乃木坂46が育んできた舞台演劇への追求 重要作『三人姉妹』からグループの課題と可能性を解説

乃木坂46 舞台『三人姉妹』評

 作品全体として追求されるべき課題は、劇中世界の空気を作り込みなじませるための熟成度だろう。「退屈な状況を生きる人々」の上演が肝となる作品を選択したからこそ、演者全体がひとつの空気を濃密に作ることの難しさもまたあらわになった。おそらくグループの時間的な制約からくるこの課題は、本公演のみならずこの先の乃木坂46の舞台企画にも確実について回る。乃木坂46の社会的な大きさが数年前とは大きく変わっている現在、その余裕を確保することはますます簡単ではなくなるのだろう。

 それでもなお、グループが育ててきた舞台演劇への追求は立ち止まってしまうべきではないし、コンスタントに継続されることによってしか、これまで築いてきたオリジナルの基調は維持できない。この路線の転機になった『すべての犬は~』も、もともとはアイドルグループがファン向けに手がける必然が薄いタイプの戯曲だったはずだ。その上演で一定の手応えに達しえたからこそ、乃木坂46がそうした舞台を手がけることを必然にする、最初のきっかけを得た。

 乃木坂46がグループとして主導する演劇企画は、その公演単体として完結してしまうわけではなく、グループのトータルのブランディングや長期的な視野にも大きく影響している。社会の中で引き受ける役回りもタスクの量も多くなってゆく中で、乃木坂46が乃木坂46たるうえで欠かせない一側面をどのように育てていけるだろうか。この先の展開は引き続き重要になってくるはずだ。

■香月孝史(Twitter
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。

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