KOHHの音楽はなぜ感情を強烈に揺さぶる? ライブの熱量や演出から考察

KOHHの音楽はなぜ感情を強烈に揺さぶる?

「今楽しい、今が最高だと思う人、どんぐらいいます? 昨日よりも明日よりも今この時間一番楽しめてる人、どんぐらいいます???」

 KOHHの音楽はなぜ人々の感情を強烈に揺さぶるのか。その理由が全編に凝縮されているようなステージだった。昨年は全国14カ所で行なった『KOHH“DIRT”TOUR』を経て、宇多田ヒカルやフランク・オーシャンら国内外のトップ・アーティストの作品に客演。ヒップホップ界を越えてますます存在感を増しているKOHHが、3月からはじまったツアー『KOHH LIVE’17 Powered by BM inc.』の東京公演を4月2日に行なった。ツアータイトルそのまま、彼の最新モードを伝えるライブだ。

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 昨年以降、KOHHを取り巻く熱気の広がりについては、ヒップホップ・シーン以外の様々な場所で目にする機会が多々あった。例えば、初出場となった『FUJI ROCK FESTIVAL ‘16』では楽曲ごとに会場が異様な熱気に包まれ、ステージを終える頃には会場で2番目の規模を誇るホワイト・ステージが完全に彼のホームと化していた。また、TeddyLoidのリリース・パーティーが行なわれたエレクトロ系のクラブに飛び入りし、会場の注目を一気にさらう様子を観たこともある。どんな場所に登場しても、その場を一瞬で彼の色に染め上げる。それができるのはやはり、彼が持つ圧倒的なカリスマ性ゆえだ。満を持してのホームでのライブとなるこの日も、登場からすごかった。ライブDJを務める理貴が重低音のビートを鳴らすと、突如ステージにフルカスタマイズされた高級車、テスラーが乗り入れ、観客の大歓声が巻き起こる中、KOHHが登場。「Living in」や「Dogs」を経て、カート・コバーンら夭逝のロック・レジェンドからの影響を取り込んだ3作目『DIRT』の収録曲「Living Legend」で「暴れろ!!!!」と絶叫すると、フロアは一気に沸点を突破して早くもピークが訪れたかのような盛り上がりを見せる。

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 KOHHのライブを観ていると、溢れ出した感情にノーガードのままひたすら殴られているような感覚になることがある。そして、全編通してステージの前方ギリギリに立ち、時には客席にダイブして観客との距離を詰めるそのステージングからもうかがえる通り、KOHH自身も完全にノーガード。その姿に応えるように、『MONOCHROME』収録の「Fuck Swag」では観客もKOHHとともに中指を突き立てて曲のフックを合唱。続く「貧乏なんて気にしない」でも最初のバースから大合唱が巻き起こり、かなり早い段階でステージ上と客席の間の距離が消滅していく。もちろん、トラップを基調にしたトラックや、トラヴィス・スコットやヤング・サグといったUSラッパーたちとも肩を並べるオリジナリティ溢れるフロウに彼の個性を見出すこともできるだろう。けれども、そのライブにおいて最も観客の心を揺さぶっているのは、何よりもパフォーマンスに込められた強烈なまでの「感情」。その姿はまるで、10年代の日本に現われたカート・コバーンのようだ。と同時に、この日印象的だったのは、ワンマンにもかかわらずヒップホップ・リスナーにとどまらない客層の幅広さが感じられたこと。中にはおおよそヒップホップを聴きそうにない観客の姿もあり、彼の音楽の広がりを象徴するようだった。

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 その後は、「ほんとは今日、Dutch Montanaも来てくれる予定だったんですけど、色々あって来れないんで、Skype繋いでもいいですか?」とステージ奥のスクリーンにとある映像を投影した「Dirt Boys」や、KOHHの名を世界に知らしめるきっかけとなったキース・エイプの「It G Ma」、そしてLOOTAと披露した「My Last Heart Break」(宇多田ヒカルの「SAKURAドロップス」がサンプリングされている)を経て、以降もYanoを迎えた『YELLOW TAPE 4』収録曲「カリフォルニアにいる(Remix)」やAKLOとの「New Days Move Remix」、香港から駆け付けた5lackとの「24365 feat. KOHH」など、気心の知れた仲間や豪華ゲストが次々に登場。「飛行機」では観客が誰もいないフロアでライブをしていたこと、運送屋のバイトをしながらラッパーを目指していたことを振り返る。以降はY'S、YTG、Yanoと「結局地元」を披露すると、冒頭に引用したMCに繋ぎ、「俺も今が最高です」と一言。『DIRT』収録の「Now」と『DIRT Ⅱ』収録の「Hate Me」でステージを終えた。

 ちなみに、アンコールは昨年12月にリリースした最新ミックステープ『YELLOW T△PE 4』のトラックリストにひっかけたユーモア。すぐさまアンコールを求める観客の手拍子が鳴り響く中、KOHH不在のステージに照明がつくと、ライブ開始時からずっとステージ上に置かれていたテスラ―の扉がふたたび開き、KOHHの弟・LIL KOHHが登場。あっけにとられた観客が驚きの声を上げる中、ライブの締めとして『YELLOW T△PE 4』のラストトラック「浮気」を歌い上げた。最後をシリアスにし過ぎない、KOHHの遊び心が感じられた瞬間だ。

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 ここ数年、KOHHの活躍に向けられるリスナーの言葉の中に「売れろ!」というものがある。これは「もっと遠い場所まで行って、俺たちにまだ見たことのない景色を見せてくれ」ということで、多くのリスナーが彼の活躍に希望を託していることの表われなのだろう。そして彼が一切妥協を許さず、リアルなままでそのスターダムを駆け上がろうとしていることは、「Hate Me」で観客を置き去りにするようにステージを去っていく姿からもひしひしと伝わってきた。今回のツアーでのライブは残すところあと1回。4月15日に渋谷WWW Xで行なわれる追加公演だけとなる。今の彼のヤバさは、絶対に体験しておいたほうがいい。

(写真=Ray Otabe)

■杉山 仁
乙女座B型。07年より音楽ライターとして活動を始め、『Hard To Explain』~『CROSSBEAT』編集部を経て、現在はフリーランスのライター/編集者として活動中。2015年より、音楽サイト『CARELESS CRITIC』もはじめました。こちらもチェックしてもらえると嬉しいです。

■ライブ情報
『LIVE ’17 Powered by BM Inc. 東京追加公演』
2017年4月15日(土)渋谷WWW X
OPEN18:15/START19:00

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