兵庫慎司の「ロックの余談Z」 第15回
the pillowsから始まり、Theピーズまで ベテランバンドが“バトン”を繋いで日本武道館に立つ意義
で、Theピーズの番になるわけだが。THE COLLECTORSまではまだわかるが、ピーズやるの!?と驚いた方は多かったのではないか。基本的にオールスタンディング志向で、イスありの会場では日比谷野音と中野サンプラザぐらい、ごく限られた回数しかやってこなかったバンドだし、メジャー・ブレイクとか大会場を目指すこととかに背を向けた活動をしてきた人たちだし、「武道館でワンマンをやった」という勲章などほしがりそうにないし。
と、少なくとも僕は思っていたので、昨年12月、武道館ワンマンが発表になる直前に「武道館やるのでその特設サイトに推薦文みたいなのを書いてください」と、マネージャーから依頼があった時は、本当に驚いた。
その後、マネージャーとはること大木温之に、どのように決まったのか話を訊いたところ、初めてTheピーズとして下北沢屋根裏でライブをやった日からぴったり30年後のこの日に、日本武道館をとれたことから始まったそうだ。
そもそも日本武道館という会場は、多くの日が武道関係の催しで埋まっていたり(あたりまえだけど。武道館なんだから)、空いている日も抽選制だったりして、狙った日に武道館を押さえることは難しい。でもその日が抽選に出たので、エントリーしてみたら当選してしまったという。なお、マネージャーもライブ制作担当者も、その日じゃなければ武道館をやるつもりはなかったそうだ。
で、6月9日が取れてしまったことを告げられたはるは、悩んだ末に「これはやった方がいいってことだろう」と腹をくくったという。先の4バンドと比べると発表から開催までの日が短いなどの不安要素はあるが、これもまた全国各地で応援態勢が取られながら、当日へ向かっている。4月30日の『ARABAKI ROCK FEST.17』では、「Theピーズ30周年スペシャル」が開催され、the pillowsや怒髪天やフラカンやTHE COLLECTORSのメンバー、奥田民生、The Birthdayのクハラカズユキ、トータス松本、TOMOVSKY、YO-KING、SHISHAMOの宮崎朝子がステージに上がる。
というこの一連のベテランバンドたちによる日本武道館の流れ、その中にいる人たちは熱くなっているが、外から見ると「なんなのこれ?」というものだろうなあ、という自覚はある。なので、これがいったいなんなのか、最後に改めて考えてみる。
まず、ビートルズ来日の昔から、日本武道館というのはロック・バンドにとって、「大きなハコ」というだけではない、特別な意味を持つ会場である。で、そんな日本ロックシーンにおける武道館は、デビューから5年以内くらいのバンドの目標としての、あるいはもっと大きくなっていく時の通過点として設定されるものであって、10年も20年もやっていてそこに立てないバンドは一生立てない場所だった。というか、そもそも武道館に立てないような規模のセールス・動員なのに、10年も20年もプロとして活動していくこと(つまりバンドで食っていくこと)自体が、20世紀まではほぼ不可能だった。
が、バンドの活動の軸が音源制作からライブ活動に移って、年間100本レベルで全国のライブハウスを回りながらサバイブしていくバンドが増えていったり、ロックを聴く絶対数が増えてライブ人口が増加したり、お客の年齢層が広がって大人になってもライブに通うライフスタイルが浸透したりしたことによって、そのあたりが変わり始めた、というバックボーンが、まずある。
そして、そもそもここを埋められるほどの動員力は持っていなくても、そして恒常的にここでワンマンを行うことは無理でも、長く活動してきた末の周年のお祭りとして、一回でいいから日本武道館ワンマンをやりたい、それならみんな来てくれるし、みんな応援してくれるーーというメモリアルな場所としての意味を、21世紀になって日本武道館が新たに持ち始めた、ということだ。
それから。ここがかなり大きい気がするのだが、そのように、ブレイクせずとも長くしつこく根気よくやり続けているバンドが好きな人にとって……いや、ちょっと待て。違うぞ。ブレイクしなくても長くしつこくやり続けているから好きなわけじゃないぞ、俺は。好きになったバンドがたまたまそうだったんだ、俺が好きになるバンドはどれもそういう将来を辿りがちなんだ、なんでだろう……って、自問自答してもしょうがないが、とにかく、そういうバンドを好きで応援してきた人々にとっては、彼らが日の当たる大きな場所に立つ、というのは、本当にうれしいことなのだ、おそらく。だから応援したくなるのだ。
これ、もちろんファンにとってもそうだけど、音楽業界やライブ業界の関係者に、特に多いという実感がある。つまり、そんなバンドを武道館に立たせる側の人たちに共通するメンタリティである、ということだ。「ことだ」って、力いっぱい自分もそうなわけだが。
Theピーズのあとに誰が続くのかは、まだ発表になっていないし、知らない。知らないが、可能性があるとしたら、たとえばSA、もしくはSCOOBIE DOあたりではないかと、僕は予想している。
ただ、SCOOBIE DOはまだ若いよな、もうちょっと歳とってからやった方がいいよな、と思っていたのですが、もう結成22年なんですね。the pillowsがやった時の、山中さわおの年齢を超えているんですね。そうか。
■兵庫慎司(ひょうご・しんじ)
1968年生まれ。音楽などのライター。1991年に株式会社ロッキング・オンに入社、2015年4月に退社、フリーに。「リアルサウンド」「RO69」「ROCKIN’ON JAPAN」「SPA!」などに寄稿中。フラワーカンパニーズとの共著『消えぞこない メンバーチェンジなし! 活動休止なし! ヒット曲なし! のバンドが結成26年で日本武道館ワンマンライブにたどりつく話』(リットーミュージック)が発売中。