『岩里祐穂 presents Ms.リリシスト〜トークセッション vol.2』

岩里祐穂 × 松井五郎が語り合う、作詞の極意 「女性が書く詞には“強さ”がある」

おわりに

 

岩里:特定のアーティストの作品を長く作り続けることもあります。松井さんは玉置浩二さんなど、そういった方々との距離感はどのようにとっていますか?

松井:もちろん仲良くはしたいんですけど、あんまりプライベートなことも含めて距離感が近くならないようにはしています。結局、乱暴な言い方をすれば、僕らは雇われている身じゃないですか。変な話、松井五郎がいなければ岩里祐穂がいるっていう世界。その中でなるべく役に立つように努力しているわけで。もちろん自分の能力にも限界はあるので、相性というか「他の作家の方とやったほうがもしかしたらこの人にはいいかもしれない」と思う時もあるんです。ただ、そうやって別の作家と組んでそのアーティストが曲を作った時に、逆に自分のポジションというか役割みたいなものがすごくわかることがあって。

岩里:ありますね。

松井:氷室京介君とはずっともう何十年とやってきて、お互いこうきたらこう行くみたいなことがわかってくると、やっぱりちょっとマンネリ化してくる。彼がよく使う言葉の中で「鳴る」という言い方があって、「この言葉が鳴る」という風に使うんですけど、自分が歌っていてその歌詞を歌った時に「自分の中でちょっと鳴らないんだよな」ということがありました。そういった時に、森雪之丞さんや松本隆さんの詞を見て「ここ欲しかったんだ、こういうことを彼は望んでたんだな」ということがわかったりして。逆にそのあとチームとしての自分の役割みたいなことがはっきりしたんです。だから僕がすごく恵まれていたのは、玉置浩二にしてもそうだし、そういう作詞家の良い意味でのライバルや先生がいたこと。中島みゆきさんがいたり、井上陽水さんがいたり、いつも自分にとってのハードルや刺激が近くにあったんですよ。ですからそうやって長い時間一緒にやっていくアーティストとの出会いは1対1の関係なんだけど、それプラスプロデューサーもいれば、そういう他の作家もいて、という環境の中で自分の立ち位置を見つけていきましたね。

岩里:氷室京介さんに森雪之丞さんが書かれた詞を見て、「僕だと浮かばないゴージャスなファッションの世界があって、こちらから攻めてきたのか」と感じて、そこで考えて、松井さんはどちらに行かれたんでしたっけ?

松井:雪之丞さんが書いた詞を見た時、「これはオートクチュールだな」と。表現の美しさや語彙の独自性は凄いと思った。これは同じような方向で追いかけていっても雪之丞さんには敵わないなと。素晴らしいですからね。だったらもう裏原宿に行こうと思ったんですよ。当時の流行として、メインストリームにはデザイナーズブランドのようなものが原宿でも軒を並べてましたけど、一方で裏原宿と呼ばれるところでは古着やフィギュア、アニメなどのサブカルが少しずつ発展していて。僕はそっちに行こうと思ったんです。もともとバンドの頃の氷室君はストリートのに匂いがするアーティストでした。いい意味でそういうところがあって、布袋寅泰さんなんかもそうですけど、あの頃みんなで集まってBOØWYを初めてやった頃の荒削りな感じがいくつになってもどこかに残っている。いかに着飾っても剥いでいけば結局TシャツとGパン1枚だった、みたいな。そこはすごく自分が表現すべきところだなと感じました。

岩里:他の作詞家さんが書くことによってまた自分の違う方向性が見えてくることはありますよね。今井美樹さんの昨年のアルバムに初めていしわたり淳治さんが3曲書かかれていて。私はもう25年以上書いてきましたが、シンガーソングライターの川江美奈子さんが10年前くらいから参加して。布袋さんが書く曲以外はほとんど、私と美奈子ちゃんという、世代の違う女性作家2人で美樹ちゃんを支えてきたんですね。でも、いしわたりさんが書かれた詞はこれまでとは違う外側からの視点のものでした。バスに乗った女性を客観的に描写する、そんな視点でドラマが進んでいくのですが。私の詞はいつも主人公の思いから話が始まる、つまり内側から書いていたというか。外側からの視点が足りなかったことに気づかされて、とても刺激になりました。

