『無形のアウトライン』インタビュー

やなぎなぎが考える、“歌い手”と“作り手”の視点が共存した表現活動

 やなぎなぎが、5月30日にシングル『無形のアウトライン』をリリースした。同作の表題曲は、石川智晶が楽曲を手がけており、TVアニメ『覇穹 封神演義』(TOKYO MXほか)の新エンディングテーマとして現在放送中。前クールのエンディングテーマだった「間遠い未来」とも関連性を持った楽曲に仕上がっている。今回のインタビューでは、ワンマンライブツアー『やなぎなぎ ライブツアー 2018 ナッテ』の振り返りから、同作の制作秘話、さらに“作り手”と“歌い手”など様々な面をマルチに使い分ける彼女の活動について、話を聞いた。(編集部)

「『なぎさんの声はなんか〈ハ〉ではなくて〈ヒ〉なんだよね』」

——今年4月に行われたワンマンライブツアー『やなぎなぎ ライブツアー 2018 ナッテ』の東京公演を拝見したのですが、最新アルバム『ナッテ』の世界観を拡張するような演出が施されていて素晴らしかったです。

やなぎなぎ:今回のアルバムは、収録曲自体が派手なわけではなかったので、ライブは盛り上がって一体になるというよりも、じわっと沁みていくようなものにしたいと思ってたんです。なので、今回の東京公演では映像を使って現実味の少し薄い感じにしたり、私も最初はスクリーンの向こう側にいて姿が見えない演出にしてもらったり、耳以外でも楽しめる部分を積極的に作っていきました。

——ライブ本編の最後に「次の世界でお会いしましょう」とおっしゃってステージを降りられましたけど、そういう意味では毎回のアルバムとそれに伴うライブをセットで考えて、ひとつの世界を作っている意識が強いのでしょうか?

やなぎ:1stアルバムの時からずっとそうですね。もちろんアルバムを聴いていただけるのもうれしいんですけど、せっかくであればその世界を目で見て、その場で聴いて、より体感できて、そこで完結するようなものがあってもいいのかなと思って。ですから、アルバムを作る時はライブのことも頭の片隅に置きながら作ってます。

——おっしゃる通り、特に序盤4曲でのステージ全面を覆う透過型スクリーンを使った映像演出は『ナッテ』の世界をより深く体感できるものでした。視覚情報が多すぎて頭が追い付かないぐらいの作り込みで。

やなぎ:そうですよね(笑)、1回じゃ全てを把握し切れなかったかもしれないです。

——個人的には「あなたはサキュレント」で披露されていた振り付けがキュートで印象に残りました。

やなぎ:今回のライブで初めて振り付け師の方にお願いしたんです。先ほども言った通り、『ナッテ』の収録曲は1曲1曲がそんなに派手ではないので、目で楽しめる要素を入れたいと思いまして。

——そういえば今年2月に行われた所属レーベルの音楽フェス『NBCUniversal ANIME×MUSIC FESTIVAL 〜25thANNIVERSARY〜』に出演された際も、「いちごコンプリート」(TVアニメ『苺ましまろ』OPテーマ)のカバーでGeroさんと一緒にポップな振りを踊ってらっしゃいましたね。

やなぎ:ウフフ(笑)。その時の振り付け師さんと同じ方に今回お願いしたんです。歌いながらでもやりやすい振り付けにしてくださったので。

——そうだったんですね。さて、そのライブで初披露されたのが、今回のニューシングルとなる新曲「無形のアウトライン」です。この楽曲はシンガーソングライターの石川智晶さんが作曲されていて、やなぎさんが石川さんに楽曲提供を受けるのは2013年のシングル表題曲「アクアテラリウム」以来となります。どういった経緯でお願いすることになったのでしょうか?

やなぎ:この曲は『覇穹 封神演義』の2クール目のエンディングテーマになるということで、アニメサイドからは前期のエンディングテーマだった「間遠い未来」の世界観を引き継ぎつつ、少しレクイエム的な雰囲気のものを作ってほしいというリクエストをいただいたんです。ただ、レクイエムとなるとスローテンポのバラードっぽいものというイメージがありますけど、普通のバラードにしてしまうのはもったいないと思いまして。

——そこで石川さんのお力を借りることにしたと。

やなぎ:私にとって石川さんの曲は、すごく閉じてて退廃的な雰囲気を感じるけど、その世界の中に浸ってみると広がっていって心地いい音楽という意識があるんです。なので石川さんであれば、一見閉じているけど広がった世界観のレクイエムを作っていただけるんじゃないかと思って、お声がけさせていただきました。

【やなぎなぎ】「無形のアウトライン」MV(ショートver.)

