姫乃たまが縷縷夢兎 東佳苗に聞く、アイドル衣装制作にかける思いと“女の子”たちの魅力

姫乃たまが東佳苗に聞く、衣装制作への思い

 ハンドニットブランドの縷縷夢兎(るるむう)が編み出す衣装は、そのブランド名の複雑な漢字のように、糸と糸が複雑に編み込まれて可愛らしく完成されています。一見少女趣味な衣装は、近づいてみるとしかし、女の子が持つ裏表の感情のように絡み合っているのです。東佳苗さんとも親交のあるラッパーのGOMESSさんは、「縷縷夢兎のピンクは黒にも勝るピンク」であると表現しました。

 「音楽のプロフェッショナルに聞く」第9回目は、縷縷夢兎のデザイナーとして、舞台に立つ女性たちの衣装制作を数多く手がける東佳苗さんをお迎えします。ファッション、映画、音楽、アイドル……様々なジャンルを縦断しながら、常に唯一無二の表現を追っている東さんの歴史に迫りました。自分の仕事を探したい人、特別になりたい/なれない人たちに送るインタビューです。(姫乃たま)

●アイドルと衣装

ーーアイドルの衣装って、下手したら数カ月しか着られないわけで、ものすごく刹那的ですよね。

東佳苗(以下、東):大森靖子ちゃんとかは何年も前に作ったものをフェスでまた着てくれたりするんですけど、作品のイメージに合わせて作ったアイドルの衣装は、基本的にその時期しか着られないんですよね。それでも、すごい凝って作ります。

ーー縷縷夢兎の衣装に女の子が持つ一瞬の輝きと闇が表れているのは、短い期間だとわかっていても、東さん自身がその一瞬に力を尽くしているからなんですね。

東:衣装は一着ずつそこまでやらなくていいだろうってくらい凝ってます。オサレカンパニーってAKBグループの衣装をつくっている会社があるんですけど、48人分とか作るのに、一着ずつすごい凝ってて、可愛いんですよ。こっちは数人分しかつくっていないわけだから、大手の衣装会社にも負けないように、丁寧に作るよう心がけてます。

ーー販売しているニットの商品もハンドメイドで一点物なところも儚い感じがします。

東:一点物の商品は特別感はあるけれど、ひとりずつにしか届けられないことに歯痒さもありました。一点物を不特定多数の人に届けるには普通に販売するのではなく、衣装製作の方が私には合っているんじゃないかと思い、アーティストやアイドルの衣装デザイナーを始めました。ただ、たまに虚しいのが“衣装”はその本人が着て完成するものであって、服自体には興味がなかったり、もはや服はなんでもいいってファンも一定数いるんですよね。私にとって衣装製作は単にコンセプトに合わせて着飾ってもらう為のものでなく、多角的に想いを込めて作っているので、そういう、ファッションに興味が無いファンの人の意識も、徐々に変えていけたらな、とは思っています。

●不器用で孤独な子が好き

ーー縷縷夢兎の衣装はただ可愛いというより、女の子の魅力と不器用さを補強する力があって、手を伸ばして触れてはいけないような強い印象を受けます。東さんの中にある、あの作風の原点はなんでしょう。

東:『カードキャプターさくら』だと思うんですよ。私が小4の時に、(主人公の)さくらちゃんも小4だったので影響を受けて。さくらちゃんって昨今のアニメのようなあざとい要素がなく、等身大でピュアなんですよね。衣装も異様に可愛くて。絶対的に守られている神秘的な存在で好きでしたね。

 あとは、映画の影響も大きいです。例えば、『ヴァージン・スーサイズ』『エコール』『小さな悪の華』などの小・中・高生くらいの女の子が、閉塞感のある環境下で禁忌を犯す感覚と私の表現したいコンセプトは結構近くて、縷縷夢兎の根源はそこにあります。

ーー女の子自身が持っている裏表の部分にも興味を惹かれますよね。

東:そうですね。撮影をする時は、誰をモデルするか、どこをロケ地にするのか決めてから服を作ることも多いです。そんな方針のデザイナーさんは多くはないと思うのですが、私的にはそれが性に合っていて、縷縷夢兎のモデルさんのことは“muse(ミューズ)”と呼んでいます。今までは、服だけが作りたいより、museも込みの“作品”を作ることが優先になっていることが多かったですね。

ーーどんな女の子が好きですか?

