BTS(防弾少年団)の人気高めるブースターに? RM、SUGA、J−HOPEのミックステープ聴き比べ
ダンサーのアイデンティティとポジティブさ溢れる『HOPE WORLD』
内面的な葛藤の描写の多いRMやSUGAとは対照的に、J−HOPEの世界はとにかく明るい。音楽に興味を持つようになった過程やセレブや成功について描いているのは同様だが、仕事や忙しさの象徴になりがちな“飛行機”を、海外での初仕事へのときめきとして描写したり、自分がスーパースターの一員にであること自体が夢を見ているみたいと表現するなど、『HOPE WORLD』(2018年発表)には、疲れたり傷ついた姿を描写することはほとんどない。誰かの心の安らぎになりたいという気持ちや、ジュール・ヴェルヌ『海底二万里』に出てくるキャプテン・ニモ(BTS「Go Go」のJ−HOPEのヴァースにも登場する)に己を例え、リスナーについてこいと語りかけるなど、メッセージがとにかくポジティブだ。『八十日間世界一周』(ジュール・ヴェルヌ)や『銀河ヒッチハイク・ガイド』(ダグラス・アダムス)など、リファレンスで表現される世界も未知や未来への高揚感に満ちている。
トラックもダンサー出身らしく、踊りたくなるようなダンサブルなものが多い点が他の2人にはない特徴だと言えるだろう。テープ全体のタイトルになっている「HOPE WORLD」はJ.Coleのアルバム『Cole World: The Sideline Story』がリファレンスだと思われる。BTSの楽曲「Hip Hop Lover」では2PACなど憧れのラッパーの名前とともに<自分をもっと知っていった HOPE WORLD 自分の世界を探し出す前 Cole World>とラップしていた時期を経て、『HOPE WORLD』と名づけたアルバムを出したのは、J−HOPEが自分の世界を見つけ出せたということだろう。実際、このミックステープは、その世界がどういうものなのか、よくわかる一本である。
音楽的変化により、BTSが韓国のヒップホップ系メディアで取り上げられることはほとんどなくなった。3人のミックステープには、その結果起こる葛藤や創作的渇望など、グループでの活動では表現しきれない三者三様の内面が赤裸々に反映されており、聴き比べるとキャラクターや音楽的趣向の違いがよりはっきりと表れている。無料配布のミックステープにしたのは、リリック内容や既存のトラック借用などの制限がなくなり、より率直で挑戦してみたい表現がやりやすいという利点が大きいのだろう。
このように、それぞれが個人の趣向を軸に作ったミックステープは、作り手側の自己表現的な欲求を満たし、またファンにとってはメンバーの内面により近づいたように感じられる効果もありそうだ。特に本人たちのリアルな成長と絆そのものがコンセプトとも言えるBTSのようなグループのファンにとっては、結束をより固めるブースター的な役割を果たしているとも言えるだろう。例えばSUGAの「The Last」にはNas「Nas is Like」をリファレンスした<from Seiko to Rolex>というフレーズが出てくるが、プレデビュー期に彼がリリースした「Dream Money」にも“実現したいことリスト”として同じフレーズが書かれていた。当時は夢や目標のひとつだったことが今は実現しているということで、こういう目配せはファンにとっても感慨深いものだろう。RM、SUGA、そしてJ−HOPE3人のミックステープは、デビューから続く、“BTSサーガ”を味わい尽くすための外伝として聴いてみると、より楽しめるのではないだろうか。
■DJ泡沫
ただの音楽好き。リアルDJではない。2014年から韓国の音楽やカルチャー関係の記事を紹介するブログを細々とやっています。
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