『TOKYO MUSIC ODYSSEY 2017』特集第5弾

“音楽×映像”はライブ体験をどう拡張する? DAOKO、Kezzardrix、backspacetokyoに訊く

「“野良”感覚でできるイベントが浸透している」(清水基)

ーー 近年ではVRやARなどこれまで利用が難しかった映像技術が製品化され身近な存在になりつつあります。映像制作の視点から、今後の技術で皆さんが注目しているものはありますか?

Kezzardrix:Kinect(マイクロソフト発売の、ジェスチャーや音声認識によって操作ができるデバイス)を使うと人の骨格のデータが取れるんですけど、Kinectを使わなくても普通に撮った動画から人間の骨だけをディープラーニングで引っ張ってこれる技術があって。そうするともうセンサーカメラさえも使う必要がなく、むしろ物理的にセンサーカメラでは撮れないところからでも骨の映像が引っ張り出せるんですよね。

比嘉:VRもそのひとつですが、モーショントラッキングのように物の位置を解析する手法はたくさんありますが、物にタグを付けて、そこに向かってレーザーを飛ばすことでトラッキングできて3Dの位置が取れるという技術も最近出てきて。映像の世界では、今までは速度と精度を両立させることがすごく難しく、カメラの台数をたくさん用意しなければいけなかったり、場所としても制限がかかることが多かった。そういう問題をカバーしてくれる技術なんじゃないかなあと思って注目しています。

Kezzardrix:あとは、フレームレートが最大1000fpsで出せる高速プロジェクターですね。映像解析では、ハイスピードカメラを使えば、リアルタイムでほぼ同じスピードで解析ができるようになってきたんです。でも、そこに映像を打つ速さがまだまだ足りてなくて、絶対にズレが生じるんですよ。それが1000fpsのプロジェクターを使えば、どんなに対象が揺れても映像がピタッと当たってずれない。今あげた技術はまだ商品化されていなくて、僕たちみたいな実際にプログラミングなどやっている人間にしかその凄さが伝わらないかもしれないんですが(笑)、実は映像制作にも使えるアイデアで、すごく気になってますね。

ーー 今後試したい映像演出はありますか?

Kezzardrix:お客さんをグルっと囲む設定で映像をやってみたいですね。一回だけやったことがあるんですが。

比嘉:プラネタリウムとか面白そうだね。360度囲むのはまだまだ深められそう。

Kezzardrix:2013年に『あいちトリエンナーレ』という愛知の国際芸術祭で、駐車場の真ん中にプロジェクター5台置いて、お客さんを囲んで映像を打つことをやったことがあります。でも、僕がトラスの上にプロジェクタを置いて合わせているので、セッティングが荒々しいというか(笑)。それをもう少し整った環境でチャレンジしたいなと思います。360度映像に囲まれると、耳の後ろ辺りを凄いスピードで映像が通り過ぎる時に、目の前の映像を見ているのとは全然違う感覚を感じられるんですよ。展示ではできるんですが、ライブイベントでそれを上手く使っている例というのは、あまり見たことがないので興味がありますね。360度映像に囲まれた状態で、音も合わせて流せると、おそらく気持ちがよく、かつ面白いことができそうです。

比嘉:今はまだ周辺視野がほとんど無かったりしますので、もうちょっと視野を広げられれば体験的に面白いと思います。今までだと、コンピューターの中で物を動かすことは簡単だったんですけど、現実の世界では難しかった。VRのヘッドセットをかぶると、擬似的ですけれど自分の目で見た物理的な空間が動かせる体験が、すごく簡単にできるようになっている気がします。

backspacetokyo

Kezzardrix:来場者全員に配れるほどのVRヘッドセットが確保できれば(笑)。比嘉さんは昔、赤青の3Dメガネを配ってVJやってませんでした?

比嘉:懐かしいですね。2010年くらいに、自作楽器のようなアプリを作ってライブパフォーマンスすることが何度かあって、グラフィックも音も出せるプログラムを組んで赤青メガネをかけると立体に見えて、みたいなこともやったことはありますよ。

ーー 音楽と映像のクリエイターがコラボするイベントは今後どう進化していくとお考えですか?

比嘉:イベント自体は増えていってほしいですね。ですが、実際は映像を使うイベントとなるとそれなりにコストがかかりますからね。なので、実際に増えるかと聞かれると、どうなんでしょうか。オリンピックまでは増えていくんですかね?

Kezzardrix:一度、映像系のイベントがガッと増えた時期がありました。特に『映像作家100人』(ビー・エヌ・エヌ新社)という書籍ともコラボしていたイベントが開催されて盛り上がった時がありましたね。石澤秀次郎さん(『映像作家100人』の編集に携わる)が主催していたそのイベント『REPUBLIC』(2008年〜2012年)以降は、何十組も呼んで夕方から明け方までやるような大きな規模の物はあまり無い印象がありますが、最近はDMM VR THEATERでの『VRDG+H』や、今回の『TOKYO MUSIC ODYSSEY』のようなイベントが出てきて、以前とは違った意味合いを持つイベントが増えたように感じます。

清水:昔、IAMAS(情報科学芸術大学院大学)がある岐阜県大垣の駅前の小さな空き部屋に、機材を持ち込んで実験的なことを試すイベントやってたんですが、そういう感覚で始まるイベントが最近だと身近なところでも増えた気がします。より“野良”感覚でのイベントが浸透しているんじゃないででしょうか。小規模なイベントが増えて細分化していくのは、コミュニティとして成熟している証なのではと感じます。

(取材・文=ジェイ・コウガミ/撮影=竹内洋平)

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■イベント情報
『SOUND&VISION』
2017年3月3日(金)東京都 WWW X
OPEN 18:00/START 19:00
<出演者>
きのこ帝国×MITCH NAKANO、DAOKO×Kezzardrix+backspacetokyo、HIFANA×GRVJ
<上映/VR体験ブース>
「behind the scene-宇多田ヒカル30代はほどほど。」
「illion × SPACE SHOWER TV『Told U So』ステーションID」3DVR ver.

■関連リンク
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Kezzardrixオフィシャルサイト
backspacetokyoオフィシャルサイト
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