人で“同じアイウェアと同じ白シャツ”だし、まるで双子のようなイメージもあって。

Boss:相手との年齢がどんどん離れているんですよね。第1期SPANK HAPPYのボーカリストだったハラミドリさんは3つ年下、第2期の岩澤瞳さんは13歳下、小田さんとは23歳離れているから、もはや親子くらいの差があって。その年齢差をそのまま反映させるのではなく、あえてグッと寄せていこうと。僕とODは顔相がぜんぜん違うので、同じメガネ、同じシャツを着て、Kraftwerkみたいな感じで打ち出そうと。まあ、バイウエイですよ。タキシードと水着にもなれるし、同じ服にもなれるという。

――そのあたりもODさんは二つ返事でOKだったんですか?

OD:もちろん。凄くいいなって思いました。

――作詞・作曲はどのようなスタイルなんですか?

Boss:パートを分けて、どちらか一人が担当するというやり方ではないですね。作詞も作曲もアレンジも2人でやってるんですよ。そこは過去のSPANK HAPPYと決定的に違うところですね。

OD:マーブル状ですね。ふたつのMIDI鍵盤をパソコンにつないで、お互いにアイデアを出し合って。

Boss:ほとんど連弾みたいな感じですよね。

OD:そうそう。役割ははっきり分かれていなくて、ハーモニーもメロディも一緒に同時に練って行くんですけど、こんなやり方したは一度もなかったので凄く楽しいです。さっき出た映画『素敵なダイナマイトスキャンダル』のオープニングの音楽もそういう作り方だったんですけど、それが上手くいったことも大きかったと思います。

Boss:あの映画やってなかったら一緒にSPANK HAPPYをやっていたかわからないですね。

OD:エンディングテーマ(主演の尾野真知子、原作者の末井昭のデュエットによる「山の音」)の仮歌も2人で歌ったんですが、あれもSPANK HAPPYっぽかったのかも知れないですね。ずっとユニゾンで。

――「夏の天才」はモダン・ファンクやエレクトロ・ポップがベースになっていますが、この先の音楽性はどうなっていきそうですか?

Boss:ここから呼称を改めますが(笑)、ODには無尽蔵の作曲/作詞/編曲の力があるので、2人で共作することで、いろいろな楽曲が作れると思うんですよ。女性の才能で喰ってる女衒みたいなもんです僕は。

OD:(笑)。

Boss:極論ではなく、ODは交響曲だって書けるはずですから。マイクを2本立てて、キレイに着飾った女の子とスーツの男が踊りながらユニゾンで歌うというスタイルは第2期SPANK HAPPYを連想させますが、相方に自分以上の音楽の能力があるというのは初めてだし、この後、第3期はいままでとまったく違うことが明らかになっていくと思います。名前こそSPANK HAPPYですが、僕とODの全く新しいバンドと考えて頂いて結構です。最後のSPANK HAPPYがこういう形になったことは、僕にとってもラッキーですね。最高のパートナーですよ。あと、音楽性とつながっているようないないような話ですけど、病理の感覚もまったく違います。

――病理の感覚というと?

Boss:第2期SPANK HAPPYには病理の感覚があったんです。アーバンギャルドはSPANK HAPPYから影響を受けていると思いますが、彼らが表現している“こじらせ”“メンヘラ”といったものは、じつは第2期にはなかったものの拡大です。それは言ってみれば青春の病理ですから。第2期は青春ではなく、子供目線だったんです。インセスト・タブーみたいなものを基盤にした幼児退行的な倒錯を歌っていたというか。まあ、シンプルに、もう「病んでる」なんて古いし「“病んでます”なんて今更音楽に乗せてどうするんだ?」という気分ですね。「病んでません」と言っても病んでるんだから全員(笑)。

OD:そうですね。

Boss:しかも「夏の天才」は伊勢丹の夏キャンペーンソングなので病んでる場合じゃない(笑)。「初夏はいいですね」という爽やかな曲だからね。いずれにしても第2期SPANK HAPPYの亡霊は出ません。というか、出ようがない。すぐにわかりますよ。

――フジロックフェスティバルの出演、ワンマンライブも決定。この夏から来年にかけてSPANK HAPPYの活動はどうなりそうですか?

OD:まずはアルバムを作りたいです。フェスや次のライブに向けて曲を作らなくちゃいけないし、これから2人で作曲に入ります。

――楽しみです。ちなみに『GREAT HOLIDAY』ではODさんがプラダのワンピースを着ていらっしゃいましたが、あれはBossのスタイリングですか?

Boss:はい。プラダのワンピースは去年のショーで見たときから「これをODに着せよう」と思ってて。毎日「これODに着せよう」と思って暮らしてますね(笑)。

OD:あんなにかわいい服を着せてもらったのは初めてです。二―ハイを履いたのも初めてだし。

Boss:ODは少年っぽいキャラクターだけど、もともと持っている健康的でエレガントなセクシーさも同時に打ち出したいです。ODはアカデミズムの人じゃないですか。僕もどちらかと言えばそうなんだけど、アカデミックなグループってことになっちゃったら、ぜんぜんかわいくない(笑)。モードであり続けたいです。その点だけ唯一、二期と一緒。

OD:SPANK HAPPYの活動は、とにかくすごく楽しいです。今日Bossはずっと私が「解放されたがっている」と言ってましたし、今までもBossには解放して頂いてきたと思っています。でも、こうやってODというペルソナを与えてもらうことで、更にすごい力で解放されている実感があります。

Boss:仮面は自分を秘匿するんんじゃなくて、解放するためにつけるものですからね。

OD:インスタグラムでの“じゃないスか~”みたいな話し方も私の性に合ってますから(笑)。キャラクターやスタイリングを含めて“自分の力ではそこまで行けないな”というところに連れていってくださるんですんですよね。人を自分の言いなりにする人形使いじゃなくて、人の抑圧を見て解放する魔法使いです。Bossは。

(取材・文=森朋之)

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