LOVE PSYCHEDELICO NAOKIが語る、“理想の音”を追求する制作スタイル「匿名性を大切に」

デリコが追求する“理想の音”

 LOVE PSYCHEDELICOのニューアルバム『LOVE YOUR LOVE』は、KUMI、NAOKIが声を揃えて“いままでとは違う、新しい手触りの作品になった”というアルバムに仕上がっている。そのポイントは「Good Times,Bad Times」で手にした新たなソングライティングのスタイル、そして、レコ―ディングからミックスまで、ほぼすべての工程をふたりだけでやり切ったことだ。

 前回のKUMIに続き、今回はNAOKIにインタビュー。「Good Times,Bad Times」から始まったニューアルバム『LOVE YOUR LOVE』を軸にしながら、“いい音”に対する考え方、自己を投影するよりも匿名性を重視した楽曲制作、アルバムのタイトルに込めたメッセージなど、幅広い話題についてじっくりと語ってもらった。(森朋之)

「ミックスでカッコつけちゃうみたいな工程を取っ払ってみたくなった」

ーーニューアルバム『LOVE YOUR LOVE』は、LOVE PSYCHEDELICOの新たな音楽表現が提示された素晴らしい作品だと思います。NAOKIさんもかなり手応えを感じているのでは?

NAOKI:うーん、自分では手応えとかまだわかんないね。できたばっかりだから。

ーーあ、そうですか?

NAOKI:うん(笑)。ただ、アルバムっていう山を頑張って登ってる感じはキャリアと共にだんだんなくなってきたかな。スタジオにずっとこもって作ってたし、乗り越えなくちゃいけない何かは曲ごとにあるんだけど、アルバムが完成しても「登り切った」という達成感はなくて。「そういうことではないのかも」って、最近思い始めてるんだよね。

ーー「そういうことではない」というのは?

NAOKI:俺の生き方がどうとか、私の叫びを聞いてくれとか、そういう表現も素敵だけれど、いまの自分たちはそうじゃなくて。ここ数年感じてきたもの、思い付いたものが、たまたま自分の身体を通って外に出ているという感じなんだよね。アルバムを作り終わった翌日にはまた新しいことを思い付くんだけど、それは締め切りに間に合わないから入れられないじゃない? だから“ここからここまで”という期間を切り取っただけなんだよね、自分にとってアルバムって。

ーー前作『IN THIS BEAUTIFUL WORLD』以降の4年間を切り取ったのが、今回のアルバムであると。

NAOKI:特に今回はそういう感じがするんだよね。KUMIから聞いたと思うけど、ミックスを自分たちでやったのも大きいかもね。ミックスって、レコーディングで積み上げたものをもっとカッコよくする、あるいは商品にするために隅々まできれいにトリートメントするという意識が、この業界的にはどうしてもあって。それは自分たちだけじゃなくて、多かれ少なかれそういう意識でみんなミックスやってると思うんだけど、今回は「それって本当に必要なのかな」というところから始まったんだよね。ミックスでカッコつけちゃうみたいな工程を取っ払ってみたくなったというのかな。だから「自分たちでミックスをやった」ということが大事なんじゃなくて、「エンジニアを入れて、最後の仕上げをやる」ということをやめたことが大きいんだと思う。

ーーふたりで作り上げた音楽をなるべくそのままの状態で届けるというか。

NAOKI:いい音で録ってるんだから、それをそのまま出せばいいじゃんっていう。ジョン・レノンの「Instant Karma! (We All Shine On)」という曲があるんだけど、あの曲は一晩でパッと作ったらしいんだよね。ジョンはエンジニアが何となくバランスを取っただけのラフミックスを持って帰ったんだけど、「いい感じだだから、ミックスしないでそのままリリースする」って言い出して。おそらくエンジニアは「それはラフだから、しっかりミックスさせてほしい」と言ったと思うんだけど、ジョンはホントにそのまま出しちゃったんだよ。だから「Instant Karma! (We All Shine On)」は、いま聴いてもプリミティブなんだよね。いまの我々の業界は、そういうことが起こりづらくなってるんじゃないかな。とにかくヒューマンエラーを減らそうとしているというか、レコーディングをしていると「いまの箇所はピッチが甘くない?」と言い出す人もいるし、「このままだとハイがきつすぎて商品として聴きづらいから調整するね」と言う人もいる。そういうことが必要だという考え方もわかるけど、自分たちは「そんなの要らないじゃん」と思ったんだよ。もちろん、ノイズ処理やテクニカルな部分でのミックス作業はちゃんとやってるけど、レコーディングの延長でやってるラフミックスを、いつもよりちょっと丁寧にやったという感じかな。

