甲子園、高校バスケ……なぜ「ダイナミック琉球」全国区の応援歌の定番に? ルーツと現象に迫る
昨年の夏頃から、「ダイナミック琉球」という楽曲が巷で話題になっている。夏の高校野球において、仙台育英高校が応援歌として使ったことがきっかけだ。この応援歌の様子はSNSなどでも話題になり、新聞やテレビでも紹介されて一般層にも一気に認知された。そして、この春の甲子園でも他校が取り入れており、応援歌の定番として定着しつつあるのだ。
なぜここまで注目されるようになったかというと、最初にソロパートで熱唱してじっくり聞かせてから、全員の応援へとなだれ込むというドラマチックな構成になっているからだろう。これまでの応援歌は全員で歌うのが一般的だったが、この曲は冒頭にソロで歌うため非常に目立つのである。そして、ソロでの歌い出しは、こういった歌詞になっている。
〈海よ 祈りの海よ 波の声響く空よ
大地踏み鳴らし叩く 島の太鼓(てーく)ぬ響き〉
沖縄の大自然や歴史に畏敬の念を込め、壮大なスケールを表現した歌詞は、沖縄を意識した少し民族的なメロディと相まって文字通りダイナミックな音楽に仕上がっている。応援のテンションを上げるには最適な音楽であることはたしかだ。ただ、歌詞はそれほど難しくないとはいえ、〈島の太鼓(てーく)ぬ響き〉という沖縄方言が、高校野球の全国大会で、しかも東北宮城県の応援席から聞こえてきたというのが面白い。
この楽曲自体が生まれたのは10年前、2008年のこと。琉球大学の土木工学科創立50週年を記念して上演された現代版組踊(くみおどり)絵巻『琉球ルネッサンス』のテーマ曲として制作された。この演目は、無形文化遺産でもある組踊という沖縄の伝統的な歌舞劇をベースに、エイサーや空手の演舞などを取り入れた舞台だった。舞台演出を手がけたのは平田大一で、「ダイナミック琉球」の歌詞も手がけている。平田はTHE BOOMの宮沢和史とも楽曲制作をするなどの親交があり、沖縄県文化振興会の理事も務めた。いわば、沖縄の演劇やカルチャーを牽引する存在と言ってもいいだろう。
そして、作曲を担当したのはイクマあきら(生熊朗)。イクマは沖縄在住のミュージシャンだが、出身は福岡だ。名前を見て気付いた方もいると思うが、90年代にE-ZEE BAND(イージーバンド)というファンクをベースにしたグループのフロントマンとして活躍した。しかし、2002年に沖縄へ移住し、ドラマ『ごくせん(第2シリーズ)』の主題歌として大ヒットした「NO MORE CRY」で知られるユニット、D-51などをプロデュース。ソロアーティストとしても活躍中だ。そして、イクマはCMやエイサーの音楽を多数制作しており、そのネームバリュー以上に、彼が作った音楽の認知度は非常に高い。
舞台音楽の一曲でしかなかった「ダイナミック琉球」は、2008年の夏にオリオンビールのCMソングに起用され、翌2009年8月にはイクマのソロアルバムの一曲としてリリースされたこともあり、沖縄県内各地のエイサーの団体がこぞって取り上げるようになった。そして、今ではエイサーのイベントに行くと耳にしないことはないというくらい、大定番となっているのだ。
ここで、エイサーといっても旧盆を祝うための伝統エイサーと、自由に振り付けする創作エイサーの2種類があることを補足しておきたい。「ダイナミック琉球」はあくまでも創作エイサーの音楽である。沖縄における創作エイサーは、沖縄ではー般的なダンスでありレクリエーションだ。保育園から高校生まで、誰もが一度は運動会や文化祭などで創作エイサーを踊るし、祭りやイベントにも欠かせない。観光地でもショーアップされた創作エイサーを見せてくれるところがたくさんある。
それだけ県民に親しまれている創作エイサーで、何度もくり返し聴くことになるわけだから、「ダイナミック琉球」の浸透ぶりは半端ない。盛り上がる楽曲だけに、沖縄では盛んなバスケットボールのハーフタイムにおける応援合戦に取り入れられていくのも、自然な流れだったのだろう。沖縄の高校バスケの応援合戦を撮影した動画がYouTubeにも多数アップされているが、「ダイナミック琉球」は見せ場の一曲になっている。そして、いつしか沖縄の高校野球の応援にも取り入れられるようになって、仙台育英が全国区へと広めたというのが、大まかなストーリーである。
「ダイナミック琉球」は、イクマあきらのバージョンだけでなく、東京で活動する石垣島出身のシンガーソングライター、成底ゆう子もレパートリーにしている。2011年に発表した1stアルバム『宝 TAKARA』に収められており、ライブでも定評のある楽曲だった。あくまでもアルバム収録曲のひとつでしかなかったが、応援歌としての認知が広まることで、YouTubeのミュージックビデオのアクセス数が急増。昨年6月までは6年間で15万回程度だったのが、高校野球シーズンの8月には100万回を突破。今では200万回を超え、再生数記録を更新中だ。そして、この2月には「ダイナミック琉球 ~応援バージョン~」としてリメイクしたシングルも発売され、話題を呼んでいる。成底の凛とした声質と張りのある声量によるカバーも見事で、聴く者のテンションを上げてくれる。
「ダイナミック琉球」は歌い込むには非常に難しいが、だからこそ決まるとかっこいいし、非常に目立ち、そして気持ちを高揚させてくれる。この広がりはまだまだ続くだろうし、今後は創作エイサーや高校野球だけでなく、様々なシーンで耳にすることになりそうだ。
■栗本 斉
旅&音楽ライターとして活躍するかたわら、選曲家やDJ、ビルボードライブのブッキング・プランナーとしても活躍。著書に『アルゼンチン音楽手帖』(DU BOOKS)、共著に『Light Mellow 和モノ Special -more 160 item-』(ラトルズ)がある。