『「君の名は。」オーケストラコンサート』12月5日公演レポート

RADWIMPSが『「君の名は。」オーケストラコンサート』で示した映画音楽の新しい形

 『「君の名は。」オーケストラコンサート』が、東京・有楽町の東京国際フォーラム ホールAにて、12月4日と5日に開催された。

 2016年に公開されたアニメーション映画『君の名は。』は、心が入れ替わる不思議な現象に巻き込まれた高校生の男女が、彗星の落下から街の人を救うために奔走し、その過程で心が惹かれあっていく様子を描くラブストーリー。監督は新海誠が務め、劇中の音楽をRADWIMPSが担当している。同イベントは、『君の名は。』の本編映像にあわせて、RADWIMPSと東京フィルハーモニー交響楽団が劇中音楽を演奏するというもの。「前前前世」や「なんでもないや」といった挿入歌や劇中曲が、バンドとオーケストラで演奏された。

RADWIMPS&東京フィルハーモニー交響楽団

 爆音や極音上映など、映画の“音”に着目した取り組みも増えている昨今。映画上映にオーケストラやバンドを組み合わせるイベントは、これまでも様々な映画作品において行われてきた。例えば、映画『ラ・ラ・ランド』とオーケストラを組み合わせた『ラ・ラ・ランド in コンサート』や、映画『サスペリア』と劇中曲を演奏するプログレバンド ゴブリンがコラボしたライブ公演なども行われており、映画ファンの間では人気を博している。ただ、本公演のバンド+オーケストラ+映画上映という組み合わせは新鮮で、今回が4回目の『君の名は。』鑑賞となる筆者も新しい映画を見るような感覚で楽しむことができた。

 ステージ上には、下手にRADWIMPSのバンドセット、上手にオーケストラセット、ステージ後方にスクリーンが設置されていた。オーケストラ公演ならではの厳かな空気が流れる中、RADWIMPSやオーケストラ奏者、指揮者が登壇。<朝、目が覚めると、なぜか泣いている。そういうことが、ときどきある>、<見ていたはずの夢は、いつも思い出せない>、『君の名は。』の主人公 立花瀧(CV:神木隆之介)とヒロイン 宮水三葉(CV:上白石萌音)のモノローグから映画は幕を開け、<美しい眺めだった>という二人の声と二つに分かれる彗星を見上げる三葉の映像が重なったところで、野田洋次郎(Vo)の語りかけるようなボーカルが会場に響き渡るーーバンドサウンドとオーケストラの音が重なり合う、この公演ならではの華々しい演奏でオープニング曲「夢灯籠」は始まった。

 新海誠監督作品は、『秒速5センチメートル』では山崎まさよしの「One more time,One more chance」、『言の葉の庭』では秦 基博の「RAIN」(大江千里のカバー)が、挿入歌として1曲まるまる使用されていた。特徴的なのは、映画の劇伴奏として使うのではなく、楽曲に映画のストーリーを委ねるように、アニメーションや登場人物の台詞と同等に楽曲そのものをフィーチャーして使うこと。今回の『君の名は。』にも過去作と同様のことが言え、RADWIMPSの楽曲は作品の中で重要な役割を担っている。そういう意味では、より臨場感を持って映画音楽や挿入歌を聴くことができる今回の演出は、新海監督作品と相性の良いものと言える。実際、通常の上映以上に音楽が主導権を握っており、歌詞の持つメッセージもより一層伝わりやすいものになっていた。スクリーンに一部の曲の歌詞が映し出されていたのも、そういう点を考慮したのだろう。

 場面が三葉の住む田舎町に移ると、アコースティックギターとストリングスがのどかな風景を表現。三葉が勅使河原克彦(CV:成田凌)と名取早耶香(CV:悠木碧)と学校の校庭で会話するシーンでは、野田のリズミカルなピアノが3人のコミカルな様子を表していた。一方、瀧と入れ替わった三葉が憧れの街だった東京と初対面するシーンでは、彼女の胸の高揚を象徴するかのように壮大なオーケストラが演奏され、さらに瀧のバイトシーンや二人が入れ替わっていることを自覚するシーンなど、ドタバタした日常はバンド+オーケストラで賑やかな情景を表現していた。もちろん「前前前世」も、バイオリンやコントラバスのストリングス、ティンパニーといったオーケストラならではの楽器が参加することで音の厚みが増し、よりダイナミックな演奏に。「前前前世」と一緒に行われる瀧と三葉の軽快なやりとりをはじめ、音楽に臨場感があることで心なしかキャラクターも活き活きしているように感じられた。その逆もしかりで、不穏な空気を感じさせるシーンの緊張感、感傷的な場面の切なさも増長させていた。通常の上映では、台詞やキャラの動きに集中するため、意識的に劇中曲を聴く人は少ないだろう。しかし、生演奏では音楽がダイレクトに届いてくるため、ひとつひとつの楽曲をたっぷり堪能することができる。ここまで表情豊かな楽曲が映画を彩っていたのか、と新しい発見をした観客も多かったはずだ。

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