『絶対、大丈夫 ~15thアニバーサリーツアーとドラマ~』
森山直太朗が15周年で追求した“表現”とは 『絶対、大丈夫』ツアーとドラマ、劇場公演から考える
劇場公演『あの城』で改めて立ち返った“表現するということ”
全国ツアー終了後に行われた約5年ぶりの劇場公演『あの城』(本多劇場/9月14日~10月1日)もきわめて大きな意味を持っていた。音楽ライブだけでは伝えきれない表現への取り組みとして始まった森山の劇場公演は、『森の人』(2005年)、『とある物語』(2012年)に続いて3作目。今回も過去2作と同様、作・演出を森山の楽曲の共同制作者である詩人の御徒町凧が手がけ、劇中で歌われる楽曲の詞曲を森山と御徒町が担当した。
『あの城』で描かれるのは、敵国に侵略されて“あの城”から逃げてきた、幼い王子とその取り巻きたちの物語だ。「いつかは城に戻りたい」と願いながら国境近くの森の奥で野営を続けているが、食料も底をつき、生活を共にする人々の関係に微妙な影が差し始める。彼らは敵国と戦う覚悟を決めて城に戻るべきなのか、王子を守るために逃亡を続けるべきかという決断を迫られるのだが、逡巡しているうちに“あの城”が敵国によって燃やされてしまう。
“幸せとは何か?”“自分とは何者なのか?”という根源的なテーマと「Que sera sera」「雨だけど雨だから」「生きる(って言い切る)」といった劇中で歌われる楽曲が共鳴し合い、ストーリーがさらに深まっていく。これこそが直太朗の劇場公演の醍醐味だ。この公演のために書き下ろされた楽曲も興味深く、特にカントリーをベースにした「糧」、自己存在を巡るテーゼを正面から描いた「自分が自分でないみたい」などは、森山・御徒町のソングライティングチームの本質をはっきりと照らしていた。公演前のインタビューで「劇場公演はそもそも、コンサートやツアーでやりきれなかったことを表現する場所だったんです。つまり音楽から派生したものだったんですけど、今回はそこに立ち返ろうと思った」と語っていた直太朗だが、『あの城』は“なぜ音楽という表現を追求しているのか?”という根本と向き合う機会でもあったのだろう。
結果的に森山直太朗の“この先”を提示することになった全国ツアーの最終公演を記録した映像作品『絶対、大丈夫 ~15thアニバーサリーツアーとドラマ~』、そして、表現の本質を抉り出した劇場公演『あの城』。ふたつの作品によって直太朗は現在の立ち位置と進むべき道を見い出せたのではないだろうか。15周年のアニバーサリーを経て生み出される森山直太朗の新しい歌を楽しみに待ちたいと思う。
■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。
■リリース情報
『絶対、大丈夫 ~15thアニバーサリーツアーとドラマ~』
発売:10月25日(水)
Blu-ray¥5,500+税
DVD(2枚組)¥5,000円+税
<収録内容>
●15thアニバーサリーツアー『絶対、大丈夫』ツアーファイナル@NHKホール(2017.7.29)
01. 嗚呼
02. 魂、それはあいつからの贈り物
03. 夕暮れの代弁者
04. 太陽
05. 風花
06. フォークは僕に優しく語りかけてくる友達
07. 夏の終わり
08. うんこ
09. どうしてそのシャツ選んだの
10. 生きてることが辛いなら
11. とは
12. 金色の空
13. 星屑のセレナーデ
14. よく虫が死んでいる
15. 坂の途中の病院
16. 今が人生
17. 君は五番目の季節
18. どこもかしこも駐車場
19. さくら(独唱)
20. 12月(2016 ver.)
21. 絶対、大丈夫
22. 花
●ドラマ『絶対、大丈夫』
森山直太朗、御徒町凧、土屋隆俊監督によるオーディオコメンタリー収録
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