クラムボン・ミトの『アジテーター・トークス』特別編 内田真礼

内田真礼×クラムボン・ミトが語り合う、歌手と作家における“表現の源”

 クラムボン・ミトによる、一線で活躍するアーティストからその活動を支えるスタッフ、エンジニアまで、音楽に携わる様々な”玄人”とミトによるディープな対話を届ける対談連載『アジテーター・トークス』。今回は番外編として、彼が編曲で参加した『c.o.s.m.o.s』を表題曲としたシングルを10月25日にリリースしたばかりの内田真礼と対談。これまで楽曲への参加やライブを見たことはあったものの、意外にも初顔合わせだったという2人によるトークが実現した。

 内田が表現者として今作で挑戦したことや、自身の歌声の特徴とは? さらに声優アーティストの楽曲を数多く手掛けるミトが分析する、内田真礼のチャームポイントとは。「解放」をテーマに作り上げられていった今回の「c.o.s.m.o.s」に、ミトが込めた意匠などについても訊いた。(編集部)

内田「歌手活動の原動力は『楽しい』に尽きる」 

ーーまずは内田さんとミトさんの関係性について伺います。ミトさんは内田さんの3rdシングル『からっぽカプセル』のカップリング曲「Life is like a sunny day」で初めてベースとして参加、1stアルバム『PENKI』「わたしのステージ」でもベースを担当していますが、お会いするのは意外にも今日が初めてということで。

内田真礼:そうなんです! お会いできて嬉しいです。

ミト:黒須(克彦)くんも(山本)陽介もZAQも曲を書いていたりと、共通の知り合いが多いし、僕も楽器録りで参加したんですけど、自分の作業場で完結させることも多いので。あと内田さんも参加している『アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ』のライブとかでも、金子有希さんや高森奈津美さんに曲を書いている縁でお伺いしてるんですけど、なにせあの人数なのでニアミスが続いていて(笑)。

ーーミトさんは声優アーティストの楽曲を数多く手掛けていますが、内田さんの歌声についてはどのような印象をお持ちですか?

ミト:初めて歌声を聴いたのはアニメ『悪魔のリドル』のオープニング(1stシングル「創傷イノセンス」)で、ほかにもテレビやイベントで見ていたり、この対談の前にも改めて楽曲を聴き込んだりライブを見たりしたんですが、パフォーマンスについては「すごいな」という一言に尽きるというか。

ーーもう少し詳しくお願いします(笑)!

ミト:ミュージシャンではない人が、2時間前後のショーをやりきるのって、思った以上に大変ですよ。歌うことはソロ活動以外にも色々あったと思うんですけど、曲のバリエーションなども含め、歌手活動をここまで長くやることは想定してましたか?

内田:正直、最初はアルバムを1枚出して、1stライブをやって終わりかなと思っていました。今回6枚目のシングルを出すことになったのも、なんだか不思議な感じです。もしかしたら求められずに終わってしまうかもしれないし、自分が変わってしまうかもしれないとか色んなことを考えていたんですけど、継続して歌えているのは、とにかく楽しいと思えたからです。最近気付いたんですが、この活動の原動力は「楽しい」に尽きるんですよね。

ミト:歌と舞台の声って、発声的にも違うじゃないですか。スタミナもスキルも運も必要でしょうし、喉を壊す方も多いですから。でも、今年の夏の野音公演(『UCHIDA MAAYA LIVE 2017「 +INTERSECT♡SUMMER+」』)を見ていても、大変さを全く感じさせないんですよね。イメージとして風通しが良いというか、抜けが良いというか。それって結構珍しいことで、普通はどうしてもその人の影みたいなものが意識しなくても出たり、演出に組み込んだりしがちじゃないですか。だから逆に、ここまで気持ちいいライブができるのはなぜなのか知りたいですね。

内田:単独ライブ自体はまだ3回しかできてなくて、1stライブ『UCHIDA MAAYA 1st LIVE「Hello, 1st contact!」』のときはずっと斜め上を見ているというか、中野サンプラザの2階が視線の先だったくらい緊張していたんです。でも、その後に色んなイベントやリリースを経て、バンドメンバーやスタッフさんとの仲をぎゅっと固めたら、大きいベッドで歌っているみたいに、安心して委ねられるようになったんです。次第に自分も周りを見られるようになって、代々木(国立代々木競技場 第一体育館)での2ndライブ『UCHIDA MAAYA 2nd LIVE「Smiling Spiral」』では嬉しさや幸せという感情を出せるようになりました。

ミト「その人の持つチャームを最大限に出したい」

ミト:なるほど。で、歌声の魅力ですよね。これは完全にフェチ発言になるんですけど……。

内田:ええー! 何ですか(笑)!

