書籍『誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち』特別企画

tofubeats×ジェイ・コウガミ、名著『誰が音楽をタダにした?』を語る 音楽はネット時代にどう生き抜くか

 

“インターネットの時代”にキュレーションはなぜ重要か

ジェイ:配信やストリーミングは、アーティストも今後の活動について、特にインターネットとの接し方について考え始めるきっかけになったと思います。配信やSpotify、Apple Musicなどが始まったことで、今大切なことや、リスナーが求めていることを改めて考え直したり、あるいは新しく考えなくてはいけない。今はその過度期にあり、今後はその考えを実際の行動に移す人も、多く出てくるのではないでしょうか。

tofubeats:制作だけではなく、宣伝や曲をどう届けるのかというフォーマットの部分を見る力も大事ですよね。作るのと売るのは全く別の話で、この本の中だと、リル・ウェインのミックステープは、制作と宣伝の両方が時代に噛み合ったからこそ広がっていった。フリーで曲を配るという決意が乗っかった作品をちゃんと作ったわけですから。やっぱりタダでもらえたとしても、まずいものはいらないじゃないですか。

ジェイ:これまでは、ミックステープがグラミー賞の対象にならないというのも、その典型的な例ですよね。チャンス・ザ・ラッパーはすごくいい作品を作っているけど、音楽シーンがまだ彼についていけていない。そこが音楽のジレンマだとも思います。ミュージシャンが「こういうふうに曲を売りたい、届けたい」という意志を持っていても、そのための環境が整っていないということは今もあったりしますよね。また、トレント(ファイル)という文化が浸透した結果、「音楽はタダでネットからとってくるもの」と考えてる人も多くいます。そのシステムと戦っているのがSpotifyや音楽ストリーミングです。CDが昔から売る方法や流通の仕方が変わらない一方で、海賊版は、インターネットの恩恵も受けて音楽を進化させていってる。そこに音楽ストリーミングが介入し、定額を払うことで合法で正規の音楽を聴いてもらうシステムを作ったことは、自然な流れだったと思います。なので、インターネットの可能性やポテンシャルを引き出すことで、さらに音楽を進化させていく人は今後増えてくるのではないでしょうか。ネットとともに、自分のキャリアや音楽を取り巻く環境をどういう方向に引っ張っていくのか、というのが、今後の肝になっていく。たとえば、ロンドンにはすでに面白いことをやっているミュージシャンがたくさんいます。SoundCloudを見ていると、自分のプロフィールとして音源を公開しているアーティストや、それをピックアップしているDJもいる。ネットでそういった活動をし続けている人たちは、同じネットの中からいい音楽を見つけてくる。そういうサイクルが確立している印象があります。

 

tofubeats:キュレーションってことですよね。DJのように、元々あるものを自分のフィルターで並べ直してユーザーに提供するやり方は、インターネット的だと思います。サブスクライブって、検索をしないと出てこない。自分がぶつかりたいアーティストが、スマホの一画面分しか出てこなくて、あとは検索履歴から自動的にサジェスティングしてくれる。中古CD屋で100円のCDを適当に買ってみるという楽しみ方が難しくて、そこが自分的には引っかかっている部分です。逆に、いきなりフランスのチャートを聴けるという面白さはあるんですけど。でも、そういう時にDJという存在が大事だと思います。僕は、2016年はレーベルの年だったと思ってるんですよ。レコードをリリースする人も増え、レーベル独自のカラーを持ちながら、リリースを続けているところの存在感がさらに際立っていくし、信用も増していく。それはレーベルがDJやキュレーションという役割も担っているからだと思います。

ジェイ:キュレーションが重要になるというのはその通りだと思います。その精度をどう上げていくのか、誰がどういうタイミングでキュレーションするのか……今後、様々な角度から実験を繰り返し、いろんなパターンが開発されるのではないでしょうか。ストリーミングには、レコード屋でジャケ買いをしたり、中古CD屋の100円の棚で探すという行為ができません。でも、そもそも、そういった行為も含めて音楽体験や音楽の聴き方だと思うので。

tofubeats:実際に身体を動かして音楽を求めてるわけですからね。僕はサブスクライブが広がることによって、音楽との接し方が二極化されるんじゃないかと思っていて。というのは、サブスクライブには1曲ごとの単価がないので、わざわざ全部買わなくていいし、適当に選んだ曲を聴いてもいい。そういう楽しみ方ができる一方で、自分で調べたものしか出てこないという側面もあるので、特定の場所に固まっていく人も出てくる。つまり、サブスクライブを使って多方面に広がっていく人と、一箇所に固まっていく人で二極化していくんじゃないかと思うんです。正直、DJのキュレーションなんていらない、って言う人のほうが現状だと多いと思うんですよ。これしか聴かないという人のほうが増えてしまったら、サブスクライブよりもYouTubeで聴くほうが簡単だから、サブスクライブごと衰退していく未来も考えられる。一概には言えないですが、僕個人の感覚としては、日本の音楽リスナーは新しいものを求めていないのではないかと、この一年で実感しました。なので、その二極化というところも含め、今後サブスクライブがどう受け入れられて広がっていくのか、あるいは衰退していくのか、興味深いですよね。

 

ジェイ:今後も日本のリスナーは独特な文化を培っていくという展開も想定できますよね。必ずしも世界と同じ波長になるかというと、まだわからない。また、こういったITサービスを提供する側は、ユーザーの需要にアジャストしていく宿命でもあるので。ただ、そこに、より広がりを求める人、「これしか聴かない」ではなく、「それ以外のものを聴きたい」と求めた時に、いろんな音楽を提案できる仕組みを作っておくということが大切だと思います。

tofubeats:音楽は、多様性を知ることのできる一番身近なものだと思ってるので、やっぱりいろんな音楽があったほうがいい。チャートも、いろんな基準、いろんな文化が織り混ざっていたほうがいいなと思うので、広がっていくほうで成功するように上手に使っていければいいですよね。

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