——やなぎさんは1stアルバム『エウアル』(2013年)の初回限定盤付属のカバーCDで石川さんの楽曲「アンインストール」(2007年)をカバーされてますし、昔から石川さんの音楽のファンだったのでしょうか?

やなぎ:See-Saw(石川と梶浦由記による音楽ユニット)の頃から聴かせていただいてましたし、ソロで歌われてる楽曲も聴いてて、昔から好きでした。石川さんの音楽は独特のコーラスが大好きなんです。自分であれば思いつかないところに違和感なくコーラスを入れられますし、そこにはめる言葉も独特なもので、おもしろいなあと思いながら聴かせていただいてます。

——独特のコーラスは今回も全編にわたってたっぷり入ってますね。

やなぎ:実はこれでも減らしたんですよ(笑)。最初はもっとたくさん入ってて、私はすごくかっこいいと思ってたんですけど、アニメサイドから「もう少し抑え目にしてほしい」というお話をいただいたんです。それでもなお“智晶さんワールド”だとわかるんですけど(笑)。でも、いつかその(コーラスが多い)バージョンも供養したいです。アルバムに入れるのもいいかもしれないですね。

——今回はやなぎさんが作詞されてますが、石川さんとの制作はどのように進めていかれたのでしょう?

やなぎ:「アクアテラリウム」の時は一緒に制作するのが初めてだったので、智晶さんから「キーになる歌詞をワンフレーズでもいいからほしい」というお話をいただきまして、まず私からサビの一節のような簡単なフレーズをお渡しして、そこからイメージして曲を作っていただいたんです。今回は智晶さんがすでに私の声の感じを掴んでくださってるので、私からは「間遠い未来」と対の視点になるような歌詞を書こうと思ってることと、簡単なテンポ感をお伝えしただけで、あとはお任せで作っていただきました。それで出来上がったものが「無形のアウトライン」の基本の形になっていたので、そこに私が歌詞を乗せていきました。

——楽曲をいただいた時の印象はいかがでしたか?

やなぎ:さっき言ったようにコーラスがモリモリの曲が上がってきたので、かっこいいなあと思いました。レクイエムなんですけどすごく攻めてる感じが智晶さんらしいですよね。自分が作ったとしたらどうしても静かな方に行ってたと思うので。

——先ほど「歌詞は『間遠い未来』と対の視点」とおっしゃってましたけど、具体的にはどんなイメージで書かれたのでしょうか。

やなぎ:(仙人同士の争いを描いた)『覇穹 封神演義』のエンディングテーマということもあって、長く生きる人と短く生きた人、お互いの視点を「間遠い未来」と「無形のアウトライン」の2曲で書こうと思ったんです。「間遠い未来」は長く生きる人が短く生きた人を見送る歌、「無形のアウトライン」は短く生きた人が長く生きてる人に対して想いを残す歌になります。

——どちらの曲も幻想的な雰囲気と悠久的な視点を感じさせますものね。『覇穹 封神演義』という作品の内容に照らし合わせて書いた部分もあるのですか?

やなぎ:キャラそれぞれにストーリーがあるので、いろんなところを意識したり視点を入れ込んでます。個人的なひいきは聞仲さまだったんですけど(笑)。死にざまが潔くてかっこいいんですよね。最後にはいろんなことに気づいて死んでいくところが、いいなあと思いまして(笑)。

——レコーディングはいかがでしたか?

