THE SLUT BANKS、ド派手な新作が示すバンドの真骨頂 メンバーコメントとともに分析
THE SLUT BANKSのニューアルバム『ダイレクトテイスト』は「これぞ、スラット!!」と膝を打つほどの快作であり怪作だ。メジャー復帰作となった『ROXY BABY』(2016年)はストレートに硬派なロックバンドとしての現在を示すようなアルバムであったし、ベストアルバム『1996 FIND MY WAY』(2016年)では新曲を含めてバンド20周年の生き様をこれでもかというほど見せつけられた。それらを経た本作はこれまで以上にソリッドでアグレッシブで、ゴリゴリのサウンドを豪快にかき鳴らしながら獰猛に攻めまくる姿勢に、気持ちいいほどTHE SLUT BANKSらしさを感じることができる1枚だ。
60s〜70sロックの危ない雰囲気を漂わせた『ROXY BABY』をはじめ、HR/HMな“METAL BANKS”スタイルによる『METALLIC JUNK』(2015年)、メロディセンスの秀逸さを際立たせた『ロマンス』『swingin' slow』(2014年)など、ここ数作はアルバムのカラーをわかりやすく打ち出していたが、今作はまったくわからない。もちろん良い意味で、だ。
「コンセプトやビジョンみたいなものはまったくなかったので、“実験的なアルバムになった”という言い方をしています」(TUSK/Vo)
「月と便所」「イスラエル」「どら猫とダンス」などなど、強烈なインパクトを放つタイトル通り、アクの強い楽曲がひしめき合うド派手なアルバムだ。表題曲「ダイレクトテイスト」に象徴されるように、凶暴なサウンドながらもどこかキャッチーで、歌とメロディがすぐに耳馴染んでくる。ハードコア、パンク、ロックンロール……、“何でもアリ”なごった煮具合ながらどこをどう切ってもスラット節、誰にも真似できないこの唯一無二感こそ、紛れもないTHE SLUT BANKSの真骨頂なのである。
「なるべくオリジナリティのある個性的なものにしたいと。そこは毎度考えてることなのですが」(戸城憲夫 DUCK-LEE/Ba)
スピード感のあるアンサンブルに、哀愁メロディと意味深な言葉選びが交錯しながら流れていく「月と便所」でアルバムは幕を開ける。独創的で振り切った歌詞はTUSKの作家性でもあるが、今回はいつになくインパクトがあるものが多い。いろんな意味で“ギリギリ”のような気もするのだが……?!
「歌詞は自分の中で、制約は持った方がよいのかもしれませんが……。今後もそこは対峙していく永遠の課題かもしれませんね(笑)」(TUSK)
暴れまくるベースラインと切り裂くようなギター、スラット流の高速レゲエ調(?)ナンバー「ケチがついてるエブリデイ」。「イスラエル」は語感で選んだ言葉だというが、人を喰ったようなボーカルスタイルも相俟って、どこか皮肉交じりの社会風刺にも聴こえてしまうのはいかにもTUSKらしいところだ。
「HeadAction」「なりふりかまわず」の、意表をついてくる先の読めない楽曲展開も彼らの得意とするところ。こうした綿密なアンサンブルアレンジは、デモの段階で考えているのだろうか。
「『HeadAction』はデモの段階で大体あの構成にしましたけど、『なりふりかまわず』はバンドで試行錯誤しての結果です。デモではありがちなメロコア風(?)だったのですが、バンドで演奏すると時代錯誤でダサすぎたのでいじくりまくりました。なので、最初の雰囲気は全く残ってません(笑)」(戸城)
マスロック風なイントロ、疾走する歌い出し、泣きメロのサビ、空間を支配していくような間奏……緻密なアンサンブルを以っての予想だにしない展開はまさに20年のバンドだからこそ為せる業。
「『なりふりかまわず』はアレンジが二転三転して、ギリギリまでどうなるか? ってな曲でしたが、ライブ映えするかっちょええ曲になった。俺は、“プログレパンク”って言ってます」(TUSK)
そんなバンドアンサンブルの要となっているのがカネタク(Dr)のドラムだ。
「個人的には、メジャー流通だとかを意識しないで、初期のような激しい作品が作りたいなぁ、とは思っておりましたが」(カネタク)
リズム、キレ、手数の多さ……、これまで以上にプレイもサウンドも存在感が増している。彼自身の中に何か変化が起こったのだろうか。
「俺自身の変化というより、エンジニアの変化が大きいですね。個人的には刺激になりましたし、すごくいいことでした」(カネタク)
今作は楽曲の派手さを色濃く押し出すような音像が印象的だ。抜けの良いソリッドなサウンドプロダクトが演奏全体のワイルドさをより強調し、歌はグッと前に出ている。レコーディングエンジニアが変わったことによって、サウンドの質感がこれまでと異なるものになり、制作過程ではメンバー本人たちの意識の変化をももたらしたようだ。とはいえ、なによりもライブバンドとしての活動が現在の4人の屈強なグルーヴを作りあげていることは間違いない。
「みんな、あまり他のメンバーに気を使わなくなりましたね。タケトモさんも馴染んできたし」(カネタク)
2015年、坂下丈朋(参代目ACE DRIVER/Gt)の加入はサウンド、音楽面でバンドに大きく変化を与えた。『ROXY BABY』を聴いたとき、坂下丈朋がTHE SLUT BANKSのギターを弾くとこうなるのかと思った。そして本作を聴いて、THE SLUT BANKSのギタリストが坂下丈朋だとこうなるのかと思った。
「全体を通して、今現在のTHE SLUT BANKSを理解してもらえたら嬉しいです」(坂下)
ライブでの低く構えたギターを豪快にかき鳴らしていくプレイスタイルの印象が強い坂下だが、各楽曲に合わせた多彩なサウンドメイクに器用さを見せている。
「毎度のことですが、本当にレコーディングは楽しいです。今回はエンジニアのケンさんとイメージを膨らませつつ、曲ごとにギターやアンプ、ファズを複数使い分け、イメージに近づけるように作業しました。もちろん、戸城さんチェックもいつものようにビシバシ入り(笑)、……完成に至りました」(坂下)
ベースとの絡みで「原音を拾い損ねると不協和音になるものすごいオーケストレーション」で始まる「イスラエル」、「戸城さんは根っからのThe Baatlesフリークなんで毎回シタールフレーズのアレンジは登場しますね、素晴らしい!!」という「Gohst Town」。そして、「TARGET」のダーティーなリフとファズトーンは丈朋の得意とするところだ。
「その昔からライブでは“丈朋コーナー”として必ずKISSやThe Stoogesのカバー曲をギターボーカルで演奏してきたので、このタイプの曲は嬉しかったです。そのまま僕なりのロン・アシュトンです(笑)」(坂下)
逆に自分のプレイスタイルとは全く異なり、苦労したのはスラット流メタル曲「激しい風穴」だという。
「戸城さんから、バッキングは“ドメタル”で、ジェット(横関敦)みたいに!! との指示でした。僕はヘタクソですしメタルギターは無理なので、ジェットに弾いてもらいたかったのですが、さすがにこのためだけにジェット呼べないだろう……、ってことで、なんとか頑張りました(笑)」(坂下)