松井:なんとなく作家とアーティストって変な意味ではなく独特の感情があって、ずっと恋をしてるみたいな感じじゃないですか。そこに別の要素が入ってきた時、「あいつとこんな良い曲作りやがって」みたいな(笑)。そこも含めてこの仕事の面白さがありますよね。

岩里:やめられないですね。

松井:僕らって極端に言うと、遊女のような立場のわけですよ(笑)。結局製作者やアーティスト、シンガーソングライターたちが興味があれば使ってくれるし、いつ捨てられてもおかしくない。だから「こいつとじゃなきゃこの歌は歌えない」と思っていただけるように、必死になっていい詞を作るんです。

(取材・文=久蔵千恵/写真=池田真理)

『岩里祐穂 presents Ms.リリシスト~トークセッション』アーカイブ

【第1回】:岩里祐穂×高橋久美子、名曲の作詞エピソード語り合う「新しいものは“違和感”から生まれる」

岩里祐穂『作詞のことば 作詞家どうし、話してみたら』

■書籍情報
『作詞のことば 作詞家どうし、話してみたら』
著者:岩里祐穂
11月28日(水)発売
発行・発売:blueprint
ISBN:978-4-909852-00-7 C0073

価格:2,000円+税
判型・頁:四六判・256頁

全国書店/岩里祐穂公式サイトAmazonなどで販売中

 

■リリース情報
『Ms.リリシスト~岩里祐穂作詞生活35周年Anniversary Album~』
2CD+120P(予定)スペシャルブックレット
価格:¥3,334+税
発売日:2016年5月25日(水)

<収録曲>
[DISC1]
01. PIECE OF MY WISH / 今井美樹【1991.7.11】
作曲 : 上田知華 編曲 : 佐藤準
Single : TBS 系ドラマ「あしたがあるから」主題歌

02. サラバ、愛しき悲しみたちよ / ももいろクローバー Z【2012.11.21】
作曲・編曲 : 布袋寅泰
Single : 日本テレビ系ドラマ「悪夢ちゃん」主題歌

03. うつし絵 / 新垣結衣【2009.5.27】
作曲 : クボケンジ 編曲 : 松岡モトキ
Single : 日本テレビ系水曜ドラマ「アイシテル~海容(かいよう)~」挿入歌

04. 幸せになるために / 中山美穂【1993.4.21】
作曲・編曲 : 日向敏文
Single : NHK 連続テレビ小説「ええにょぼ」主題歌

05. How? / 深田恭子【2000.7.19】
作曲 : 織田哲郎 編曲 : 葉山たけし
Single : 映画「死者の学園祭」主題歌

06. MESSAGE / 上戸彩【2004.3.3】
作曲 : HAL 編曲 : Sin
Single : ニベア花王「8×4」CMソング

07. Love is Changing / 西田ひかる【1997.8.20】
作曲 : 久保田利伸 編曲 : 安部潤
Single : フジテレビ系アニメ「烈火の炎」エンディングテーマ

08. 抱きしめたい / 崎谷健次郎【1995.9.21】
作曲・編曲 : 崎谷健次郎
Single

09. Skinny / 中川勝彦【1985.5.25】
作曲・編曲 : 白井良明
Single

10. 夜に傷ついて / アン・ルイス【1992.5.21】
作曲 : 中崎英也 編曲 : 土橋安騎夫
Single

11. つかのまの虹でも / May J.【2014.9.10】
作曲 : 板垣裕介 編曲 : Jun Tanaka
Single「本当の恋」c/w: テレビ朝日系全国放送「musicるTV」ミリオン連発音楽作家塾第1弾ソング

