レジーのJ-POP鳥瞰図 第17回

フェス至上主義は終わりを迎えるか? パスピエ、SHISHAMOが挑む“フェスの外”へのアプローチ

「フェス至上主義」の次を見据えて

 『&DNA』に至るまでパスピエは時期に応じてオーディエンスとの向き合い方を細かに調整しており、『わたし開花したわ』のリリースあたりでは「ポスト相対性理論」と解説されることもあった(今となってはだいぶ距離があるが)。そんな彼らの足跡を振り返った時、現状のロックシーンにおけるポジションを確保するきっかけになったと言えるのが2013年のフルアルバム『演出家出演』である。「ライブ」「フェス」における「盛り上がり」を明確に意識したこのアルバムと、それまでよりも派手なアクションを取り入れるようになったライブパフォーマンスによって、パスピエは一躍ロックファンの注目を集める存在となった。

 『演出家出演』がリリースされた2013年と言えば、ちょうど「四つ打ちロック」というような呼称が使われ始めたタイミングでもある。音楽産業全体のライブへのシフト、フェス型興行の隆盛、ロックフェスを「(音楽をじっくり聴きに行くというよりは)音楽を介して友達と盛り上がれる場所」と捉える音楽ファンの拡大、バンドの人気を表すバロメーターとしての「夏フェスでは入場規制!」というキャッチコピーの定着……様々な要素が絡み合う中でロックバンドにとって「フェスで支持を得ること」が必須となり、それぞれのバンドがフェスという場への適応を進めていった。その結果として、「速いBPM」「バスドラムの四つ打ちとハイハットの組み合わせ」といった特徴に代表される「ロックフェスで機能するバンドサウンド」のテイストが形成されていった。

 こういった「四つ打ちロック」は、2017年前半時点でもいまだ健在である。一方で、一時はシーン全体の潮流のように語られていたこのムーブメントは、あくまでも「バンドの一つのあり方」として再定義されてきている印象がある。たとえば、前述のパスピエやUNISON SQUARE GARDENなどが「盛り上がりを重視するライブやフェスの場」に対して明確な懸念を表明するなど、シーンの内部からの批評的なアクションが活発になった(実際にこれらのバンドはサウンド面でも「盛り上げるための音楽」という流れに回収されないようなトライを継続的に行っている)。また、お茶の間での知名度と人気を得た2015年のゲスの極み乙女。やオリコン1位を昨年初めて獲得した[Alexandros]など、「フェスの人気者」を飛び越えていくロックバンドの存在がシーン全体に多様性の風を吹かせた。さらに、今年に入って「フェス」「四つ打ち」といった流れとは何ら関係のないところからSuchmosが大きなヒットを飛ばした。こういった動きが各所で進む中で、「四つ打ちロック」というものの立ち位置は徐々に相対化されていっているように思える。

 2017年以降も「ライブ」や「フェス」がロックを楽しむ空間として重要な場所であることは間違いない。また、そこに「みんなで盛り上がりたい」人たちが集う構造も当面は変わらないと想定される。ただ、久々に多くのヒット曲が生まれた2016年を経て、音楽というエンターテインメントはフェスの場に閉じないレベルで世の中に波及する力を持ったものであることが改めて証明された。「四つ打ちでフェスを盛り上げる」ことはロックバンドの人気の獲得方法の一つではあるが、そこに必ずしも拘泥しなくても良い時代がもうまもなく訪れるはずである。「フェスでオーディエンスを盛り上げる」以外のルートの顕在化は、「盛り上げる」とは異なることをやりたいロックバンドに対して大きな希望を与えるかもしれない。

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