ものんくる、CRCK/LCKSらの新作と『TOKYO LAB 2017』に見る、日本の若手ジャズ奏者の充実
さて、この日登場したミュージシャンの新譜が、6月と7月に立て続けにリリースされた。ここではそれらをざっと振り返り、TOKYO LAB2017に来られなかった読者にもレコメンドしてみたい。
まず、MAY INOUE『STEREO CHAMP』。類家心平(Tp)、渡辺ショータ(Key)、山本連(Ba)、福森康(Dr)という、井上銘が絶対的な信頼を寄せる実力派たちを集め録音されたアルバムで、演奏の充実ぶりもさることながら、音響的にもかなり実験的なことをやっている印象。ロックフェスでも闘えるバンドにしたい、という井上の言葉の通り、闘志むきだしでガッツあふれる演奏はTOKYO LAB2017でも目立っていた。
続いてその井上銘と石若駿が在籍するCRCK/LCKSの6曲入りEP『Lighter』。今回紹介したバンドの中ではもっともロック/ポップス色が強いバンドで、ボーカルは小田朋美。小田はDC/PRGのメンバーであり、ceroのサポートとしても活躍する才媛。5月にリリースされた2ndソロアルバムも傑作だった。本作は小田の表情豊かなボーカルに拮抗するように、演奏もヒートアップ。レコーディングは一発録音だったそうだが、それゆえの勢いと衝動に満ちあふれている。
同じく井上銘と石若駿、そして黒田卓也も参加したのがものんくるの『世界はここにしかないって上手に言って』。ものんくるは菊地成孔のプロデュースで菊地のレーベル、<TABOO>からアルバムをリリースしているユニット。メンバーはボーカルの吉田沙良と先述のT.O.C BANDにも参加した角田隆太で、洗練されたうたものを聴かせる。JTNC的に言うなら、グレッチェン・パーラトやベッカ・スティーヴンスへの日本からのアンサーといった趣もあるが、吉田のボーカルは彼女らより躍動的でダイナミック。新作はボーカルの説得力がさらに増している感じだ。
最後にT.O.C BANDで存在感を発揮していた松下マサナオが在籍するYasei Collective『Fine Products』。ジャズ、エレクトロ、ロック、ヒップホップなどを混交したエクレクティックなサウンドは、マーク・ジュリアナとブラッド・メルドーのユニット、メリアナにも通じる。実際、マーク・ジュリアナとは共演歴もあり、両者が国境を超えてシンクロしていることを実感させる。アルバムの聴きどころはやはり松下の変幻自在のプレイだろう。
ちなみに、この原稿を書いている7月11日、エスペランサ・スポルディングやceroやクリスチャン・スコットとも共演するシンガー/トロンボーン奏者、コーリー・キングのライブをコットンクラブで見ることができた。このライブには、以前からコーリーと交流の深い黒田卓也と石若駿が参加。こんな風に連日、優れた日本人ジャズマンのライブを観られるのが当たり前になった状況を喜ばしく思う。日本のジャズの未来は明るい。そう断言して本稿を締めくくろうと思う。
■土佐有明
ライター。『ミュージック・マガジン』、『レコード・コレクターズ』、『CDジャーナル』、『テレビブロス』、『東京新聞』、『CINRA.NET』、『MARQUEE』、『ラティーナ』などに、音楽評、演劇評、書評を執筆中。大森靖子が好き。ツイッターアカウントは@ariaketosa