ミト:「語尾周りを音程感なく歌える」というのが内田さんの特徴だと思っていて。少しセリフっぽくなる歌い方って、上手くできる人ととそうでない人がいるんです。内田さんの場合はそれができているうえに、どこかフランクに聴かせる要素があって。それが「c.o.s.m.o.s.」でボーカルをチョップしようと思った理由の一つなんです。

内田:へえー! そうなんですね!

ミト:歌ってくれる人が持ってるキャラクターのオリジナリティを活かしたいというタイプなので、感情や表情を大切にしているんです。たまにそれをやりすぎて色んな人に怒られることもあるんですけど……(笑)。

内田:すごく時間が掛かったとは聞きましたが、そういうことだったんですね(笑)。

ミト:ブレスの部分をピンポイントで抜いたり、語尾の裏に返ったところを突いたりとか、何というか、すごくいやらしい作り方をしていて。

ーーご本人に「変態」呼ばわりされたこと(参考:花澤香菜 × 北川勝利 × 山内真治が語る、4thシーズンの集大成 「UKを今のチームで切り取った」)もありましたね(笑)。

ミト:でも、それは自分がそういうキャラクターやオリジナリティ、その人の持つチャームを最大限に出したいと思うからなんです。なので、今回は語尾のフッと上がる感じが魅力的だったので、サビ終わりの間奏にボーカルチョップして入れてるんです。なんというか、ピッチに頼らないチャームがあるんですよね。スケールアウトしていても気にならないし、聴き手にとっては気持ちよく届く声で。最初はレコーディングしたOKテイクのなかから、そんな箇所がどれだけあるかを探すところから始まりました(笑)。

内田:すごい! それってかなり果てしない作業じゃないですか?

ミト:いや、OKテイクだけだったので、そこまでではないですよ。そうじゃないものも含めて精査することはできますけど、流石にそれはやり過ぎだと怒られることもあるので。

内田:怒られたこともあったんですね。変態と言われる理由が分かった気がします(笑)。

ミト:変態と言われることで糧を得られるタイプの人間なので大丈夫です(笑)。

ーー内田さんはミトさんの分析を受けて、自身の声についてどう思いますか?

内田:私が思う自分の声の特徴は、聴いていて楽しいなと思えるところだと感じています。最近のライブで何が出せているかを考えると、何かに集中して音を届けるというよりは、「やったー!」とか「わーい!」みたいな表現をする瞬間の音に、すべてが乗っかっているような感覚です。悲しいのではなく、嬉しい、ハッピーな要素が声に含まれているのかもしれないなと思っています。

ミト:「創傷イノセンス」みたいにエッジの立っている曲でも、思い詰めた感じがしなくて、抜けが良いんですよね。

内田:最初の頃はその特徴がわからなくて、周りのスタッフさんから「もっと明るく、いつもの内田さんで」と言われたのを覚えています。みんなが知っている声優・内田真礼として、どんな声を乗せればいいのかわからなくて。スタッフさんのアドバイスも受けながら、思い詰めたりするような感情を隠して歌っていたのが、気付いたら自分の色になっていました。そこから『ギミー!レボリューション』(2ndシングル)や『からっぽカプセル』(3rdシングル)をリリースするなかで、「自分の歌声にはみんなとハッピーになれる要素があるな」と思い始め、ライブでそれが確信に変わりました。

ミト:シングルを順に追っていくと、ハッピーな要素をうまく抽出しようとしている作品が多くなってきているんですよね。

内田:プロデューサーの冨田明宏さんがそういう流れを作ってくれているのも大きいですね。この3年、多くの作品で「自分はいまこういう気持ち」とか「これからこうしたい」という気持ちをしっかり形にしてもらいました。例えば、前作(5thシングル『+INTERSECT+』)と今作は4カ月しか開いてないんですけど、その間にも自分の気持ちは変わっていて、その些細な変化にも気付いてくれるんです。

ミト:なるほど。僕もなんとなくそんな感じはしていたからこそ、今回の「c.o.s.m.o.s.」を編曲することになったとき、そのイメージとは真逆の依頼が来て驚いたんです。

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