fhána、3rdアルバムに向けた変化と挑戦 3人のコンポーザーが互いに与え合う影響とは?
紅一点のボーカル。そして彼女を囲む三人のサウンド・クリエイターたち。この特殊なバンド形態もさることながら、その活動の中心をアニソン・J-POPシーンとし、海外展開への意欲も見せる。この野心的なプロジェクトを誰が無視していられるだろうか。
8月2日に発売した最新シングル『Hello!My World!!』は、現在のこのグループの勢いを端的に示す痛快な一曲だ。スピード、展開量、歌詞からサウンドまであらゆる面でダイナミックなエネルギーに満ちている。表題曲は佐藤純一、カップリングの「君の住む街」はyuxuki waga、「reaching for the cities」はkevin mitsunagaが、それぞれ作曲を担当。fhánaを支える3人のコンポーザーの三者三様の制作スタイルと、現在のモードについて語ってもらった。(荻原梓)
「変化に富んだ曲を”作ろう”という意志に基づいて曲作りをした」(佐藤)
ーーfhánaはこれまで未来についてはずっと歌ってきたことだと思いますけども、ここまで強いと言いますか、曲調もとても速かったり、シンコペーションを多用したり、”前へ前へ”な作りというのは、アニメ『ナイツ&マジック』に寄せていった結果なのか、それともバンドの現在の状況や今後を見据えた結果なのか、まずは聞かせてください。
佐藤:その両方かな。fhánaのタイアップの曲は、完全にアニメ側のオーダーだけで作っているわけでも、自分たちの作りたいものだけを作っているわけでもなくて、アニメ作品に対して自分たちのやりたいことやモードであったりを掛け合わせて作っています。バンドとしては、3回目のツアー(『Looking for the World Atlas Tour 2017』)を終えたところで、ツアーを通してメンバーもお客さんも成長していくような、そういう手応えがあって。それを経て、いまは結構ポジティブでオープンなモードになっているんです。アルバムを2枚作って、ワンマンツアーを3回やって、今はもっと直接的にお客さんに喜んでもらいたい、聴いてくれた人がハッピーになってもらいたい、ポジティブな変化を与えたい、そういうモードになっていて。
ーー今“ポジティブ”というワードが出ましたけども、今回は曲がとても速いですよね。事前にメトロノームで確認したら、BPMは倍速になる箇所で280を超えました。ここまで速い曲って、今までのfhánaになかったですよね。
佐藤:毎回、新しい曲を出す度に「今回速いね」なんて話したりしているけど、曲の速さ云々はそこまで重要ではなくて。今回は“速さ”というよりも、“変化”をつけたいと思って作った曲でもあったんです。一曲を通してもそうだし、アニメのオープニングで流れる89秒の間でも変化に富んだ楽曲にしたいなと思って作りました。例えば、「ワンダーステラ」も変化に富んだ曲ではあったけど、あの曲はフルバージョンを作り終わってみたら結果的に“こうなっちゃった”という感じだったんです。今回の「Hello!My World!!」は、最初から変化に富んだ曲を“作ろう”という意志に基づいて曲作りをしました。
ーー「青空のラプソディ」にしても、転調させたり展開を多くして色々な要素をギュッと詰め込む手法は、今のfhánaのモードなのでしょうか?
佐藤:“高密度に色んな展開を一曲の中に盛り込む”のが、fhána全体のモードというわけではないです。そもそも今回の主題歌は「divine intervention」のパート2みたいな、「四つ打ちのバトルもので熱い曲」というオーダーがあったんですね。それで、そういう感じで最初は作ろうと思っていたけど、僕たちとしては常に新しいことをやっていきたいし、もうちょっと攻めた面白いものを作りたくて。面白いことに対する挑戦みたいな意識が、ポジティブなエネルギーに繋がればいいなと。
ーー意図的に面白いことをやろうとした、その具体的なポイントはどのあたりになるでしょう?
yuxuki:まず、Bメロがないんですよね。普通に作るとテンプレみたいな構成になってしまう。やっぱり、テレビで流れる89秒間でどれだけできるかを考えて、そこに詰め込むものを逆算していくとテンポが速くなったりとか、展開が増えていったり。
ーーいわゆるJ-POPの「A→B→サビ」という展開ではなく、この曲を聞くと「A→サビ→サビ→サビ……」のような印象を抱きます。
佐藤:Bが無くて、Bにあたる箇所に間奏が来て、サビは二段階ある。サビがもう一段階盛り上がるパターン自体はよくありますけど、一段階目と二段階目でボリュームが変わらなくて「どっちがサビだったんだろう?」みたいな(笑)。
yuxuki:Bメロが無くて間奏になっているっていうのは面白いですよね。
ーーしかもその間奏はEDMの”ドロップ”のような作りですよね。
yuxuki:普通は(Bメロを無くすだけなら)、Aメロからサビに行くんですよね。なぜかそこに間奏が入るっていうのが面白い。
佐藤:アニメで使われることを考えると、オープニングの映像が曲に合わせた作りになるので、展開の多い曲調に対してどんなアニメーションが作られるのかも意識しています。
ーー今回、編曲にA-beeさんを起用しています。fhánaとして外部のアレンジャーを入れるのは初めての試みですよね。
佐藤:今までストリングスアレンジをアレンジャーに依頼することはあったけど、打ち込みの部分で他の人とコラボしたことはなかったので、このタイミングでトラックメイカーさんとコラボしてみるのもいいんじゃないかなと。
ーー結果、独特の“チャラさ”のようなイメージがバンドに加わった印象があります。
佐藤:ある意味、突き抜けたかったんですよね。それが“チャラさ”に繋がっているのかも。「青空のラプソディ」もある意味ディスコとかソウルの方向に突き抜けていたけど、自分たちだけで作るとシリアスだったり格好つけ過ぎちゃったり、抑えてしまうので、それを解放させる切っ掛けが欲しかったんです。
kevin:それにはA-beeさんが得意とするEDMっぽい音が必要で。
佐藤:作業自体は、フル尺の構成を送って「過剰に多めに音を作ってください」とお願いしました。A-beeさんにはリミックスみたいなものを作っていただいて、バンドはバンドでアレンジを進めて、最後に二つをつなぎ合わせる行程です。
ーーなるほど。いわゆるキャッチボール的なやり取りではなく、両者でビルドアップさせたものを最後にくっ付ける方法ですね。
佐藤:そうです。ただ、作ってもらったものを全部使うわけではなくて、そこからある種素材として、こちらで取捨選択して組み合わせたいので「多めに色んな音を作って欲しい」というお願いをしました。例えば、サビ前のハンドクラップはA-beeさんが作っていただいたものなんですけど、メンバーだけなら絶対に思い付かない発想でした。