12. アイサレ / 矢野まき【2007.4.29】
作曲・編曲 : 寺岡呼人
Album「BIRTH」収録

13. 冬のめぐり逢い / ル・クプル【1997.7.18】
作曲・編曲 : 日向敏文
Album「Another Season」収録

14. 想いびと / 城南海【2015.11.4】
作曲 : 吉俣良 編曲 : ただすけ
Album「尊々加那志~トウトガナシ」収録

15. 愛をとめないで~Always Loving You~ / 新妻聖子【2007.7.18】
作曲・編曲 : 佐藤直紀
Single : NHK 木曜時代劇「陽炎の辻~居眠り磐音 江戸双紙~」主題歌

16. Come Rain Come Shine / 布袋寅泰【2013.2.6】
作曲・編曲 : 布袋寅泰
Album「COME RAIN COME SHINE」収録

[DISC2]
01. プラチナ / 坂本真綾【1999.10.21】
作曲・編曲 : 菅野よう子
Single : NHK-BS2 アニメ「カードキャプターさくら」オープニングテーマ

02. 創聖のアクエリオン / AKINO【2005.4.27】
作曲・編曲 : 菅野よう子
Single : テレビ東京系アニメ「創聖のアクエリオン」オープニングテーマ

03. ノーザンクロス / シェリル・ノーム starring May’n【2008.8.20】
作曲・編曲 : 菅野よう子
Single「Lion」c/w : MBS・TBS 系 TVアニメ「マクロスF(フォロンティア)」エンディングテーマ

04. ドリドリ / 中川翔子【2015.2.18】
作曲 : 鈴木健太朗 編曲 : 黒須克彦
Single : テレビ東京系アニメ「ポケットモンスター XY」エンディングテーマ

05. ロッタラロッタラ / Buono!【2008.11.21】
作曲 : 井上慎二郎 編曲 : 西川進
Single : TV 東京系アニメ「しゅごキャラ!! どきっ」エンディングテーマ

06. 恋する惑星 / 花澤香菜【2013.12.25】
作曲・編曲 : 北川勝利 Strings Arrange : 長谷泰宏
Single

07. マーブル/ 中島愛【2012.8.1】
作曲・編曲 : Rasmas Faber
Single : TVアニメ「輪廻のラグランジェseason2」OPテーマ

08. ライヴ/ 唐沢美帆【2001.9.5】
作曲・編曲 : 島野聡 Strings Arrange : 村山達哉
Single : TBS 系「世界ふしぎ発見!」エンディングテーマ

09. THE REAL FOLK BLUES / 山根麻衣【1998.6.3】
作曲・編曲 : 菅野よう子
Album『COWBOY BEBOP VITAMINLESS』収録 : テレビ東京系「Cowboy Bebop」エンディングテーマ

10. さよならの物語 / 堀ちえみ【1983.1.21】
作曲 : 岩里未央 編曲 : 鷺巣詩郎
Single

11. SHOCK! / 宇沙美ゆかり【1984.6.21】
作曲・編曲 : 後藤次利
Single

12. そうしましょうね / 森尾由美【1985.9.21】
作曲 : 網倉一也 編曲 : 萩田光雄
Single

13. ティラノザウルスロック / 生稲晃子【1988.11.21】
作曲・編曲 : 後藤次利
Album「『生稲』De-Dance」収録

14. さよならの風 / 新田恵利【1988.11.21】
作曲 : 高橋研 編曲 : 山川恵津子
Single

15. ダーリン今をせめないで / 早見優【1985.5.1】
作曲 : 馬場孝幸 編曲 : 伊藤銀次
Album「WOW!」収録

16. 初戀 / さんみゅ~【2014.8.6】
作曲 : Gajin 編曲 : 佐久間誠
Album「未来地図」収録

17. 海賊戦隊ゴーカイジャー/ 松原剛志(Project.R)【2011.3.2】
作曲 : 持田裕輔 編曲 : Project.R(籠島裕昌)
Single : テレビ朝日系「海賊戦隊ゴーカイジャー」オープニングテーマ

全作詞 : 岩里祐穂
(DISC1 Tr-4 岩里祐穂・中山美穂 / DISC2 Tr-3 岩里祐穂・Gabriela Robin /
DISC2 Tr-4 中川翔子・岩里祐穂)

※【】内はオリジナルリリース日

岩里祐穂オフィシャルサイト

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