やなぎ:レコーディングは智晶さんにディレクションしていただいたんですけど、けっこうスムーズでしたね。でも、コーラスは削ったとはいえかなりの量があったので、そこは時間をかけて録りました。

——コーラスは序盤から<リリハッ>などの印象的なフレーズがたくさん入ってて、まさに石川さん節が炸裂してます。個人的に熱かったのが1サビ終わりの<ヒッヒッヒー>というフレーズで、あそこは「アクアテラリウム」のコーラスを思い出しました。

やなぎ:私も思い出しました(笑)。それを意識されたのかはわからないですけど、智晶さんは「なぎさんの声はなんか〈ハ〉ではなくて〈ヒ〉なんだよね」とおっしゃてました(笑)。私の楽曲もいろいろ聴いてくださってるみたいで、今回は最初から「イメージができてます」と言ってくださってて。智晶さんはOKを出す速度がすごく早いんですよ。「私はこれでいいと思います」という感じでサクサクと進んでいって。判断が早いというか。

——智晶さんの中には、完成形のはっきりとしたビジョンがあるんでしょうね。Dメロの<指先緩めて そっと押し出した体 今>という箇所の歌い方も、秘めやかな雰囲気から一気に高まる感じが神々しくて特徴的です。

やなぎ:智晶さんからは「歌うというよりもボソボソしゃべる感じで」という指示をいただきまして。一応音程は乗せてますけど、聴こえるか聴こえないかぐらいのつぶやきというイメージですね。そこから(終盤は)大きい声で解き放ちながら歌いました(笑)。

——智晶さんはレコーディングの時に何かおっしゃってましたか?

やなぎ:智晶さんは他の方にも楽曲提供されることがたくさんありますけど、智晶さんの曲は聴いたらすぐに智晶さんとわかるぐらいオリジナリティがあるので、智晶さんが仮歌を入れて歌うとみなさんその歌い方に引っ張られてしまうらしいんですよ。でも、私のことを「なぎさんは自分の歌い方をしてくれるから安心」と褒めてくださったのが、すごくうれしかったです。

——やなぎさんは以前から幻想的なムードの楽曲を多く歌われてますけど、「無形のアウトライン」はその中でも特にその要素が強いように思います。今回の楽曲で新たに自分の音楽性を開拓した部分はありますか?

やなぎ:でも、もともと幻想的な曲が好きですし、自分ではあまりポップな曲も書かないので、どちらかと言うと戻ってきたという意識が強くて。少し前に「瞑目の彼方」(2016年)という楽曲を鷺巣(詩郎)さんが書いてくださったんですけど、その時に私が中学生ぐらいの頃からずっと聴いてる北欧のエレクトロニカっぽい音をたくさん入れてくださったんです。そこで「自分はやっぱりこういう音が好きなんだな」とあらためて認識しましたし、自分の好きだったものにまた目を向けるサイクルがきて、戻ってきた感じがします。

——そういったご自身のモードと『覇穹 封神演義』の世界観が合致して、今回のような楽曲が生まれたと。そういう意味では、ご自身が制作したカップリング曲の「return」も、やなぎさんらしいエレクトロニカ寄りの作風になってますね。

やなぎ:はい。この曲は「無形のアウトライン」で智晶さんの楽曲に刺激を受けて「自分も作らなきゃ」という気持ちになりまして、それを受けて「いま自分の中に出したくてくすぶってるものは何かな?」と思って書きました。「自分が消えてなくなっていく時にどういう場所にいたらいいか、どういう形で消えていくのが美しいのか?」をテーマに書いた曲なんです。

——散り際の曲なんですね。何かそういうことを深く考えるきっかけがあったのでしょうか?

やなぎ:「無形のアウトライン」の〈形がなくなる〉というところからの発想もあるんですけど、自分としては、日本では死ぬと火葬で焼かれてしまうので、動物みたいに自然のサイクルに組み込まれないことを悲しく思う気持ちがあったんです。もし自分が死ぬとしたら、海の中で大きな生き物の食料になったり、別の生き物の血となり肉となれたらいいなあと思ってて。この間も「人間だけサイクルに組み込まれてないのは何だかなあ」という話を延々としてたんですよ(笑)。どうせ死ぬならおいしく食べられたほうがうれしいなと思って。それをすごく抽象的に書いたのがこの曲なんです。

——もしかして曲名の「return」には“輪廻転生”みたいな意味が込められてる?

やなぎ:そうなんです。消えてなくなるよりも、例えば何かに取り込まれたり、別の形で繰り返してるほうがいいなあ、という気持ちの歌ですね。「間遠い未来」も「無形のアウトライン」も、「もし次にお互いのサイクルが合ってまた会うことができたなら」という希望を持った歌なので、そういう意味では自分がまた巡り巡ってという部分で共通した曲になったと思います。

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