ぼくのりりっくのぼうよみが問う、音楽表現で大切なもの「クオリティを無視するのは絶対ダメ」

ぼくりりの”音楽至上主義”宣言

 ぼくのりりっくのぼうよみが、11月22日に3rdアルバム『Fruits Decaying』をリリースする。コンセプチュアルだった前作『Noah’s Ark』から一転、“気持ち良い音”を1曲ごとに追求したという今作。SOIL & "PIMP" SESSIONSとの「罠 featuring SOIL&”PIMP”SESSIONS」「たのしいせいかつfeaturing SOIL&”PIMP”SESSIONS」は特に、そうした音楽的な楽しさが表現された楽曲に仕上がっている。

 今回リアルサウンドでは、今作のスタンスにたどり着いた経緯から、音楽の多様性とクオリティについての問題提起まで、熱く語ってもらった。(編集部)

音楽そのものに、もっと接近していこう

ーー前作『Noah’s Ark』は物語性のあるコンセプチュアルなアルバムでしたが、今回の『Fruits Decaying』ではまた変化が感じられて、1曲1曲、音の楽しさや心地よさが強く出た作品になっていますね。

ぼくりり:そうですね、だいぶ変わっちゃいました! 『Noah’s Ark』を作り終えたタイミングのインタビューでお話させてもらったことをそのままやった感じです。4月の赤坂BLITZ、5月の新木場STUDIO COASTでSOIL & "PIMP" SESSIONSと共演させてもらって、自分の曲も生音でやりたいなーとすごく思っていたので、それを実行に移してみました。あとは本当にいつも通りというか、好きな人に好きな曲を作ってもらいました。ひとつの大きな物語というより1曲1曲を、というのはそのとおりです!

ーー今作にも参加しているSOIL & "PIMP" SESSIONSとの共演は、やはり大きかったようですね。

ぼくりり:すごく楽しかったんですよねー。ライブでめちゃめちゃ楽しくやれる曲があってうれしいー!って。ぼく、けっこう音楽について付加価値というか、いろんな要素を付加したいなと思ってたきらいがあって。それで、実際に「物語を付加するぞ」っていうのが『Noah’s Ark』だし、音楽を崇高なものというか、崇拝すべきものだと思っているところがありました。でも、それとはまた別の価値観が自分の中に生まれてきまして、音を楽しむ、という感覚を大事にしたいと思うようになりました。ただ音が気持ちいいなーこれカッコいいなー、っていう感性にすべて委ねて作ってみてもいいのかなと。

ーー音楽を崇高なものだと思っていたのって、いつくらいのことですか?

ぼくりり:めちゃめちゃ最近というか、『Noah’s Ark』を作っていたころもそうですし。でも今は、音楽は大事なものではあるんだけど崇拝する対象とかではないのかな、という感じに変わりました。

ーーその変化は面白いですね。音楽をもう少し、気持ちよさに身を委ねるカジュアルなものとして捉えるようになったという感じですか?

ぼくりり:そうですね。音楽には大いなる目的みたいなものがなきゃいけなくて、逆にそれがない音楽はあんまり……というふうに思っていたんですけど、それが間違っていたと、いうより、「そうじゃない音楽もあるな」ってことで。音楽そのものに、もっと接近していこうかなと思ったんです。

ーー確かに、とても音楽的な作品になっています。特に先行シングルの「罠 featuring SOIL&“PIMP”SESSIONS」は生音がハマったいい曲ですね。日比谷野音ワンマンで、「えっちな曲」と紹介していましたが、とても官能的なサウンドだと思います。

ぼくりり:肉体的な感覚と音楽って、すごいつながりがあるなと思うんですよ。今回は、スタッフの人ととりとめなく喋っていた時に、「『Noah’s Ark』もめっちゃよかったけど、“あなた”とか “君”みたいな言葉が全然出てこないよね」って言われて。なるほど確かにな、と思って意識して作り始めてみたら、それがけっこう面白かったんですよね。いつもの「俯瞰して見てるぜ!!」みたいな感じではなくて、一人称と二人称で組み立てて、という。

ーー確かに、全体として歌の主人公にフォーカスしている感じですよね。

ぼくりり:なんとなくわかりやすさという意味でも、そういうのが面白いんじゃないかなって。俯瞰した曲も作れるし、別にそうじゃなくてもできるよ、という感じで、感情移入しやすいように作ってみました!

ーー前作は最後にニコラ・コンテとの共作曲「after that」が収録されましたが、ラテン的な開放感があり、それが「SKY’s the limit」につながっているように感じます。ただ、ご自身のなかで好きな音、快楽的な音というのは、少しジャズっぽい要素が入っていたり、生っぽいものだったりするのかと。

ぼくりり:そうですね。音としてぼくがすごく心地いいと思うのは、やっぱり明るくキラキラした音っていうより、「罠」とか「たのしいせいかつ」みたいな、どっちかっていうと黒い感じの音で。だから構造上、明るい曲がほしいなーと思って意識的に入れている感じです。「after that」もそうで、ニコラ・コンテさんにたくさんデモをもらったんですけど、普通に黒めのものが多くて。もともとそういうのを期待してオファーしたなかで、一曲だけキラキラしているものがあったんですよね。それがすごくエンディング感があってめっちゃよかったので、わりと想定外でした。本来、好きな音としてはやっぱり、ブラックミュージック寄りですね。

ーーメロウな感じのある、黒い音ですね。本作では、そういう音により近づいたという感じですか?

ぼくりり:そうですね、本当に制限なく、いろんなことをやったので。だからこのアルバムは集大成というより、むしろもっといろいろできるな! と気づく作品になった感じです。

ーー“ぼくりりっぽさ”に対するリスナーの期待も生まれていると思いますが、そのあたりはどうですか? それを裏切ってみよう、とか。

ぼくりり:最初のころから裏切っていこうという意図はめちゃめちゃあったし、実際にいろいろやりすぎているので、みんなが何を期待しているのか、というのがちょっとわからないというか、いろんな人がいるんだろうなと思ってます。例えば、このアルバムでも「SKY’s the  limit」や「for the Babel」なんか全然毛色が違うじゃないですか。

 初期の代表曲は「sub/objective」だったと思うんですけど、今年からぼくを知ってくれた人が期待するのは『3月のライオン』の「Be Noble」かもしれないし、「SKY’s the limit」かもしれないし。だから、あまり特定の期待に応えようという気持ちはないです。特定の方向をガン見しながらやらなくていいようにしたい、というのはあったので、むしろいい感じの流れなのかなと。

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