ーーいい音の基準は聴き手によっても違うし、再生システムによっても左右されますが、このアルバムの音は素晴らしいと思います。すごく生々しいし、楽曲の良さもしっかり伝わってきて。

NAOKI:よかった。好きな音って自分たちの物差しでしかないし、それをそのまま出すのは大きな決断だったから。そういうやり方だったから、仕上げた感覚、作り上げた感じがないんだよね。“手放す”という意味のリリースに近いかな。

ーー曲を作り始めたときはどんなモードだったんですか?

NAOKI:意識的に新しいものを作ろうという感覚はなかったんだけど、自分たちのターニングポイントしては「Good Times,Bad Times」を作ったことが大きかった。これもKUMIが話したと思うけど、あの曲ができたとき、いままでに経験してない何かを感じたんだよね。リフに頼らないというのか……。ほら、ロックって大きく分けると2種類あるでしょ。ひとつは、リフと歌の呼吸でできてる曲。「(I Can't Get No) Satisfaction」(ローリング・ストーンズ)だったり、僕らの曲でいうと「Everybody needs somobody」がそうだよね。もうひとつはジョン・レノンの「(Just Like) Starting Over」とか、ロイ・オービソンの「Only The Lonely」みたいに、“コードとメロディ、あとは色気”というロックもあるじゃない? 前者は音のダイナミクスやビートが醍醐味でーーもちろん、それもロックの重要は表現だよね。後者は楽器の強弱よりもアンサンブルやメロディ、コードでグッとくるというか。自分たちはずっとリフを中心にした曲をやってきて、コードとメロディで聴かせるようなロックの味わいを作品にフィードバックできなかったんだよ。でも、「Good Times~」は違ったんだよね。まさに“コードとメロディ、あとは雰囲気”みたいな曲だから。

ーーLOVE PSYCHDELICOにとって、新しい感覚の楽曲だったと。

NAOKI:そう。あの曲ができたことで「やり尽くしそうになってたけど、こういう曲に出会えたのなら、まだまだいろんなことがやれるかも」と思えたから。その後で制作した「Love Is All Around」「This Moment」にもそういう香りがあったしね。KUMIとは「『Good Times』以降」という言い方をしていたんだけど、あの感覚を忘れちゃいけないという意識はあったかも。「Good Times~」はたわいもない歌モノなんだけど、自分たちにとってはすごく誇れる曲だし、今回のアルバムもあの曲から始まった気はするね。

ーーソングライティングの幅が広がったかもしれないですね。

NAOKI:そうだね。自分たちがいちばん影響を受けているであろう、ローリング・ストーンズやレッド・ツェッペリンみたいな感じだけではなくて、ちょっとスタイルが変わってきたのかも。「ジェフ・リンみたいな曲を東京で鳴らせたらいいだろうな」という気持ちもあったけど、今回のアルバムに入ってる「You’ll Find Out」はそういう雰囲気もあるしね。

ーーメロディにもすごく深みがありますからね。KUMIさんの歌もさらに際立っていると思うんですが、NAOKIさんはどう感じてますか?

NAOKI:KUMIの歌はいつもいいので、僕は何も考えなくていいんですよ(笑)。歌詞は相談しながら作っているし、僕が書いたり、KUMIが書いたり、お互いに書いたものを合体させることもあるけど、ポップスやロックって、歌が良くないとダメでしょ? どんなにいいメロディや歌詞があっても、それを表現するのはボーカリストだから。それはテクニックだけじゃなくて、大事なものをキャッチするアンテナみたいなものも必要だし、僕が口出しすることは何もないんです。と言いながら口出しするんだけど(笑)、僕にはまったく届かない領域もあるから。歌に関しては、楽しみしているだけです(笑)。

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