東:うーん、不器用そうな子ですかね……生きづらそうな、だからといって、かまってちゃんではなく、絶対に誰にも侵せない領域を持っているミステリアスな子、目の強い子が好き。私は少女趣味なので、大人でも少女感のある人に惹かれます。触れてはいけない神秘的な部分が、当初コンセプトとしてありました。

ーーたしかに、縷縷夢兎のモデルになっている女の子たちは極端に強い部分を持ちながら、どこか不器用そうですね。

東:可愛く生まれたことが、そのミステリアスさを引き立てていて、掘り下げたくなります。『カードキャプターさくら』の登場人物に“大道寺知世”っていうさくらちゃんの衣装を作って終始ビデオを撮っている親友の子がいるんですけど、私も完全に同じことをやっているんですよね(笑)。愛を捧げる気持ちで、服を作ったり、写真や映像に収めたりしています。

●唯一無二じゃないと意味がない

ーー東さんはもともと絵や音楽もされてたんですよね。

東:小学生の頃は漫画家になりたくて、中高生の時はシンガーソングライターになりたかった。自分の中の喜怒哀楽全ての感情を表現に集約して、歌にして伝えるのが歌手だと思ってたので、ただ歌うんじゃなくて、私にとってはシンガーソングライターじゃないと意味がなかったんです。自分にとっての歌手の理想の形があった。でも私の実力が全然それに達してないと悟ったので、スッキリ諦めました。

ーー当時はどんな曲をつくってたんですか?

東:その時期は完全に鬱々としていたので椎名林檎さんに影響されてて、あとは安藤裕子さんやcharaさんが好きだったので、どっちかっていうと女の情念系です(笑)。

 その傾向が、今の大森靖子ちゃんとのお仕事にも繋がっていると思います。自分の感情を形にしてお金に換える仕事、がずっと人生の目標にあって、それが絵や歌から表現方法を変えながらいまに至ってるという感じです。

ーーそれが途中から服をつくることになっていったんですね。

東:やっぱりよく考えたら一番服が好きだなってことに立ち返って、高校生の頃に独学で始めました。工程とかも学んでいなかったので、見よう見まねです。最初は本当にぐちゃぐちゃで。でもそれよりも、とにかく服にすることだけを目標にしていたので、初期衝動で繰り返し作ってました。テーマだけはやたらと凝ってて。

ーー最初はどんなものを作っていたんですか?

東:学生時代は当時の趣味もあってアンティークの生地を組み合わせて服を作ったり、ぬいぐるみを解体してカバンを作ったり、コラージュっぽい感覚で作っていました。でもある時、委託していた私の服と他のハンドメイドブランドを見比べて、お客さんに「差異がわからない」と言われたことがあって。世の中にまだ無いものを作りたくて作っていたのに、他の人でも思いつく物を作っているってことだと気付いてから、一旦縷縷夢兎を止めました。

ーーそれでアンティーク調から方向転換していったんですね。

東:当時「ネオコス」っていう、“ファッション×二次元”ブームが来て、みんな“アニヲタ”化しきて、コスプレっぽいアイテムを取り入れたスタイルをヲタクじゃなくファッションキッズ達がし始めたのが斬新で、その頃私も感化されていきました。

 今のバンドじゃないもん!の恋汐りんごちゃんと学生時代に出会って、「ウサギノリンゴ」っていう、二次元の三次元化をコンセプトにしたブランドを始めたんです。刺繍でキラキラのアニメっぽい目をブローチにして売ったりコスプレっぽいアイテムをファッションに落とし込んだものを作っていました。

 その後、今に至るまでそういうファッションは新しくなくなってしまったし、唯一無二を目指して始めたので、流行っちゃったら終わりかなって気がしてきて。しかも汐りんは絶対にアイドルになるべき人だったので、「今は部屋にこもって服を作るより、アイドルになって外の世界に出た方がいいよ」って言って、当時彼女はソロアイドルになって、私は一人でニットで服を作りはじめたんです。

ーーますます東さんの知世ちゃんっぽさが強まるエピソードですね!

東:(笑)。私はその都度、みんながやっていないことをやらなきゃっていう気持ちが強かったです。縷縷夢兎がニットブランドなのも、当時はニットでガーリーな世界観や二次元っぽい要素を取り入れるブランドがなかったからで。私が通っていた文化服装学院の先生にも、「あなたみたいな系統のニットブランドはないから頑張りなさい」と言われたしかにそうだなと思って、卒業してすぐ、でんぱ組.incの衣装を担当したんです。ニットのセーラーで、襟を色分けして美少女戦士みたいにして。彼女たちはファッション業界の中でmuseだったので、どうしても一緒に仕事したかった。

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